2021年5月21日金曜日

市橋芳則(北名古屋市歴史民俗資料館館長)・博物館で"認知症予防"

 市橋芳則(北名古屋市歴史民俗資料館館長)・博物館で"認知症予防"

北名古屋市歴史民俗資料館は去年第一回日本博物館協会賞を受賞しました。   博物館のコレクションを活用して認知症を予防する回想法という心理療法を取り入れ、高齢社会に先進的に取り組む博物館として評価されました。   館長の市橋さんは58歳、南山大学大学院を終了して古墳の発掘をしたのが縁で、当時の愛知県師勝町学芸員として入職し、資料館をもっと利用してもらおうと、昭和30年代の日常品を取集し、展示したところ、来館した高齢者が生き生きとした表情になることに気づき、医療や福祉の専門家と相談しながら資料館で回想法を始めました。   それから20年、北名古屋市では介護事業の重点事業として定着しています。   日用品の収集は今も続き、乗用車から洗濯板までおよそ13万点、別名昭和日常博物館ともいわれています。  

北名古屋市歴史民俗資料館には昔懐かしいものをたくさん展示してあります。   それを見た瞬間に生理学的に脳の血流が活発になるという話がありまして、懐かしいものを見ながら昔のことを思い出したりして、みんなで語り合うという事が認知症の予防にもなる。     それは回想法という言い方をしています。  思い出すことによって活性化するわけですが、懐かしいものを見るとしゃべりたくなる。  それが認知症の予防になったり健康の増進に繋がったりします。

20年前には、認知症の方が増えてきたりして、認知症の予防をするという事が非常に重要になって、当時師勝町では博物館が集めてきた懐かしい資料を使いながら介護予防、認知症を予防してゆく、健康を増進してゆく事業として立ち上がったものになります。   高齢者が見ると普段はしゃべらない人たちが身振り手振りしながら、当時の思い出を語りだすという風景が見られました。   プロフェッショナルな方たちと一緒になって取り入れるようになりました。

グループ回想法といいまして、10人程度の高齢者がいろんな話を1時間ぐらい展開してゆくという事で、思い出を語ってみんなで共有して楽しい時間を過ごしていただく、回想法スクールという言い方をしています。   毎週一回8か月になりますが、その人たちは見たこともあったこともない人たちですが、仲のいい気心の知れたグループが出来上がります。

子供たちに昔のことを体験してもらったり、昔のことを学んでもらったりするワークショップを開催しますが、回想法を参加された方たちに先生として来ていただいて、一緒になって洗濯板を使ったり、鰹節を削って出汁を飲んでみたりいろいろなことを体験していただいて、そうすると子供たちは感動します。  高齢者にとっても生き甲斐、遣り甲斐に繋がってゆく事業にもなります。   

病院とか施設でも回想法をやってみたいというところが増えてきて、高齢者が懐かしいと思うようなものを20セット貸し出しをして、懐かしい話に花を咲かせてもらうというわけです。    洗濯板、5つある算盤、アイロンの古いようなタイプなど、いろんな道具を箱に入れて貸し出します。  始めて3か月待ちというような状況が続きました。

開館が1990年ですが、1994年ぐらいから昭和の道具類の収集に取り組んできました。  当時は私一人でした。  TV、冷蔵庫、洗濯機などをゴミに出そうとしていたり、昭和30年代の教科書なども燃やしてしまうような状況にあり、そういったものを集めておくという事に気が付きました。  展示することによりまた新たに資料の提供もいただきました。  今登録しているもので約13万点になります。  10年前ぐらいから置き場所に困るという状況にあります。  大きいものは乗用車が10数台、オートバイが10数台、電化製品などがあり、小さいものだとビー玉、めんこ、防虫の樟脳の袋などがあります。   昭和の暮らしというテーマに置きながら、特別展、企画展を年に3回開催していますので、トータル100回ぐらいになります。   

1963年 南山大学大学院を終了して、師勝町の資料館に学芸員として就職しました。   養蚕の道具とか集まってきましたが、活用できない閉塞感がありました。  新しくするためには新たな資料を集めていくことが必要になり、それが昭和の戦後のもので、捨てたくはないが思い出が詰まっている、しかし捨てざるを得ないようなもの、それに着目して収集していきました。

昨年は第一回日本博物館協会賞を受賞、今年はヨーロッパの国際会議で、その成果を発表する機会を得ました。   本来クロアチアに行く予定ですが、コロナ禍でのオンラインインタビューでの活動報告となります。   昭和の生活資料を活用して認知症の予防をしてゆく、そういったことに取り組んでいる姿を伝えることによって、日本でも広がってきているので、その状況を報告したいと思っています。  「 The Best in Heritage 2019(至高の継承会議)」(クロアチア・ドブロブニクで開催)

今後、いろいろ試みをして新たなことにチャレンジしていきたいと思っています。