ユリア・ジャブコ(ウクライナ人言語学者) ・国を守ることは、言語を守ること
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、戦争が当事国に住む人々の言葉にどう影響するのか研究している言語学者がいます。 日本在住のウクライナ人で茨城基督教大学准教授のユリア・ジャブコさんです。 戦争は人々の潜在意識にどのような影響を与え、発せられる言葉にどのような変化をも垂らすのか、そして平和とは何か、社会言語学の観点から戦争と言葉について考えます。
2006年に交換留学生として初来日、その後言語博士号を取得して現在は茨城県にある茨城基督教大学准教授として、社会における言語の役割について研究しています。 高校の時に言語学が好きで英語を勉強していましたが、ごく当たり前な外国語だったので、もっと難しい言語に挑戦したいと思って日本語を選びました。 言語を通して日本を学ぶ。 社会言語学は社会と言語のかかわりを研究している分野で、社会は言語にどういった影響を及ぼしているか、言語は社会に影響あるのかを考える分野です。 私はウクライナから来ているのでウクライナで使用されている言葉を使うのは当然です。 私たちの仕事は言葉とアイデンティティーのかかわりを理解する事です。
その国でどの言語を使うかという事は重要です。 言語は国家を運営するために必要です。 言語政策、数少ない言語使用者を多数の方に合わせる。 簡単に言うと戦争によって新しい土地を手に入れることによって、同じような言葉を使わせることによって、同じような意識を作る事です。 今まで持っていた文化の代わりに、権力のあるより強い文化を持つことにある。 社会的な支持的な権力のある民族に合わせる。 戦争で勝った国の方が植民地として治める。 ニュージーランドではイギリスが英語化しました。 19世紀オーストラリアでは英語教育をする。 先住民の言葉はほとんどなくなている。 西アフリカ、中央アフリカの植民地ではフランス語が公用語になる。 ベトナムは一時期フランスに占領されていた。 当時ベトナムではフランス語が公用語だった。 小学校で教える言語を政治的な権力がある言語に切り替える。 アイデンティティー形成に言語は最も利用されています。
ウクライナの同化政策は、18世紀はウクライナの一部は当時はロシア帝国のなっていました。 ウクライナでは激しいロシア語政策が始まります。 学校教育はロシア語が必須だったり、文化の抑圧(ウクライナの言葉で出版できないなど。)があり、19世紀にはウクライナ語での出版が禁じられました。 最も強くなったもは19世紀の終わりです。 言語を使う事によって社会的なステータスを得る。 ウクライナの独立は1991年、それまではロシア語がウクライナ語よりも上だという認識があった。 当時4000万人でそう簡単には言語はなくせない。 ウクライナ人はロシア語とウクライナ語の両方を履萎えますが、使い分けています。 戦争前ではウクライナ語のみを使っている人は4~5割弱、ロシア語のみを使う人は3割、どちらも使う人が3割ちかくです。 生活の場面場面でウクライナ語とロシア語を使い分けたりします。
2022年にロシアの軍事侵攻が始まります。 ウクライナで戦争によってどのような影響がでているのか、を継続して研究してきました。 ①母語の選択(親から覚えた言葉 アイデンティティー 自分は何者かを認識するうえで非常に重要) 軍事侵攻を境目に大きな変化がありました。 ウクライナ語が母語だと答えた人は2021年に77%、2022年には87%に増えました。 私がウクライナ人だと示すためには母語がウクライナ語だと答えています。
②戦争は言葉の意味を変える。 沈黙です。 静かだと今から爆発音が聞こえるのではないかと考えてしまう。 攻撃を受けるとお互いに大丈夫か確認する。 沈黙は死だと思ってしまう。 シェルター内ではざわざわしている。 話をすることによって、生きている感があるんです。 沈黙は終わり、死と言う意味もあるので、ウクライナ人は静かな環境が怖い。 電話で親が生き残ったか聞いて、沈黙は一番嫌な意味です。 戦争が持ってきた新しい意味です。 静寂と沈黙をやすらぎと感じますが、ウクライナ人は戦争によって恐怖に変ってしまった。
③言葉から見える潜在意識。 日本に避難してきたウクライナ人30人に調査をしています。 ウクライナ語を話す人とロシア語を話す人、それぞれに自由に話をしてもらいと言う実験。 頭に浮かぶものを教えてもらう。 ロシア語を話す人の方がよろいネガティブなことを言った。(悲しみ、怒り、攻撃的な言語) ロシア語は話したくなくて、ウクライナ語を話したいが上手く話せない。 相手に影響を与えるために言語は使います。(説得) ロシアは説得機能をよく利用していて、ウクライナ人はそれがすごく怖いです。 ウクライナは存在の危機にあり、文化も存在危機にあり、ウクライナ語も存在の危機にあります。 ウクライナ語を使い続けるという事が、自分らしさ、アイデンティティーを守るための武器になる。 言語は国境。
家、心の居場所でもある。 家庭からアイデンティティーは生まれてくる。 仲間が同じ言葉を使うと家の気持ちが強い。 言葉は心の居場所でもある。 破壊された家を建て直しても気持ちが戻れない。 占領されたところには戻れない。 多様性、いろいろなバックグラウンドの人たちがいるという事を意識しましょう。 自分の言葉を捨てないで、出来るだけ自分の文化を守りながら、相手の言葉を勉強する事が一番いいですね。 知らないから知る努力をする、知ることから平和が始まると思います。