2020年8月7日金曜日

池田明美(紙布作家)           ・和紙と語る

池田明美(紙布作家)           ・和紙と語る
紙布は折りたたんだ和紙をmm単位で細く切り、よりを掛けて糸にし、その和紙の糸で織った布です。
紙布は江戸時代に盛んに作られましたが、明治以降和紙の衰退とともに忘れられていきました。
池田さんは宮城県白石の伝統工芸白石紙布を織る紙布作家です。
池田さんによりますと白石紙布は肌触りが良く夏は涼しく冬は暖か着心地は大変軽いということです。
軽くて汗取りもよく乾きも早くて、水に通せば通すほど丈夫になる紙布はまさに日本の気候風土に合った織物だったのではないでしょうか。
池田さんは紙布つくりの難しさはなにより紙糸作りにあるといいます。
熟練の和紙職人がこうぞやかじの繊維を並べるように均一に薄くすいた手すき和紙、その和紙と語らいながら裁断し、もんでと入りをかけかみ糸を作る、この過程が白石紙布の最も難しいところで、同時に自分にとって一番楽しい時だといいます。
和紙と向き合い和紙の声を聴きながら糸にし、紙布を織る、幾重にも手をかけ時間をかけて紙布を織る、そんな手作りの機織りの音もお楽しみください。

縦糸は絹糸を使います、横糸は和紙を2~5mmに裁断してよりを賭けた糸で織った布を白石紙布と言っています。
伊達藩、仙台藩が奨励庇護して育てたものです。
白石藩主片倉さんの処で山にこうぞ、かじを植えて和紙をすき加工して紙布を作り上げていきました。
伝統工芸展に出品しています。
紫色が縦に入っています、ほかにもいろんな色が入っています。
草木染をするので紫から藤色まで段階的に使っています。
数えると十何色入っていますが、見た目には白と紫の二色になります。
白がかじ和紙の色で水にさらせばさらすほど白くなるのがかじの特徴です。
こうぞ和紙やかじ和紙は紫外線を受けることによって白く漂白されていきます。
今回出したものは夏ものですからよりを強くして、さらっとして肌触りが良くて汗をかいても肌に触る部分は紙なので汗をよく吸い取ってすぐ乾きます。
着心地は最高だと思います。
和紙は空気が抜けますので着ていても蒸れないです。

青が大胆に使われた単衣、太古の海という藍の板締めかすりの着物です。
13年前のものです。
大きな海原をイメージして作りました。
板と板の間に布を挟んでねじで締めあげて藍の桶に突っ込み、引き揚げて板の凸凹している部分があるのでその凸凹に応じて柄が出てきます。
絹織物の半分ぐらいの重さになります。
帯、白地に藍の水玉模様。
5mmぐらいの幅に切って、木綿糸よりもちょっと太い糸を使います。
縦も横も紙なので滑りがないので帯が緩まないし軽いし閉め心地はいいと思います。
糸は太いので着物に比べて作るのはずーっと楽です。

畳一畳分を1/3に切った和紙で3匁という和紙を使っていて、その紙をWの形の折りたたんで、折り紙の提灯を作る時の方法と同じです。
切れ込みを入れていきますが、着物用では2mmにしています。
きちんと切れていることを確認しながらやります。
次が紙揉みで、切ったものを広げて屏風状に細くたたんだものを石の上でもみます。
石は溶岩石でもみます。
横幅60cm、縦が50cmぐらいの紙の両端が繋がった状態でそれをを折りたたんで、湿したタオルの間に挟んで、石の上でもみます。
溶岩石が水を吸い取るのでもみ終わるころには紙はほぼ乾きます。
手のひらで転がすようにやさしく揉みます。
その後一本一本バラバラになるように叩きます。
すきての技で繊維が縦になるようにすくので切れないようになります。

広げた紙を切れ込み2本ずつちぎって指の先で転がすようにして粒を作っていきます。
端っこからほぐしていきざるの中に入れると一本の糸になって長く続いています。
揉んだ紙一枚で50~100mぐらいの長さになります。
糸車でよりかけをしていきます。
小豆が入っていてこんがらからないようになっています。
ざるには紙30枚分ぐらいが入っています。
取っ手を一回回すと1mで100回ぐらいの撚りがかかります。
和紙120枚を糸にしようと思うと2か月ぐらいかかります。
巻き取ったものをお湯の中に通して一晩干して、生乾きにしたものをかせという木の輪っかに戻していきます。
1000回回すと一かせ(50mぐらい)が出来上がります。
それを糸巻きにかけていきます。

作業の中でうんでいる(揉んだ後に2本ずつ切って長い糸にしてゆく作業)時と撚りをかけている時が一番好きです。
いろいろ25年研究しながら紙布と向き合ってきました。
出来上がった喜びはひとしおです。
紙糸つくりが紙布つくりの8,9割を占めるというような感じです。
25年以上前に父の介護をしているときに、アルツファイマーにもなっていて、向き合っていくことがつらくて、気が付くと泣いていました。
自分を立て直すために好きなことをやろうと思って、世田谷区で生涯学習の和紙造形と出会って、心に余裕ができて父の介護も出来るようになって自分も健康に戻ることができました。
先生から紙布を知ることになり、白石和紙のすきての遠藤さんご夫妻にお会いして、教えていただいて始まりました。
紙が糸になるということがすごいと思った記憶があります。
絶やしてはいけない布であるということを感じました。
水の中に紙布を浸けてそれを着て火の中に入ったら熱くないんだ、だから火の中を潜り抜けることはできるんだという話を聞いて、記憶に残っています。
大切にしている言葉は「道を楽しむ」という言葉です。