2019年3月9日土曜日

梅林秀行(「京都暮らし応援ネットワーク」理事)・「引きこもりを生き延びる」

梅林秀行(NPO「京都暮らし応援ネットワーク」理事)・「引きこもりを生き延びる」
45歳、NHKの人気番組「ブラタモリ」の京都の回に毎回登場する案内人、番組最多の7回出演。
梅林さんはもう一つの顔を持っています。
引きこもりなど生活に困っている人の相談員、NPO京都暮らし応援ネットワークの理事を務めています。
活動の原点は10年以上に渡って御自身が引きこもったと言う経験でした。
長い引きこもり生活を梅林さんは生き延びました、
どのようにして生き延びたのか、そしてその経験を相談員やガイドにどのように生かしているのか伺いました。

地面の形からやその上に生きてきた人々の生活や顔が出てきたらいいなあとそんな働きかけをしています。
できるだけ皆さんの乗って来るような言葉を考えています。
「京都暮らし応援ネットワーク」理事と言う事で、生活の困り事、悩み事、全ての相談にお答えすると言う、何でも相談です。
問題の当事者でいられる、人ごとのように思えない、それが僕にとっての相談員でいられる。
大学に入ってすぐ家から出られない状態になりました。
10年以上続きました。
研究者志望で歴史学、考古学等の分野の研究を東京の大学でやりたいと思っていました。
幼稚園、小学生低学年のころから一人で古墳、遺跡を歩いて土器を拾ったり、埴輪を拾ったりしていました。
一緒に行く友達はいませんでした。
東京の新しい環境にうまく適応できませんでした。
特にきっかけはありませんでした。
夜に起きて朝7時頃には寝ると言う生活スタイルでした。
起きている時には読書で、調子のいい時には研究室にだけはいけました。
考古学に関する本と、思想に関する本デカルトカントヘーゲルマルクスの本とかを沢山読みました。
自分の目ざしていたものから離れる焦りとか不安がありました。
命が終わったらいいなあというような思いがありました。
自分の困難は話しにくくて恥ずかしいと思いました。

最終的には早稲田大学から放り出されました。
中退と言う話がありましたが、除籍になりました。
名古屋の実家に戻りました。
夜中の3,4時ごろは一番安全な時間帯でした。
5時頃になると新聞屋の音が聞こえるので、また朝が来てしまうと思いました。
昼間になると、色んな刺激が入ってくるので危ないと思ってしまいます。
働け、学校に行けと言うような。
親が僕への接し方を変えていきました。
一般的に元気な時の関わりをそのまま続けよとうとします、愛があるから、それはよく判る。
しかし働けとは言わなくなった、最初はそれだけで十分です。
自分のかつての望みにすがり着きたくてもすがりつけない状態になってしまって、そこで初めて楽になれるのが、絶望、絶望の域迄行った時に初めて楽になる。
大学に行かなくてもいいんだと捉える。
上向いてきた時に支援団体の方に声を掛けられたのも一つです。
僕に何か力があるんだろうなという思いで関わってくれた、そう言われるとうれしいです。

最初、言ってくれた人の家に行って一緒に本を読んだりしていました。
好循環が生まれて、打ち込むようになって相談員の仕事に繋がっていきました。
京都で事業所ができると言う事で、立ちあげに関わることで名古屋から京都に転居しました。
ひきこもり支援という看板が掲げられると言う事で、却って行きずらい側面があるのではないかと感ずるようになりました。
8050問題、80歳の親が50歳の子供の面倒を見ないといけない。
親子であることをこだわらず、本人同士が離れてケースワーカーについてもらって生活等、本人が行きやすくなるところがあるので、権利を本人がしっかり行使できるようにささえてゆく。
そっちが本当の意味のサポートではないかと思います。
支援する以前の目標は本人が自立をすると言う事でしたが、今は生き延びてゆく、働けなくてもいい、布団から出られなくてもいい、その人が生き延びてゆくと言うふうに目標が変わりました。
本人がちょとでも楽なような生き方を一緒に考えたり探したりして手伝いたいと思います。
身体的暴力だけでなく心理的暴力もあるので、色んな困りごとが個人によってあるので、悩みが複数ある。

相談している時間がその人にとって居場所になっていたらいいと思います。
その人らしく過ごせる時間がまず相談の最初かなあといつも思います。
その場ですぐに解決するわけではないので、その人が困っていることを言ってもらえるような関係作りが一つ。
性暴力被害なんて言えないことがあるので、その人が困っていることをまず言ってもらえるような関係作りが一つ、何て言っていいかわからないと言う事があり、身振り手振りで出て来る困まりごとって一杯あるんです。
困っている人のそれなりの文法で悩みが判る様になる時間が必要なこともあります。
居場所型の相談も同じくらい大切だと思います。
最初メッセージが弱いので、弱い相談を大切にしたいと思います。
眠れているのか、掃除はとれているのか、きちんと休めているのか、心身ともに安らいでいるのか、それを僕の言葉で言うと「きちんとひきこもれている」のかなあと思います。
本人の言葉にならない言葉を翻訳して伝えて行く、だから弱い相談から出来たらいいなあと思います。

人間はあらかじめ効率的にできてはいない、物凄く非合理的で効率的でないのが人間だと思います。
合理的であるべき、生産性をあげてと言うふうに先入感で見てしまうと、回復までの道は遠いいでしょう。
回復していく時期に絶望してしまうと危険なところがあります。
孤独になって初めて得られる成長や回復は沢山あります。
タモリさんは孤独の価値を体現しています。
私は今でも一カ月に一度位引きこもりがあります。
孤独の空間のなかで読みふけったいろんな文献資料が、結果的に自分の専門性を培いまいた。
SOSをだすと必ず手を差し伸べてくれる人はいます、その人の事を判ってくれない所だったら一目散にその場から逃げた方がいいです。
ガイドも伝わらないことを伝えられるように一生懸命するし、一生懸命言葉を選ぶし、言葉を練っていきます。
相談員もこれからも繋がっておきたいです、自分の安全弁でもあるわけです。
相談員である事は同時に自分が尊敬している相談員との出会いの場でもある訳で、僕のしんどさがしんどく表現できる場所でもあるわけです。