2020年12月15日火曜日

結城 恵(群馬大学教授)        ・新時代の多文化共生社会の在り方

結城 恵(群馬大学教授)        ・新型コロナウイルスと共生する  新時代の多文化共生社会の在り方

結城さんの専門は教育社会学で取り組んでいるテーマは「多文化共生」です。  国籍や文化などが異なる人同士が違いを認め合い共に生きて行くことです。  大阪の出身で大学時代に幼児教育を学ぶためアメリカのイリノイ大学に入学されて、外国と日本の違いについて研究をされ、東京大学大学院で博士課程を取得後、平成8年から群馬大学教育学部で教鞭をとっています。  その傍ら外国人が多く暮らす群馬県大泉町などに通い、ご自身が外国人と日本人の懸け橋になろうと、多文化共生の道を歩み始めました。   結城さんがこれまで何に取り組み多文化共生を通して何を得ていったのかお話を伺います。

群馬大学に着任して来年で25年となります。   外国人住民と日本人住民がともに生き甲斐を持って生きるための模索の取り組み、多文化共生の取り組みでした。

群馬大学には教育学部、社会情報学部、医学部、理工学部があります。  これらの学部に共通する教養教育で多文化共生の理論と実勢を教えています。  社会情報学部では生まれ育った文化や社会が異なる人達とのコミュニケーションのあり方を探る講義を担当しています。

地域活動としては「グローカル・ハタラクラスぐんま プロジェクト」というプロジェクトを立ち上げ、企画運営を担当しています。   44のいろいろな機関の皆さんにご協力いただきその取り組みを進めています。  ハタラクラスとは卒業後も群馬で働き暮らすという願いを込めて付けました。   グローカルという言葉はグローバル+ローカルで、群馬にいながら全国、世界に発信できる、経済、産業、地域活動を展開するという意味です。

子供の学習支援、キャリア教育支援、外国人留学生を含めた大学生の就職促進、外国人の住民が高齢期に備えるための日本語教室、多文化共生推進をはじめとする地域の人材育成などを展開しています。

労働力不足が深刻化する日本社会において外国人住民は不足する労働力を補う存在であることが浮き彫りになっています。  今年は前年度より30万5000人減少していて11年間連続で減少してきました。   外国人住民の人口は6年連続で増加していて、増減率は7,48%増と高い伸びをしています。   全人口の生産人口の割合は日本人住民は約60%を占めています。  外国人住民では約85%、その人たちが労働力の即戦力となって働いている状況です。  生まれ育った文化や社会が異なる人たちと生き甲斐をもって暮らすための方策や働き甲斐のある職場環境作りを進めておかなければならない。   幼児期から老年期までの多様な場面を想定して必要な理念、具体的な方策を積み上げていかなければならないと考えています。

群馬県は町民の約20%を占める大泉町、伊勢崎市、太田市など日本有数の外国人集中地域があります。  国籍も多様になりました。    群馬県は多文化共生を考えるうえで最前線、最先端でもあります。   

私が多文化共生を考えるきっかけになったのは、大学院修士時代にフィールド調査に入った幼稚園でのある光景でした。  園児の中に二人日本語がほとんど分からないフランス人の子供が在籍していました。   大声で話したり、行動が違ったりしていたので「言葉が通じないので、お客様していただきましょう、許してあげましょう」と先生は声をかけました。   表現に違和感を私は覚えました。   疎外感、上から目線で許してもらったというような感じで、親切であるようで親切ではない微妙な表現だと思います。  当たり前が当たり前ではないとか、微妙なニュアンス、それに対して配慮できるように日常生活の中で積み重ねてゆくことが大切なんだという事が気付かされました。

15年前、外国人の両親の赤ちゃんが突然死してしまいました。  通訳の方が約束の時間になっても来ないし、1時間経っても来ませんでしたし、何の連絡もありませんでした。 研究室で仕事をしていると夜になってしまっていました。  ようやく電話が入りました。

役所から連絡があり病院で通訳をするようにとのことで、そこにいたのは集中治療室で亡くなった赤ちゃんを抱えて呆然とする保育園の園長と園長とコミュニケーションが取れずに困り果てていた医師と看護師でした。   そこに両親がいないことに気が付きました。  名前も連絡先を伝えようとしない。   そのうち両親が来て泣き叫びました。   赤ちゃんは朝は元気だった、子供の年齢を証明する書類がなかった、両親はつたない日本語、両親は不法就労者だった。  そんな関係で就労先にも連絡ができなかった。

通訳さんの話を聞いていたたまれなくなりました。  病院で言葉が通じないことに対してどうしたらいいのかわからなかった。   ATMのような機械が病院にあり、患者さんの症状や病歴を患者さんの母国語で聞いてくれたら、細かいニュアンスまで母国語で与えられて、瞬時に日本語に変換されたら病院側も助かるに違いないと思って、2005年に完成したのが群馬大学にある外来の自動受付システムです。

問診表をタッチパネル式に、問題個所を絵で示して、そこを叩けばおかしい箇所が判り、症状も細かく選択してできる。  名前も難しいものもあるので当人が入力する。  この装置は大変好評でした。  英語、ポルトガル語、スペイン語、日本語で対応していました。

多文化共生の取り組みは外国人の為だけに役に立つという事ではなくて、一人一人の違いに対応しその違いが持つ共通する不便さを解決することで、日本人も含めユニバーサルな暮らし易さを追求することになることに気が付きました。

外国人住民、外国人留学生の視点を生かせば、小さな3000人ぐらいの村からでも堂々と世界に発信し、世界と村との間に人と物の流れが集まるという経験も積み重ねています。

2018年には「グローカル・ハタラクラスぐんま プロジェクト」というプロジェクトでは観光日本語という取り組みをしました。  外国人住民が主役になって進めていただく。  外国人の観光客の気持ちになって企画を考えていただく。

外国人住民と一緒に酒蔵見学をしましたが、私は専門的な言葉で理解できなくて、通訳の人も外国人住民にたいしては上手く通訳できないとのことでした。  頭に浮かんだのが外来受付機の絵のことでした。  お酒も絵で示せないかなあと思いました。  漢字は象形文字から来ているので、うまく漢字で表現できないものかと思いました。  酒造会社、行政、観光関係、外国人留学生、日本人学生など70名に集まっていただき、漢字を象形文字化して、貼ってもらうデザインを考えてもらいました。

対話をすることにより、どういう気持ちで、どういう感情をもって、なぜそのように感じるんだろうとか、そういった対話ができる事によってお互いが認め合い、お互いが尊重しあい、お互いが補い合い、お互いが高めあっていける、と思います。