2021年6月7日月曜日

穂村弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】名久井直子

穂村弘(歌人)          ・【ほむほむのふむふむ】ブックデザイナー名久井直子 

伝説の歌集「シンジケート」31年の時を経てヒグチ ユウコさんの絵と名久井直子さんの装丁で新装版が刊行されています。  

穂村:1990年に「シンジケート」を自費出版して、当時会社員で入社して3年目ぐらいでした。   溜めていたお金をすっからかんにしてしまったのを覚えています。  

名久井:新装版を手掛けることは緊張しますが、時代時代に合わせて外側が変わってゆくという事は必要なことだとは思います。

穂村:著者も何十年もたつと、これも久しぶりに読み直してみるといろいろやばかったんですよ。  いまはなくなったものとかがいっぱい出てきたりしています。  受話器とかダイヤル、それはまだしょうがないんですが、今の倫理観ではだめなものが結構あるので直したいが、読者だった自分のことを考えると、作者だという特権で直すことがあるんですが、それを喜んだ記憶が一回もなくて、せめてここまでは直したいというものもありますが。   今回は絵は画家のヒグチ ユウコさんになっていますが。

名久井:彼女とは友人でもあるんで、心強いです。  彼女とは3日合宿して単語を書き出して、その空気感を出していこうと模索していきました。  半透明なものに印刷されています。

穂村:もう一つびっくりしたのはキャンディーの紙がどこかのページに重なっている。 これはなに?

名久井:最初に穂村さんが「シンジケート」を作ったときの話を前に聞いていて、装丁というものがよくわからなかったから、飴の包み紙とか紙くずを一杯持って行ったという話が心に残っていって、誰かが挟んだ自分の好きな包み紙みたいな感じでヒグチさんが描いた飴の包み紙が入っています。

穂村:今回リクエストはしていませんが、一つだけお願いしたのは31年前に出した時に真ん中の帯に大島弓子さんの推薦文を頂いていますが、それだけは生かして消さないでいてほしいと編集者にお願いしました。  「水滴が雪になるように言葉が結晶化して歌になる、そして降り積もって雪野原のような本になった。   今年初めて積もった雪、穂村弘の初めての歌集  大島弓子」  これを読んでしくしく泣いた覚えがあります。

名久井:もともと短歌には親しみがありました。  紫式部の歌が好きで子供のころ必至に覚えていたりしました。  穂村さんの作品に触れて衝撃を受けて、私も書こうと思ってしまいました。(20年近く前)

穂村:名久井さんとの間で推敲をする機会がありました

*「きのくにやしょてんをろくじに きのくにやしょてんをろくじに くりかえすよる」     名久井直子

穂村:紀伊国屋書店は待ち合わせの定番で、主人公は大事な待ち合わせがある。  これで直すところは全然ないんだけれど、ひらがなで書かれているものを全部カタカナにしたらどうかという事になりました。 

*「キノ クニ ヤ ショテン ロクジニ キノ クニ ヤ ショテン ロクジニ クリ カエス ヨル」 呪文のようになって見た目にもリズム的にもこの人が待ち合わせにとらわれている感じが出たんじゃないかと思います。  今読んでもとてもいい歌ですよね。

海にでも沈めなさいよそんなもの魚がお家にすればいいのよ」 「シンジケート」から  穂村弘

蛸といえば吸盤冬といえば雪夜の散歩といえば私たち」  穂村弘

名久井:今回選んだものはヒグチさんの絵で選んで見ました。     


水準器。あの中に入れられる水はすごいね水の運命として」   穂村弘

名久井:水が永遠にあの中に閉じ込められているというのがすごいです。

穂村:ある意味恐ろしい運命ですよね。  自分が水だったら木の中にある水がいいかな。

どちらかといえば現実の地図ほうが美しいということ」   穂村弘

名久井:本当に一番好きな穂村さんの歌です。 雪が降って街が白い街になり、現実は白い凹凸の世界になっている。  

*「愛し合う夢を見ました 水中でリボンのようなウミヘビに会う」  穂村弘

穂村:本当にカラフルなウミヘビがいます。

穂村:名久井さんが選んだものは水に関するものが多いですね。 私も雪国の生まれで親しくなる人が北の人が多かったりします。

リスナーの作品

*「階段を 配達員がたったったっ 母が喜ぶ一段飛ばし」

穂村:母が喜ぶというところが面白いですね。

*「ニュースより 最後に名乗るその声が やけに気になるラジオの不思議」

穂村:ラジオだと声しか情報がないのでその名前が重要な情報のように、イメージが出来てしまう。

*「コロナという 嵐の中を行く聖火は 聖火にあらず鬼火となりて」

穂村:社会的批評性のある歌かなと思います。

*「家を出たら 七人の敵なら 50名の敵か 七人の侍は」

穂村:背景は慣用句があり、面白いのは突っ込まずにはいられない、四十九人だろうって、読んだ人は思わずにはいられない。

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