2024年4月11日木曜日

澤田誠(脳科学者)            ・脳を探る

澤田誠(脳科学者)            ・脳を探る 

澤田誠さんは脳の研究に取り組みおよそ40年、人が生きるために脳は重要な役目を果たしています。 記憶は脳で作られ30歳を過ぎると記憶力が落ちてくると言います。 何故落ちてくるんでしょうか。 記憶をなくすという事は脳にどのようなことが起きているのでしょうか。 人工知能の進む現代、人工知能と脳にはどのような違いはあるのか。 人間の脳はまだまだ未知なることが多いと言われます。 脳を衰えさせないためにはどんなことが大事なのか。 脳研究一筋名古屋大学名誉教授澤田誠さんに伺いました。

多細胞生物はその細胞が動くのにコントロールする仕組みが必要です。 脳と言うほど発達していないが、神経系と言うのがあり、いろいろな動き、外からの感覚、情報を取り入れて自分の行動、どういう風に動いていくかを決めるために、脳の原始的な神経系が必要で、それが集まったのが人間とか、動物にある脳です。 

記憶と言うとコンピューター,AI、ロボットとかが、感情を持つとか、夢を見るとかと言うような人間の脳が行う事まで出来るのか出来ないのかという事が、議論になりました。 現在の技術力では人間の脳に相当するような能力を持ったAIは出来ないです。 生成AIといわれているものでも、新しいことを作り出すということは、なかなか難しいです。  無い情報を作りだすという事は今のところ出来ないです。 脳は色々な新しい発想で新しいものを作ってゆくのが脳の役割、脳の特殊な機能で、これを作り出すのは脳の神経細胞が使っている機能だけを模倣した様なAIなどは難しいのではないか思われます。 脳の90%ぐらいは神経細胞以外のグリア細胞で覆われている。 グリア細胞に機能は完全には解明されていない。 この機能をコンピュータに盛り込むことが出来ない。 私がテーマにしているミクログリアは記憶を食べる細胞と言うことで紹介されていますが、新しい記憶を作るのにもミクログリアは機能するし、必要のない記憶を作っているシナプスと言うものを食べちゃって、悪い記憶を排除するような役割をしている。 脳に必要な情報だけを貯め込むような働きをしている。 これはAIではなかなか出来ない。 

記憶と言うのは色々な情報の塊が記憶ですが、一つの記憶でも、目から入って来る視覚情報、音、味、触覚などの情報が一つの情報の塊になって一つの記憶と言う形になる。 視覚の情報、音の情報、などの別々の神経細胞が数千から数万個のネットワークを作って、それが同時に活性化されると視覚の情報、音の情報、などが一緒になって一つの記憶を作るんです。 一つの神経細胞は別のネットワークにもかかっています。 たまたまある記憶を思い出している時に別の情報まで活性化されると、全然かかわりのない意識の情報でも、たまたま結びついてしまうようなことがあると、新しい発想になって発明になったりすることが起きます。 AIだとなかなかその機能が出来ない。

新しい神経回路を作るシナプスを形成するときにも、グリラは役割をはたすし、シナプスが壊れないように維持する働きもするし、要らない、悪い情報を伝えるシナプスは食べて排除する。 グリラがきっちり働いていると記憶が出来ることになる。

感情は人それぞれが出てくるもので、外から観ていて判らないのが感情です。 情動は動きがあり、外から観て判るので脳科学の分析の対象になりうる。 とっても嬉しい情動は「快」の情動、怖い、不安とかが「不快」の情動で、深いと優先的の記憶にとどめるようになる。 重要な情報をとどめておくと判断をするような情報の塊(マインドセット)が、あらかじめ脳がシュミレーションをして、生き残るためにはこういうことをした方がいいと、マインドセットを作るわけです。 マインドセットは今までの経験に基ずくものなので、これが個性という事になります。 寝ている時にマインドセットが更新される。 脳は起きている時には今起きていることに手いっぱいとなる。 

短期記憶と長期記憶を比べてどっちが得か、取捨選択をして得なほうを長期記憶に書き直してゆく。 脳の働きの大部分(99%)は無意識なんです。 意識の部分は1%しかない。自分が生き残るために必要な情報で、勉強などをしても必要な情報であるとは判断しない。本能と言うのは我々の記憶とかとは関係ない。 人間は弱い動物だが集団生活をすることによって、文明を発達させてきて、生きながらえて来た。  コミュニケーションをとるには本能だけで動いていると集団生活が出来ないので、意識と言うものを機能的な部分として作って、それが全体をコントロールしているような気持にさせている。 欲望だけで動くと破綻してしまうので、意識で無意識の部分にアクセスできないような仕組みになっている。

重要な情報が沢山あればあるほど選択肢が広がって、それが寝ている時に、たまたま結びつくと新しい発想とかになる。 頻度は寝ている時が多いが、起きている時にもハッと思いつくことがある。 健康的な体と健康的な睡眠、いろいろ経験をして情報を捉えることが必要となります。  

AIは今ある情報を探知して、今あるものを組み立てて、あたかも人間が作ったように組み立てる。 脳の情報の取捨選択は、自分にとって良い事か悪い事か、子孫が生き残るために良い事か悪い事か、という事を判断基準にしている。 つまり情動が基準になっている。 コンピューターは子孫のことなどは考えないし、自分にとっての価値判断はしない。 人間の脳とAIの記憶の本質の目的論が違う。 

人間の脳は1000億個ぐらいの細胞ですが、一個の神経細胞に一個の情報が蓄えられているという考え方がありましたが(30年前)、もっと沢山の情報を蓄えられるというポテンシャルは持っています。 ネットワークが情報の保持に関わっている。 記憶の情報をあいまいにしておくという特徴があります。 要らない情報は排除して情報量を少なくしている。 自然界のなかで全く同じ現象はあり得ないので、だいたいこういうものだという事が判断できると、応用が利きやすい。  脳はわざとあいまいにしておいて、情報の抽出をする。 

人間の脳の細胞の寿命は大体120年だと言われています。 脳は20代後半、30代ぐらいになると神経細胞が一日数万個単位で減って死んでくるんです。 80,90歳ぐらいでも何もなければ正常な機能を保ったままで、20%ぐらい減っても脳はちゃんと活動することが出来ます。 神経細胞は入れ替わることが出来ない。 活動が多い神経細胞、死にやすい細胞があって、それが海馬に集中しているので、老化に伴って神経細胞が減って来ると記憶力が低下するということは起こりうる。  

人の名前が思い出せないのは、長期記憶のなかに陳述記憶と非陳述記憶があり、陳述記憶の中にエピソード記憶、いろいろな単語とか意味記憶と言って、脳の働きが違うものを使うんです。 エピソード記憶の方が生きるための情報をたくさん含んでいる。 名前などの意味記憶の方は生きるための情報にはあまり必要はない。 脳は名前などの記憶は苦手なんです。

微小脳梗塞(隠れ脳梗塞)と言って小さい血管が詰まったりすると、その先の神経細胞が死んでしまうことが起こる。 そこで80,90歳代で脳の働きが悪くなってしまう。   身体にとっていいことは脳にとってもいい事です。 程度な休息、過度なストレスがかからない、暴飲暴食は良くない、良い睡眠(深い睡眠と浅い睡眠は脳にそれぞれ違った役割を持っている。 4サイクルぐらいして浅い状態の時に目が覚める。)、などです。 まだまだ脳は判らないことだらけです。

*微小脳梗塞 危険因子には、加齢、高血圧、糖尿病脂質異常症慢性腎臓病、過度の飲酒、運動不足や喫煙、肥満、過労・ストレス、家族歴などがあります。この中でも、最大の危険因子が高血圧です。