2021年6月24日木曜日

蔵屋美香(横浜美術館館長)       ・【私のアート交遊録】地域や時代に応える美術館めざして

 蔵屋美香(横浜美術館館長)  ・【私のアート交遊録】地域や時代に応える美術館めざして

蔵屋さんは子供のころから両親に連れられて美術館に通い、絵が好きな子供として自然に美術の世界に入っていったといわれます。  女子美術大学卒業後、千葉大学大学院で美術作品を言葉で説明、研究する分野を学びます。  その後25年以上にわたり東京国立近代美術館でキュレーターとして美術と経営、労務管理という3つのジャンルで経験を積んでいきます。 横浜という地域に根差す一方で、世界有数のコレクションとビエンナーレbiennaleという世界から注目される企画を持つ横浜美術館館長に就任した50代前半の若い館長の蔵屋さんが考える新しい時代の美術館像などについて伺いました。

横浜美術館は今リニューアル中です。  美術作品は1万3000点ありますが、空調がなくなってしまうので、専門の倉庫を借りて、そこに2年半以上預ける事になります。   どこか傷んでいないか一点一点チェックして、修復する必要があるかどうかなどをやって、状態を記録して丁寧に梱包して送り出すという作業をやっています。   20分程度で点検梱包が終わるものもあれば、巨大な彫刻を半日かかってようやく梱包というような有様です。   学芸員が10数人いますが、総出で交代交代でやっています。   リニューアルオープンが23年度中になっているので、そこから新しい活動をどう作りあげてゆくか、構想作業も同時にやっています。   2年前に開館30周年を迎えて、30年前に掲げた理想もいま見直しをしなければいけない時期になっています。 この変革期に第六代の館長として来てしまいました。 

東京国立近代美術館では展覧会をやるではなくて、所蔵品をどう集めるかとか、どう管理するのか、所蔵品を新しい視点でどう面白く見せられるか、コレクションのことに関して長く仕事をしてきました。   50代を過ぎて学芸畑でやってきましたが、人事、会計とか全体を含めた組織を回して、そんなことでお客さんに楽しんでいただく、全体を切り回すことを後の10年でできないかという事を思いかけて居たところに、丁度声をかけていただきました。   たたき上げの館長が出てきたのはこの10年ぐらいです。  この2,3年は女性の館長がものすごく増えました。   館長のイメージが違うような時に差し掛かっています。  学芸員の現場は女性ばっかりです。  館長は男性でしたが、ここの所変化してきています。   学芸員も男性女性半分づつぐらいがいいかなとは思っています。   

東京国立近代美術館では創立70年になりますが、70年にやった個展の男女比は男性20に対して女性は1で、横浜美術館では30年間で男性10で女性1です。  今後是正されてゆくと思います。   そこを今後30年で頑張っていきたいと思っています。

日本では国とか地方とかの行政が美術館を運営する場合が多いので、行政の人たちとどう付き合ってゆくかがとても重要です。

美術館でもカラーの違いに気が付くのに半年かかりました。   東京国立近代美術館では唯一明治から現代までを見せますという役割を持っていて、歴史に照らし合わせてものを考える癖があります。  日本がメインの館なので日本の問題を深く考えます。   横浜美術館はヨーロッパ美術の作品がありまして、周りもにぎやかで、華やかに楽しんでいただくような感じです。   

横浜ビエンナーレという催しを切り回していて、10年前から横浜がメイン会場として使われるようになりました。  現代美術を楽しんでいただけるという特徴を持っています。 東京国立近代美術館では50~80代が多いですが、横浜美術館は30,40代の人がお子さんを連れてきてというような方がメインになっています。  

私は1月生まれですが、その年の4月に東京国立近代美術館の前で撮った写真が残っています。   父親は歴史が好きで博物館、、母親は美術が好きで美術館という事で、気が付くと美術の好きな子になっていました。  高校の受験あたりは漫画家になりたかったんですが。   絵は好きだったので美術大学に進学しました。   油絵の学科でしたが油絵はあまり描かず、漫画を描いたり本を読んでいました。   大学卒業後、おもちゃ会社のパッケージデザイナーとして就職しました。  1年足らずで退職して、大学院に行こうと思って、千葉大学の大学院に進学しました。    ここでは他人の作品を研究するということを教わりました。   自分で作るよりも作品を言葉で人に説明する方が得意だという事に気づきました。  東京国立近代美術館の試験を受けて、20数年いることになりました。

レオナルドダヴィンチの「最後の晩餐」  色とか形を隅から隅まで観ていると、一冊の本を読むような感じになります。  キリストの頭の上には従来描かれていたような輪っかはなくて、キリストの丁度後ろに窓があって、輪っかの替わりに光がキリストを浮かび上がらせています。 両脇には6人づついるが、3人一組になっていて、3人が三角形に収まるようにポーズが決められている。  キリストを中心に脇への時間の経過なども見えてくるわけです。  いろいろ工夫して描かれています。   

リアルなものを見るときには、オンラインとは違う様々な情報が含まれているので、それを受け取るように神経が回ると思います。  例えば何が違うかと言えば大きさです。  細部を見るのには実はネットのほうがいいですね。   どちらでも、よいところ得意なところをとってそこを見るように自分をならしていけば、美術の見方も倍に面白さが広がるのではないかと思います。  ボッティチェリの「春」、「 ヴィーナスの誕生」を描いたイタリアのフィレンツェの時代にも死の病、伝染病がものすごくはやって、そのなかでああした作品が生まれて来てます。  美術作品のいいところは、500年前に作られたものがそのままあるので、それを手掛かりに500年前の世界に戻ることもできるわけです。  病気と闘いながらこう言った美しい世界を作ったんだなあと思う事で、今回も何とかなるんではとか、今回もいい作品ができるのではないかとか、何かいいことの一つに思えるわけです。

おすすめの一点は横浜美術館からピカソの「ひじかけ椅子で眠る女」(1973年の作品)