2023年4月15日土曜日

鎌田浩毅(京都大学名誉教授)      ・正しい知識が命を救う ~後編・火山のメカニズム~

鎌田浩毅(京都大学名誉教授)    ・正しい知識が命を救う ~後編・火山のメカニズム~ 

鎌田さん(67歳)の専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーションで、地球科学入門の講義は毎年数百人の学生を集め、京大で人気NO1の教授と言われました。  一昨年定年退官し、現在は京都大学名誉教授、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授として研究を続けて、著書やホームページ、講演などを通じて地震と火山の正しい知識を広く伝えています。   科学をわかりやすく伝える科学の伝道師を自認する鎌田さんに地震と火山の正しい知識を地球科学という大きな視点からわかりやすく教えていただきます。   

2011年の東日本大震災で日本列島は1000年振りの地殻の変動期に入りました。     1000年振りに地面が不安定となりました。 いま引っ張られるストレスが溜まってマグマにも影響します。   2011年3月11日の直後に火山の地下で地震が起き始めました。   日本には111個の活火山があります。   火山のマグマだまりの側で地震が起き始めました。   具体的には20個です。   火山の20個が噴火のスタンバイ状態になったと我々は捉えています。   20個の中には富士山も入っています。   箱根山、浅間山、草津白根山、九州の九重山、阿蘇山とか入っています。  箱根山、草津白根山は噴火しました。   富士山は噴火はしていませんが、マグマだまりが不安定になったという事はあります。  

富士山の地下には熱いマグマが溜まったところが地下20kmのところにあります。   花崗岩、玄武岩などを1000~1100℃で溶かすとドロドロに溶けます。   それが地下20kmのところにぎゅぎゅうに詰め込まれています。   111個の活火山の地下にはそれがあります。   地震によって揺れるとマグマが噴火することがあります。   マグマには5%ぐらい水分が入っています。  水が水蒸気(体積が増える)になると噴火します。     水が水蒸気になると体積が500~1000倍になります。     地震でマグマだまりを揺らすと、噴火を起こす可能性がある。  東日本大震災はマグマだまりを揺らしたんです。  

2011年3月11日の4日後に富士山の地下でマグマだまりの上が割れるという事がありました。   富士宮辺りでは震度6強という大きな地震がありました。  富士山の地下14kmのところで岩石が割れたんです。  ぎゅうぎゅうに詰め込まれたマグマだまりの上にひびが入ると、圧力が抜けます。  そうするとまた水が水蒸気になります。 そうすると1000倍ぐらいになり噴火をします。  幸い噴火はしていません。  ひび割れのまま12年経っています。  噴火スタンバイ状態という現象なんです。  

1707年江戸時代中期、新井白石が記述していますが、1707年に南海トラフ大地震が起きました。(宝永地震)    49日後に富士山が噴火しました。  火山灰が江戸の街に降って来て日記に最初白いものが降って来て、その後黒いものが降ってきたと書いている。  マグマだまりの上の方はシリカを中心に、下の方には鉄、マグネシュウムなどがある。  地震がマグマだまりを揺らしたという例です。   これからも起きる可能性があるといことで心配しています。  

太平洋プレートが日本にぶつかって沈み込みますが、跳ね返ると地震が起き、跳ね返らないでどんどん潜ってゆき、マントルに突っ込むとプレートから水が絞り出される。  太平洋プレートには水が沁み込んでいる。   沈み込んできた太平洋プレートから水が絞り出されて上の方に行き、岩石を溶かしマグマが出来てしまう。    プレートの沈み込みは地震も起こすが噴火も起こすという二つの現象の原因なんです。  火山帯はプレートが沈み込んである深さで水を絞り出して地下では火山が噴き出してくる。  日本列島には4つのプレートがあり、2つは海のプレート、2つは陸のプレートで、海の太平洋プレートは陸の北米プレートに沈み込み(東日本大震災を引き起こした。)、もう一つは海のフィリピン海プレートは陸のユーラシアプレートに沈み込みます。(南海トラフ地震を起こす。)    二つのペアの丁度いい深さのところに火山の列が出来るわけです。  それが火山帯です。  北海道から東北、富士山にかけてと、伊豆七島から西ノ島新島にかけて、これは太平洋プレートが沈み込むことによってできる火山列です。  中国地方から九州までのものは、海のフィリピン海プレートが陸のユーラシアプレートに沈み込む事で出来た火山列です。  

噴火は分かるものもあるし、らないものもあります。  2000年の有珠山の噴火は割と分かり易くて、噴火の前に山が膨れるとか、地震が起きるとかで、事前に判りました。  御岳山では急に水蒸気が上がって岩石が降ってきた。  マグマが出る前に水蒸気爆発が起きて沢山の方がなくなりました。  千差万別で火山によって違います。  富士山は前回噴火したのは約300年前で、噴火前の詳細な記録がない。  噴火を予知するためには地震の観測(マグマが上がってくるときには地震が起きる)、地殻変動(マグマが上がってくるときに起きる。)の測定、そういったことで予測する。  

これから起きてくることを注意深く見て行かなくてはいけない。  富士山は日本一観測網が完備された山ではあります。     低周波地震(液体、マグマだまりが揺れる。)が最初に起きます。(噴火の約1ケ月前)  次に高周波地震が起きて(有感地震 1週間前ぐらい)火山性微動が起きて、30分から1日ぐらいで噴火が起きる。    低周波地震は数年に一回程度起きます。  富士山は記録がないので似たような山を参考にはします。  富士山は山頂の噴火はほとんどなく横から出てきます。  1707年の噴火は南東のすそ野から噴火しました。  平安時代は北西の山腹から噴火し溶岩を流しました。    地震の起きる場所によって或る程度噴火の場所は予測できます。  富士山は1ケ月前には予兆が把握できると思っています。 

宝永の噴火では横浜に10cm、江戸に5cmの火山灰が降って、1ケ月舞っていました。  平安時代の865年には溶岩流の被害で、青木ヶ原樹海の下は溶岩です。  富士4湖だったが溶岩が流れ湖が二つになり富士5湖になった。   江戸時代の火山灰が降った後、雨が降ると泥流となり、下流まで行き、小田原まで行って毎年のように被害をもたらした。  火山灰は小さなガラスのかけらで、目に入ると炎症を起こす。   コンピューターのなかに入って誤作動を起こす。   現代社会ではライフラインは全てコンピューターで動いているのですごい被害をもたらす。   ジェット機にも被害をもたらす。  交通関係の車、電車、船なども被害をこうむる。  水も汚染される。  都市機能がマヒする。  偏西風により首都圏3500万人が火山被害になってしまう。    富士山ハザードマップが出来ています。   溶岩流が南側で起きた場合は東西の大動脈が寸断されます。  溶岩流は熱いので数か月に渡って不通になる。  神奈川県も溶岩流が流れてくる対象県になりました。   

水蒸気も一気に上がると火口の岩石を吹き飛ばします。(水蒸気爆発、水蒸気噴火)    1991年、雲仙普賢岳の大火砕流  600℃ぐらいのもので、マグマが砕けて岩石も一緒になって流れる。  600℃で時速100kmの紛体流が襲ってくる。  火山の噴火現象では一番危険です。  2000年、3000年前でも富士山に火砕流の証拠があります。  

今日、話した内容は全部地球科学の研究のベースに成り立っています。  過去に起きたことを学ぶ。   イギリスの哲学者のフランシス・ベーコンという人が「知識は力なり」といったんです。  知識は自分を守る力になります。  富士山は300年噴火していなくて恵みを与えています。  300年の長い恵みと短い災害があるが、短い災害をどうやってかわすか、火山学、地震学を知ることで災害を減らすことができる。  長い尺度で見ると日本の美しい自然を楽しむことができるし、長い恵みと短い災害、短い災害は科学を利用して被害を最小限にかわしてゆく。