2023年5月23日火曜日

岩出雅之(帝京大学ラグビー部 前・監督)・負けない組織作り ~帝京大学ラグビー部~

岩出雅之(帝京大学ラグビー部 前・監督)・負けない組織作り ~帝京大学ラグビー部~

毎年選手が入れ替わる大学スポーツでは難しいとされる連覇、帝京大学ラグビー部は岩出監督の元2009年度から2017年度までラグビー大学日本一を決める大学選手権で、前人未到の9連覇を達成しました。   負けない組織を作るのにはどうすればいいのか、岩出さんに伺いました。

岩出さんは1958年和歌山県新宮市生まれ、65歳。  高校時代にラグビーを始めて日本体育大学では3年生の時に大学選手権で優勝、4年生の時にはキャプテンを務めました。  大学卒業後高校ラグビーの指導者を目指して、高校の教員になりました。   滋賀県の八幡工業高等学校で7年連続全国大会出場、高校日本代表の監督などを経て1996年に帝京大学ラグビー部監督に就任しました。  2009年度の大学選手権で初優勝、それ以来2017年度まで前人未到の9連覇を成し遂げました。   10回目の優勝を果たした去年ラグビー部の監督を勇退し、現在は帝京大学のスポーツ医科学センターの教授でスポーツ局の局長を務めています。

2019年日本で行われて初めて決勝大会でベスト8まで行きましたが、今年予選でチリ、イングランド、サモア、アルゼンチンの順で対戦してゆく。  世界大会は気の緩む試合はないと思います。   2015年では期待されたチームではなかったとは思います。   2019年ではいい裏切りをしたと思います。  フランスの地で大躍進をしてもらいたいと思います。  一ファンとして応援していて、帝京の教え子としてはあまり見ていないです。   大学時代は学ぶ力を学ぶ。  成長するための要素だと思います。 ダブルゴールと言っていますが、4年間のゴールと未来のゴールをしっかり一線上において、目の前のことも一生懸命やる。   未来に繋がる一日一日を過ごしてほしいと思っています。   

2009年度の大学選手権で初優勝、それ以来2017年度まで前人未到の9連覇を成し遂げました。  それまでは同志社大学の3連覇が最長でした。  いろいろな事の積み上げの結果だったと思いますし、運もあったと思います。   文化、しっかり全力を出し切れる人の集まりになってゆくという事が大事かなあと思います。  一つ一つ自分自身が成長しながら自分自身の意志でものごととに対する挑戦、そのことの楽しむ力とチームとしてまとまってゆく力、それが全力を出す中でより強固なものになってゆくというイメージを常に持ちながら、僕自身も毎年毎年成長を心掛けています。  いいイメージの対象があるので前年度を目指して下級生の力の伸び具合を上手く引き出す。  最後は前年度を越えてゆくようなシーズンにしてゆく。   

1996年に監督就任。   当時との比較で一言で言うと、全力でやる選手の人数が多くなったという事ですかね。  最初部員は100人はいなかったです。  学生という幼さをいい意味で見つめながら、少しずつ大人にしてゆく作業を積み上げながら、結果として全力を出し切れるまとまりのあるチームに、帰属意識もしっかり高まってくるので、無理やりにするという事の逆作用が年々少なくなっていったんだと思います。   38歳で僕も未熟だったと思います。  早く勝ちたいという思いがありました。  学生たちとの対話力を高めながら、最終的には誠実な選手の集まりになって行くように、どうしたらいいか工夫しながら日々やってきました。  昔ながらの縦社会では持たない世代が入ってきているなとか感じました。   少しずつ変えていきました。   トイレ掃除、食事当番とか下級生がやることを上級生もやるように、年々少しずつ増やしていきました。  心の余裕、体力の余裕を結果的に奪う事は最終的にパニックになってしまう。  のびのびした環境を作ってゆくためには下級生(弱者)を守って行こうという事が受け入れられる時かなあと思いました。   

上級生には酷な事もありましたが、少しずつ上級生に了解を得て進めて行って、完成系には3,4年かかったと思います。  4年生に話し合ってもらうのが主でした。  価値、意味も考えてもらって、補足することがあれば僕もサポートしました。  上級生も自立心が強くなりました。  コミュニケーションも良くなって深く理解するようになりました。

16,7年前対抗戦の最終戦で、この試合に負けると全国大会に出れない、勝つと出れるという試合があり、下級生が「負ければいいのにな」という発言を僕が耳にしました。    残念に思ったが、そうしてしまったのは組織だし、その組織を僕が育てている僕自身の責任でもあります。  改革の時だと痛感させられました。  少しずつ始めて、学生たちがそれを言葉にして、自分たちで周りに発信するようになりました。   いやいや掃除する学生もなくなりました。  いい意味の関係性がどんどん高まりました。  

人間の理解力を高めなくてはいけないという事が一つあります。  少しでも伝える力を高める事と合わせて理解する力を高めなくてはいけない。    そのためにはシャープ(短い言葉で適切に)にいつもアウトプットさせることが大事だと思っています。  自分自身がしっかりと決めてゆく、自己決定してゆく力も大切にさせてあげるという事も大切だと思っています。  そういった環境を学生たちに参画させながら、育っていける環境だと思っています。  

自分たちが全力を出し切っても相手が上だったら負けます。  常に厳しいクロスゲームを体験しながら、そのなかで冷静な判断が出来ることがとても大事かなと思っています。   そういうトレーニングをしながら、最終的には自分の力を出しきる。  他にもいくつかありますが負けないチームに育ててゆく。  

諦めるという心の迷いが出てくる。  その中でどう壁を乗り越えてゆくか、本番で心が不安定になってしまうと残念な事なので、心技体を整えることはとても大事です。  精神力という事を細分化させて、各自に理解させる。  4年間の中で心理的特徴、心理的スキルを学んでゆくことによって、全力を出し切れるという事に繋がってくると思います。    自分で自滅しない。  

理想のキャプテン像については、「自分の後姿を見せようと思っています。」というようなことをいうキャプテンが意外と多いんですが、それは残念ですがあまり見てはいないと思います。    逆に君からみんなに近づいてゆく、しっかりとした関係性を持ち繋がってゆく力が必要かと思います。  様々なことを共有、共感できたり、感謝出来たり、チームメイトのために何かやっていきたいと思えるような精神的な資質の持ち主は大切な要素だと思います。  

連覇の中で少しづつ出来た隙が気付かず修正できずに連覇が止まって、大きな学びを得てもう一度立ち直る事が出来たと思います。   新しいチャレンジをしっかり組み合わせてゆく。  そして流れを上手く作ってゆく。  流れのない止まった水ではよどみますから。2007年ごろ「辞めないといけないかな」と思ったことがありました。  自分の力量ではこのチームは勝てないのかなと思いました。   そして勝ち負けではなくて、幸せに向かっていこうと、ダブルゴールと考え併せて、学生たちに幸せに繋がってゆくような活動をさせてやりたいなと、そのためには勝つだけではなくて彼らの成長も大切だし、彼らのなかに残るものを育ててゆくような指導者を目指そうと思いました。