2023年5月20日土曜日

松村裕美(おうみ犯罪被害者支援センター 支援局長)・犯罪被害者が苦しむことのない社会を

松村裕美(おうみ犯罪被害者支援センター 支援局長)・犯罪被害者が苦しむことのない社会を 

滋賀県大津市のおうみ罪被害者支援センターで20年以上に渡って相談、援助を行ってきたセンター副理事長で支援局長の松村裕美さんのインタビューをお伝えします。 

犯罪はある日突然起こります。  被害者や周りの受けるダメージは大変なもので、日常生活やその後の人生に大きな影響を及ぼす場合があります。  公益社団歩人おうみ犯罪被害者支援センターには年間およそ3000件の相談が寄せられ、その数は人口10万人当たり日本一、相談件数の多いのは継続的に支援して何度も話を聞くためで、高い評価を受けています。  松村裕美さんは児童相談所や権利擁護センターなどを経てこの仕事につきました。  被害者支援はどの相談よりも難しいと、じっくり相談に取り組む一方、犯罪防止のための啓発にも力を尽くしています。  特に最近急増する性的犯罪で被害者が私が悪かったのかもと考えてしまう事に、貴方は悪くはないとしっかりと伝え、私の身体は私のものと伝え、啓発や教育活動にも力を入れています。  ふいに犯罪に巻き込まれてしまった被害者や周りの人にどう向き合うのか、指針となる言葉や考えを伺います。 

平成12年(2000年)におうみ犯罪被害者支援センターが出来ました。  それまでいろんな相談をさせてもらっていて、ちょっとぐらいは出来るかなと思っていましたが、今までやっていたことは何にも役に立たない、全然違うという、本当にどうしていいのかわからない状態でした。  子育て、福祉などの相談は一歩でも二歩でも進める感じはありましたが、犯罪にあった苦しみは相談に乗るなんておこがましい、聞かせてもらうという事がやっとこさという感じでした。   殺人、傷害、詐欺、性犯罪などいろいろ種類がありますが、そういうものに当てはまらないことでも、厭な目にあったとか、辛い思いをしたとか、自分だけが犯罪と思っているような、ありとあらゆる相談が来ます。   

まずは電話相談からです。   ベルが3回鳴るまで待ちます。  1回で出ると相手もびっくりするし、こちらも深呼吸して出ます。   鳴き声しか聞こえなかったり、言葉が詰まって出ない人には「どうされたんですか」とか相手が話しやすいような感じで出します。   相談室がありますが、明るくて、四方に白いソファーがあり観葉植物、絵などがあります。   好きなところに座っていただき、私たちは90度の角度の位置に座ります。  絵など、話のきっかけになるものを、おいておきます。   お菓子もいろんなものを置いて飲み物も選んでもらいます。   選んでもらって、選べるという事を実感してもらいます。   

人間って真面目に生きていたら、犯罪なんかに関わるわけがない、と勝手に思っているわけです。    いつ何が起こるかわからないというのが、犯罪の被害なんです。     犯罪被害者と呼ばれて、それまで生きていた世界とは全く違う暗闇のなかに突き落とされてしまう。   なんかお手伝いが出来ればというのが犯罪被害者支援という事です。    6割ぐらいが性犯罪です。  レイプ、強制わいせつ、盗撮など大きく3つあります。   親からの性犯罪も増えてきています。   一番小さい子が3歳で、最高齢が85歳です。すべての年齢層で起きています。   8割以上9割近くが知っている人からの被害が非常に多いです。   知っている人からの被害は、どこからが被害かわからない、いつ言えばいいかわからなかった、言わなかった私が悪い、といった様な気持ちが凄く強くなる。   

SNSの世界では相手が判らない。(想像の人)    ネットの中の世界の方が生きやすい人もいる。  凄くいい人と思って会って被害に遭う、という事はたくさんあります。 襲う時に弱い人をターゲットにするので、高齢者に対しても狙われる。   誰にも知られたくないというのが一番ですね。   性犯罪、性暴力にあった人って、自分を責めてしまう。  何でそうなってしまったのか、自分の原因を捜したくなる。   どうしても届けたくない人も勿論いますので無理には引っ張れない。   

苦しい状態の時に、「大きな岩が落ちてきて、貴方は動けない状態かもしれないが、岩は少しずつ小さくしていけるから、皆でこの岩を小さくしていこう」と言います。  「それはなくなるんですか」と言われますが、「それは消えてなくなることはないけど、ちっちゃい石ぐらいにはなる、時間をかけ努力すると、ポケットに入れても気にならないぐらいにはなるから」と言います。

人には見えない境界線があることを教えています。  相手が思っている距離と自分が思っている距離は一緒ではない。  その距離もいろんな状況によっても変わります。    プライベートゾーンという言葉を子供には教えますが、水着で身体が隠れている部分はプライベートゾーンと言ってとっても大事なところだから、簡単に他人には見せてはいけないもの、触っても触られてもいけないものだと、小さい時からちゃんと教えてゆくことで、私の身体は私だけのものと、境界線を越えてくるものは性暴力だから、それは厭だと言う事を言葉でちゃんと言おうねと、授業で行っています。  「私の心は私のもの、私の身体は私のもの」というのは誰もが持っている権利です。  その権利は生きている間はずっと守られなければいけない。   DVの別れ道になっているかもしれないという事をちゃんと知識として知っておきましょうという事が大事かと思っています。  安全と安心は違う。  安全は周りの人が安全な環境を作るものであって、安心は当事者が感じるものなんです。  

「たすけて」という本を出版しました。  被害にあったら勇気を出して「たすけて」と声をあげてほしいという思いを込めて、文章から絵までをおうみ犯罪被害者支援センターが手がけました。   犯罪の被害にあった人がきちんと理解されて、守られて、癒されて、再び立ち上がって生きていける、そういう世の中になったら嬉しいなあというのが、この仕事をずっとやってきて今思う事です。