2020年10月15日木曜日

辻村深月(作家)            ・物語が現実を救ってくれる

辻村深月(作家)            ・物語が現実を救ってくれる 

山梨県出身の辻村さんは千葉大学教育学部卒業後、2004年に「冷たい校舎の時は止まる」でデビュー、2012年に鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞を受賞、2018年に「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞しています。

「朝が来る」河瀨直美監督、原作者 辻村深月  公開延期になっていましたが、ようやく皆さんに見ていただくことになり楽しみにしています。

ラストシーンを多くの方に見ていただきたという気持ちで小説を書き終えて、しばらくして河瀨直美監督から映画化したいという話があり吃驚しました。

この作品は不妊治療、特別養子縁組など非常に難しいテーマになっています。  テーマは文芸春秋の担当者が書いてほしいテーマがあると言って持ってきました。  資料をたくさんいただいて書きたいと思いました。  2歳の子供がいたので、想像力を伸ばせる作家になってきたんじゃないかと思いました。  特別養子縁組については資料と私が調べてゆく中で驚くことが沢山ありました。

特別養子縁組については先入観感を持っていたことに気づきました。

小学校に上がる前に話してゆくと、自分はそうやって生まれてきたんだという事がわかると同時に、まだ感性の柔らかいころに、あなたにはほかにもお母さんがいるという風に欠けるのではなく増えるという認識で話をされている家がほとんどでした。

人間が書けているといわれている時って、人の負の感情、どろどろしているものとか、嫉妬とかそういうものが書かれていると人間がよく書かれているといわれてしまう傾向が強いが、実はそうではなくて誰かを愛する気持ちだったり信じる気持ちだったり、欠けるのではなく増えるという考え方も実際なのも本当の人間の姿ではないかなと思いました。

血が繋がらないからこそ、その相手を迎え入れて家族になるという事はどういうことなのかというのを描ければと思って飛び込んでみました。

取材の中で特別養子縁組をしている団体について調べたんですが、この制度は子供が親を見つけるための制度ですということが書かれていたことが印象的でした。

知らせることによって親も覚悟を決めるというか、自然なこととして受け入れていくために必要な過程だと思いました。

河瀨直美監督に脚本を書いていただいて、脚本が詩みたいな感じがして凄い感性の持ち主だと思いました。

試写を一緒に見てエンドロールの最後の言葉を聞いた瞬間に涙が出てきて、明るくなって監督と抱き合いました。

子供のころから本が兎に角大好きでした。  学校にいくようになって図書室の本を全部読めるかと思うとはしゃぎました。  心がワクワクするという事がジャンルとしてミステリーでした。

将来本の向こう側で仕事をする人になりたいと思うようになりました。 小説を読めるんだったら書くこともできるのではないかと思って小学校3,4年生の時に書いてみました。

中学ぐらいになると気の合う友達が読んでくれるようになり、高校では続きが読みたいと言ってくれるようになりました。  ひょっとしたらプロになれるのではないかと思いました。

デビュー作の「冷たい校舎の時は止まる」は高校3年生に途中まで書いたものがもとになっています。   進学校の受験のセンター試験があるころの子たちが主人公になっています。  

小さいころからミステリーが大好きで、小学校6年生の時に綾辻行人さんの『十角館の殺人』を読んで衝撃を受けて以来大ファンとなりました。  綾辻さんに何度もファンレターを送り、編集部の厚意で綾辻本人と手紙やメールを交わす間柄になりました。  

大学4年生の時に就職活動が嫌でそのストレスから書き始めて冷たい校舎の時は止まる」を完成させました。  第31回メフィスト賞を受賞しました。(受賞の連絡は綾辻さんから電話がありました。)

それから10年15年経って、作家であり続けることが綾辻さんへの恩返しだと思っています。

2012年に鍵のない夢を見る』で直木賞、2018年に「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞しました。   デビューから17年目になりました。

候補になりながらも落ちたりしましたが、落ち込みながらも編集者が一緒に走ってくれました。

受賞が終わった後はちょっと怖くもありました。

デビュー作以後大人を描いて来ましたが、原点に戻って又書いたのが「かがみの孤城」でした。

「冷たい校舎の時は止まる」に対する答えみたいなものを自分が今回書けたような気がして、その作品が評価されたというのが凄くうれしかったです。 

「冷たい校舎の時は止まる」では自分自身がまだ子供で、「かがみの孤城」を書く時には大人になっていて、作中の子供たちを書きながらその子たちが困難にぶつかったときに、「大人がごめんね」というようになりました。  ふがいない大人だけれど頼ってほしいという気持ちが出てきました。

多感な時期の子に自分の本が寄り添えていたとしたら凄く嬉しいと思います。

40代の私も今の私が聞いたら驚くようなことに興味が延ばせたらいいなあと思っていて、過去の自分を驚かせるようなものを何作も書いていけたらいいなあと思います。