2023年4月3日月曜日

穂村弘(歌人)             ・〔ほむほむのふむふむ〕春日武彦

穂村弘(歌人)             ・〔ほむほむのふむふむ〕春日武彦 

ほむほむのふむふむ 5年目に入りました。  30年の付き合いにある精神科医の春日武彦さんがゲストです。  

春日さんは1951年京都府出身、大学卒業後産婦人科医として6年務めた後、思うところあって精神科医に転向しました。   大学病院や都立病院を経て、現在は東京都内の病院の名誉院長として患者さんの診察にもあたりながら、執筆活動も続けています。 

春日:二人の間を取り持つのが少女漫画家の吉野 朔実さんなんです。   僕が初めて本を出したのが1993年で、吉野さんがそれを見て、彼女の作品は心理とか精神的なものをテーマにしがちで、僕の本に興味を持ったみたいで、一緒に食事をする機会がありました。  彼女が亡くなるまで毎月会うようになりました。(270回)  穂村さんも1996年ごろに参加するようになりました。   あった時に自分と似てる人なんだなあと思いました。

穂村:精神科医は人間の心の専門家みたいで、憧れのようなものがありました。  人間の根源的なものを見てきた人なんだろうなというイメージがありました。 しかし、くだけた感じの人で話しやすかったです。  

春日:外科系の医者は徒弟制度で、産婦人科から精神科医は敷居が高いが、逆はそれほど難しくはないです。   産婦人科医も充実感はあったが、人の心のダークサイド見たいなところもみたいというのと、患者さんの気持ちを聞いてあげた時に凄く感謝されたことがありました。   元々精神科には興味もありました。 

春日さんが選んだ穂村さんの作品。

「気がつけばトーテムポールがぐちゃぐちゃに進化している夜の校庭」  穂村弘

春日:ぐちゃぐちゃに進化しているというのが、ここから世界が滅びて生きそうな怖さがあり、昔の少年漫画っぽい、そんなイメージがしました。  

穂村:学校にあるものは何故か決まっていて、二宮金次郎の銅像とかあるが、僕らのころは何故かトーテムポールが立っていました。  じっくりは見ていないが、気付いたら世界が変化する予兆のような感じがして、良い読みをしてもらって嬉しいです。

「警官におはぎを食べさせようとした母よつやつやのクワガタの夜」   穂村弘

春日:つやつやのクワガタは小学生だということが判る。  つやつやのクワガタと警官の拳銃の黒光りがイメージ的に近い。  警官とおはぎは限りなく遠い。  近いものと遠いいものが上手く混ぜ合わさって面白いと思いました。  

穂村:昭和の時代は警官におはぎを食べさせよう、みたいなことはよくあった。 警官の銃とクワガタはメカっぽい。  おはぎと銃とクワガタは微妙に違いながら繋がるみたいなところはある。  夜だし、全体的に黒い。  大きな黒の中にいろいろな黒があるイメージ。

「食堂車の窓いっぱいの富士山に驚くお父さん、お母さん、僕」      穂村弘

春日:穂村さんにしては珍しい感じ。  俳句的だと思いました。  関節外し的なトーンが重なっているという気がします。  

穂村:これは割と素直なほうです。  ダーク感がほとんどなくて、ノスタルジー。   今はこういった食堂車はないんじゃないですかね。   両親もいないし、半世紀も経ってこれを書くというところに何か意味が生じるわけです。  

「夕映えの砂場に埋めた最愛の僕のロボットの両手はドリル」      穂村弘

春日:切ないですね。 心理学用語で「山嵐ジレンマ」というのがあります。  山嵐は棘があるわけで、互いに寄り添おうとすればするほど相手を傷付けてしまう。  そういうを連想しました。  ドリルという単語に向かって言葉を畳みかけてゆく上手さは流石に穂村さんだと思います。

穂村:ウルトラマンで両手が鋏の怪獣がいたが、戦う時はいいかもしれないが、日常生活は困るだろうなあと子供心に思いました。  人間の意識には共通して流れるイメージがあるのかなあと思います。

「アルバイトするのが怖い扇風機の羽を止めている両足の指」      穂村弘

春日:両足の指で止めているというぞんざいなな態度、みっともなさ、共感しかない。

穂村:僕は臨機応変という事が駄目なんです。  止まっちゃっている羽根は自分みたいな気がして、機械に対しは妙に強気に出る。

「交差点で写真を返す太陽の故障のような夕映えのなか」         穂村弘

春日:写真と光学装置としての太陽の組み合わせのうまさ、太陽の故障という破滅が近いみたいなものを連想しました。  交差点という言葉によって、破滅に向かってゆく我々の寂しさが際立ってくる。

穂村:あまりにも綺麗な夕映えも、逆に怖いみたいな、終わりみたいな感じがする。   ホラーやSFに結びつけてしまうというのがあるような気がする。

 いつかみたうなぎ屋の甕のたれなどを、永遠的なものの例として」       穂村弘

春日:日常にさり気なく潜む永遠、無限と共存して生きてゆくというところに、ある種のくらくらする酩酊感を覚えます。  世界一黒い塗料があり、イギリスのペンタブラックというもので可視光線吸収率99,956%。 日本では水性アクリル塗料で99,4%があり通販で売っている。   立体物に塗ると平面に見えてしまう。  緩い永遠からハードな永遠迄あちこちに潜んでいて、そこがワクワクするような恐ろしいような感じがしてとっても好きです。  

穂村:前提として我々は有限だという事ですね。  

春日:高校時代、同級生が短歌を作って

*「ただ一人髪切りばさみを動かす日チャキチャキチャキとピエロいずる」             意外な人が短歌を作っていると知って新鮮な気がしました。  

穂村:心に孤独感がある。  

春日:現代の短歌は愛唱歌っぽくならないような気がします。 

*「ウサギの耳ポケットの耳パンの耳寂しきときは耳をおもえる」    高野公彦          これは好きですね。

*印:漢字、かななど間違っている可能性があります。