2018年8月28日火曜日

國中 均(宇宙科学研究所所長)      ・日本型宇宙探査 

國中 均(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所所長) ・日本型宇宙探査 
日本の小惑星探査機はやぶさ2号は目的地であるリュウグウに到達していよいよ探査を始める。
小惑星は地球から3億km以上離れたはるか遠くにあります。
探査機が地球と小惑星との間を往復できるのは、イオンエンジンという新しいエンジンが積まれているからです。
このイオンエンジンを手にしたことで日本の宇宙探査が大きく変わろうとしています。
イオンエンジンの開発者、今年4月宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所所長に就任した國中 均(58歳)に日本型宇宙探査と題して伺いました。

小惑星探査機はやぶさ2号が6月27日にリュウグウに到着できました。
打ち上げたのは2014年12月、3年半かけて到達しました。
この部分は読める部分です。(出来て当然と思っている)
ここからは本当に判らない、難しいミッションに挑戦します。
小惑星の形は着くまでは全然情報が無くて判らなかった。
丸ければ自転軸がどういうふうに回転しているのか判りにくい。(課題)
最悪自転軸が横倒しになっている状態を想定して計画を立てていましたが、幸いに自転軸が垂直に立っていて凄く私たちにとって有難いことでした。
つまり北極、南極が見えるし、赤道はいつも回っているので小惑星を1日見れば全部判ることになります。
はやぶさ1号のイオンエンジンの改良型が搭載されている。

イオンエンジンの特徴はジェット噴射の速度が速いということを最大の特徴としています。
H2ロケット等は燃焼を使う方式で噴射速度は秒速3kmの速さです。
イオンエンジンのはそれより10倍速い秒速30kmです。
速いほど使う燃料の総量が減るという特性がありますから、燃料は1/10で済みます。
世界の宇宙研究開発者はジェット噴射をどうやったら速くできるかという事を研究してきました。
アメリカ方式のイオンエンジンのは家庭にある蛍光灯を思い浮かべていただいて、あの中で起こっていることとほとんど同じです。
両端に電極が有り電圧をかけて中に入っている電子を加速して、中に入っている薄いガスにぶつけて電離をする。
プラズマができてイオンが出来る。
イオンは発光する(紫外線)、紫外線がガラス管に塗ってある蛍光塗料にぶつかって、可視光線に変わって照明器具として用をなす。
古くなると両端が黒くなって点かなくなってしまうが、アメリカ方式のイオンエンジンにも発生する。

できたイオンも今度は逆側に加速されてゆく。
電子はマイナスの電気を持っていてイオンはプラスの電気をもっているので、イオンはものすごい速度で電極に突進します。
ぶつかると電極が溶けて行き、溶けた粉末がガラス管に付くので両端が黒くなる。
電極が削れてきて結果として最後には点かなくなる。
ほぼ同じことがアメリカ方式のイオンにも起きて寿命を縮める要因にもなる。
私達はアメリカよりも20年遅れて研究開発をしたので、アメリカよりも優れたエンジンを実現しようと言うことで、マイクロ波という電波を使う方式のイオンエンジンを考えました。
電子レンジと同じ様な原理です。
皿は温まらないが食材だけが温まる。(選択的加熱)
電子だけ選んで温めてイオンは温めない。
温まった電子がガスにぶつかって電離がおきて冷たいイオンが出来る、こういうことを狙った。
冷たいイオンであればイオンエンジンを壊さないで済む。
長寿命で長く運転できるシステムが実現するかもしれないということでした。
太陽電池で出来る電力に見合う推力が出来る。
数グラムの推力をだすことができる。
はやぶさは500から600kgですが、それを2~3gの力で押し続ける。

この開発は他に例が無かったので苦しかった事ばっかりでした。
一番苦しかったのは中和機、これは加速したイオンが安定に速度を維持して飛んでいくように後から電子を混ぜるために、電子を発生させる装置ですが大変難しかった。
解決策を見出す為に2~3年かかりました。
初代のはやぶさは中和機が思う様に動かなくて苦労させられました。
地球帰還が危ぶまれたが、イオンエンジンのクロス運転でエンジンを復活させて地球に戻すことができました。
同時期にアメリカがディープスペース1という探査機を打ち上げたが、アメリカの方が技術の蓄積が格段に高い。
日本では打ち上げを決めてから探査機を作り上げるまでに7年かかりました。
アメリカでは3年で作りあげてエンジンは一式しか搭載しませんでした。(自信が有った)
日本では一機の推力が少ないので3機必要で、予備を1機搭載しました。(日本は劣る)
普通イオンエンジンと中和機は一対だが他のエンジンとの組み合わせも考えた。(奥の手)
いろいろプレッシャーで一時食堂に行って食べられなくなってしまったこともありました。

1960年愛知県生まれ。
子供のころは新しい電気製品などに興味を持って分解したりしていました。
飛行機も大好きでした。
天文観測も好きでした。
小学生高学年には望遠鏡を買ってもらって天体観察しました。
写真を撮って現像などもしました。
高校では天文クラブが有り、太陽観測部で黒点の数の観測などしていました。
幼稚園の時に研究者へというようなイメージは持っていました。
京都大学航空工学科から東大の大学院に行きました。
ロケットの研究をしたかったが、研究になるような課題は残っていないと言われました。
電気推進ロケットがあるが,まだこれは研究もされていないということでした。
栗木恭一先生の所でやっているので見学させてもらいました。
当時はミューロケットを取り扱っていたが、早晩限界が来る、日本ではもっと大きなロケットという訳にはいかないので、そのためにはロケットを大きくするのではなくて人工衛星に乗せる推進装置を高性能化する手立てしかない、ということで日本独自の研究開発が必要になると言うことで、電気推進を研究開発して将来に適応できる電気推進をラインアップするべきだと言うことになりました。

500kgのサイズに見合う電気推進をラインアップするということが栗木先生の未来設定でした。
1KWで動く電気推進ロケットでした。
私が担当したのがイオンエンジンでした。
予算は潤沢ではありませんでした。
研究室では工作機械が有り自分で図面を書いて、技官さんに工作機械を教えてもらって、自分で作ったりしてきました。(サイクルの早い研究が必要だと思います)
人と違う事を挑戦する。
みんなが簡単に思い付くことをやったんだとすると、きっと誰かが気が付いているはずだと思います。
マイクロ波は当時通信に使うもので、電波を発生させる装置は効率が悪く10から30%程度。
効率が良くなると電波でプラズマを作ろうという考え方は理にかなっている。
10月にはベピ・コロンボというヨーロッパとの共同ミッションで水星に探査機を打ち上げます。

火星には二つの月が回っていますが、そこにたどり着いてサンプルを採取する計画MMX
があり、小惑星をフライバイする計画とか、彗星からサンプル取ってくる計画とか、木星のガニメデという衛星を調べる計画とかを温めています。
10年後には水星から木星まで日本の探査機を送り込むことができる。
金星探査機「あかつき」が今金星の周りをまわっています。
太陽系に探査機を沢山打ち上げてデータを総合して太陽系の生い立ちを調べることができると思います。
地球の水や大気は木星の向こう側から運ばれてきて、岩石の地球が出来上がった後に気体や水があとから送られてきたという仮説が有ります。
水や大気を送りこんできた主体は小惑星、彗星、コスミックダストが太陽系の物質移動になっていて、後から水や大気が地球に持ち込まれて、アミノ酸などの有機物も一緒に入っていて、地球で合成されて私たちのような生物になったという仮説があるが、こういった証拠を調べて探査機を使って証明していきたいと私は考えています。