2021年5月12日水曜日

原島博(東京大学名誉教授)       ・マスク時代を「顔学」で読み解く

 原島博(東京大学名誉教授)       ・マスク時代を「顔学」で読み解く

1945年東京生まれ、1964年東京大学に入学、1991年から2009年の定年まで東京大学の教授を務めました。  大学では人と人とのコミュニケーションを技術的に支援することに関心を持ってこられました。  その一つとして顔学を研究し、1995年には人類学者の野田久男さんらと日本顔学会を設立しました。  大顔展の開催、顔の百科事典などの刊行をしています。  昨年はマスク時代の顔、コロナ渦の顔を考えるなどをテーマにして2度オンラインサロンを開きました。  新型ウイルス感染予防のためのマスク着用が長引いていますが、そんな中で人と人の顔を通してのコミュニケーションにどんな影響が出ているんでしょうか。  

子供のころは絵が好きでした。  40歳ごろに母親が段ボールを持ってきて、「あなたが10歳のころの絵が全部入っている。」と言いました。  びっくりしました。  その後哲学、宗教、心理学などの本を読みました。  大学は東京大学の理科一類に入学、63歳で定年退職。 「残された人生、知らない自分に会いに行く」ということをある人から言われました。 自分をフリーにすれば何か自分が見えてくるかもしれないと思いました。   3つの私立大学で芸術、数理、文学を担当。  大学では電子情報工学科でIAが専門です。  女子美、明治大学、立命館大学から声がかかりました。  

あるときに「匿顔」という名前を付けました。  或る時から人の顔にも関心を持ちました。   通信技術から入っているのでコミュニケーションなんですね。  顔でもコミュニケーションをしているのではないかと思いました。  TV電話の研究をしていましたが、なかなか普及しない原因はなぜだろうと思いました。  出たくない場合もあるのではないかと思いました。  いい顔として映るのにはどうしたらいいのか、ということを考え出したらだんだん顔の研究にのめりこんでいきました。   1995年に日本顔学会を作ることになりました。 

「匿顔」ということを言い出したのは、インッターネット、モバイルが普及し始めて、顔を見せないコミュニケーションで、そういうことを絡めて「匿顔」の時代が来るかもしれないと思ったわけです。  マスクをして現実の社会でも顔を隠さなければいけないというような状況になってきてしまいました。  顔学会に関しては世界でもまだ無いです。

19世紀から20世紀前半に、骨相学といって、その形からその人の性格、人柄などを当てようというものがありました。  骨相学会がヨーロッパにできました。  それを利用したのがヒトラーだという話があり、ドイツ民族は顔の形からしても優秀である、優秀でない民族もあるという事を言い出した。  それが悲惨な差別になってしまった。  美人とか、美人ではないとか、それも差別に結びついてゆく。  そういう歴史がありました。

顔は分類がない学問で、本を探すのにも大変です。  会員は心理学、人類学、哲学、美容関係、化粧関係、歯医者(矯正)、警察(モンタージュとか)、顔に障害のある人、などの人たちがいます。

顔というものは本来向こうからみられると気になるものではないか、気にならない顔は本来の顔ではないのではないか、という話になりました。  見られるとそれなりに意識をしてしまう。   ほとんどの動物の顔には毛があるが、人間には毛がない。  みんなで一緒にというのは人間の生存戦略だった。  それは互いにコミュニケーションすることです。 その時に顔の表情は非常に重要な役割をする。  口の近辺は本来攻撃の道具だったが、手がその役割をして、口の近辺が柔らかくなってきて、そこに表情が出てくる。   

手話は手でコミュニケーションしている、というようですが、顔の表情がかなり重要です。  マスクで顔の表情が遮断されてしまうという事は、聴覚障害の方にとってはもう一つ障害が増えたという事になってしまう。   

欧米人はマスクが嫌いですが、西洋の仮面は眼だけを隠して、口はあまり隠さない。 口を隠すという習慣がない。  口を隠すという事は何か悪いことをしているのではないかと思う。  目を隠すという事には抵抗感がない。  日本は鞍馬天狗、月光仮面など口を隠さない。  日本人は「目は口ほどにものをいう」、というように目でもコミュニケーションをしているのではないかという風に、最近研究が出て来ています。

神奈川県の或る市役所で、市民に対して、胸元に自分の顔写真をつけて対応したら、非常に好評だったという事がありました。  子供たちに同様なことをしていいか、という事がありましたが、僕は違うだろうと思いました。  知らない人に対しては、こういう人なんだろうという事で安心はするが、もともと知っている人とコミュニケーションするときには、中身はどうであるという事はわかるんです。   子供達の場合は相手と気持ちを通じ合いながら付き合うというものだと思います。   子供達には口元を隠さずにコミュニケーションしてほしいとは思います。(コロナ禍で難しいところもありますが)  心を通じ合いたいと思うとマスクは取りたいですね。  

赤ちゃんにとって一体顔とは何だろうと、黒い丸が二つあり、その下にもう一つあり、そうすると顔という事を認識します。 もう一つというものを隠してしまうと、一体そのあとどうなるんだろうと思います。  顔認知は赤ちゃんの早い時期に決まるので、重要なことだろうと思います。  

化粧をせずに一時過ごせるとか、マスクの便利な部分もあり、コロナが収束してもマスクは一つのファッションとして定着行くだろうと思います。   相手をしっかり理解してというようなことになると2mなどという事は無理だと思うし、コロナとは別にこれからの新しい生活様式という提案は本来のあり方ではないと個人的には思います。  本来きちんと顔を見せ合うコミュニケーションは大切だと思います。