2022年1月8日土曜日

中川眞(大阪市立大学 特任教授)     ・平安京の音を聴く サウンドスケープの世界

中川眞(大阪市立大学都市研究プラザ 特任教授)・平安京の音を聴く サウンドスケープの世界 

これは京都の下鴨神社の森の泉川のほとりを録音したものです。  京都の原風景みたいなところです。  雨が地面を打ち付ける音、カラスの鳴き声なども入っています。

サウンドスケープは新しい言葉です。   1960年代終わりに、カナダ作曲家マリー・シェーファーが創り出した言葉です。  サウンドスケープは音の風景です。

平安京にはいろんな音があったはずですが、音は残っていません。  絵巻物、文芸作品、日記、随筆などを調べてゆくと、そこに音が描かれて居たり書き込まれていたりします。   基本的には 今よりも明らかに静かだったと思います。   東西に市がありにぎやかでした。   特に東市の周辺には鍛冶職人の集落が形成されていて、その音が結構大きかったと思います。   貴族の館では雅楽が聞こえていた。   時を告げる太鼓の音がして2時間で一日12回音を鳴らします。  30分に一回鐘を鳴らしました。(単位が刻)   飛鳥浄御原の時代には伊豆諸島の海底火山の爆発音が飛鳥に聞こえていた。  天平宝字8年(764年)奈良の都に桜島の噴火爆発音が聞こえてきた。  静けさは夜になって行くと際立っていきました。   そうすると鬼などの霊的存在の声が聞こえてきたりするわけです。   風とか動物の鳴き声などからいろいろと想像してしまう。   

平安時代の音が僅かに残っているのがお寺の梵鐘の音です。    平安初期から江戸時代の直前までに作られた梵鐘のうち32個京都には残っていますが、全部国宝級のもので、実際に鳴っているのはもっと少なく15,6個です。    録音しました。   一つ一つに音の高さが違っていて、雅楽には12の調子があり、(ハ長調、ト長調とかに対して壱越調・平調・双調・黄鐘調・盤渉調・太食調とか)12の調子のどれかに合っている。   

*西・・・神護寺の鐘(875年制作)の音  平調という調子に合っている。 

*北・・・大徳寺の鐘の音       盤渉調

*東・・・高台寺の鐘の音       上無調 

*南・・・知恩院の鐘(70トン)の音  下無調

*中央・・・西本願寺の鐘の音     壱越調 

方位に意味があって五行思想というものがある、陰陽五行説ともいう。   方位、色彩、季節とかが意味づけされている。  北:水の方角 色彩は黒、季節は冬  音も紐づけされた  北:盤渉調  東:双調  南:黄鐘調  西:平調  中央:壱越調   全部が全部ピタッとあっているわけではなく梵鐘がお寺からお寺に動かされている。   仮説ですが京都の梵鐘の音によって五行思想が表現されているのではないかと思っています。  木靴の音、牛車の音、当時歌われた歌もあります。

中川さんはじめサウンドアーティストの長屋和哉さん、 京都芸術大学の教員 仲 隆裕先生等のチームが京都芸術大学の学生さんと一緒に百鬼夜行絵巻の妖怪たちの音を作ろうという試みをしました。

*百鬼夜行絵巻   鬼とか妖怪 器物の妖怪(捨てられて恨みを持つ)  妖怪が歩く音など様々な妖怪が登場する。  百鬼夜行の行進。  

現代の都会では過剰の音の世界が広がっている。   現代の私たちの耳は近くて大きな音に焦点があっている。   私はこれを変える必要があるのではないかと思います。   サウンドスケープは逆に遠くの小さな音に焦点を当ててみましょうよという風な提案をするわけです。   ビルの屋上とかに行くと町中の音が上に上がってきます。   大文字山に登ると京都中の音が聞こえます。  耳が鈍感だと町の音、騒音が増えるんです。  耳が繊細だと騒音が減ってきます。    サウンドウオーク、音の散歩をすると街を意識的に聞いて歩くわけで、そうするといろいろな発見があります。