2019年12月2日月曜日

小島なお(歌人)              ・【ほむほむのふむふむ】

小島なお(歌人)     ・【ほむほむのふむふむ】
最優秀賞 ほむほむ賞
「立ち止まるあなたの気配に泣き止んだ蝉と一緒にさよならを聞く」  (ゾンビーナ)
小島なお プロフィール
1986年東京生まれ、高校在学中に母(歌人・小島ゆかり)の手伝いをしながら短歌に親し
んで新聞投稿を始め、高校在学中に角川短歌賞を受賞。
2007年にコスモス短歌会に入会、同年第一歌集「乱反射」を刊行、第8回現代短歌新人賞、第10回駿河梅花文学賞を受賞。
2011年には「サリンジャーは死んでしまった 」を刊行。
現在はNHK短歌での短歌コーナー「やす短歌なお短歌」にレギュラー出演。

穂村:以前ゲストで来ていただいた東直子さんは私と同世代の歌人でしたが、小島さんは子ども世代、でも高校生の時からデビューしている
その世代のエースで、作品のすばらしさをみんなに知って欲しいと思って来ていただきました。
小島:穂村さんはかっこよくおびえている人という感じがします。
 いろんなものに対して違和感を抱いたりとか、おそれを敏感に持っているけれど、それを伝える言葉、テクニックが凄いと思っています。
私が短歌を作るきっかけになったのも、母が大学の非常勤講師をしていて、若い人向けに作っていた短歌を私がワープロでプリントしていました。
短歌って面白んだと興味を持つようになり始めました。
穂村:小島ゆかりさんは僕が始めたときにお姉さん世代で、才能があり優しい人という感じです。

穂村:第一歌集「乱反射」より
「シーラカンスの標本がある物理室いつも小さく耳鳴りがする」 小島なお
「いつも小さく耳鳴りがする」というところが凄い。
瞬時に現場の感覚がよみがえってくる感じがする。
小島:当時直感的なものだと思うんですが、高校生の時には自分の存在に悩んだり、自分にまつわることが一杯だったと思うが、シーラカンスのように生ける化石みたいなものを見ると繋がっているなあという感じがあって、恋、自分の将来、不安などはシーラカンスから来ているのかなあと思って、不思議な違和感、耳鳴りのような感じがしたと思います。

小島:「水中翼船炎上中「」より
「ひとつとしておなじかたちはないという結晶たちに襲われる夜」  穂村
ひとつとしておなじかたちはないというものに対する、恐怖、畏怖に鋭敏に反応しています。
穂村:現実的には雪に降られちゃったというだけの事ですが、短歌は言葉でもう一度表現した時に、同じ意味だけれど別の世界のように見せる機能があるような気がします。

穂村:第一歌集「乱反射」より
「もう二度とこんなに多くの段ボールを切ることはない最後の文化祭」  小島なお
自分の人生の中でもうこんなに多くの段ボールを切ることはないという事と最後の文化祭が響きあって、ある切なさ、を感じて見事な視点、表現だと思います。

小島:「天使断頭台のごとしも世に浮かぶ一コマだけのガードレールは」 穂村
 断頭台はギロチンの事かなあと読みました。
 天使は何をするとギロチンされてしまうのかなあと思って、穂村さんにとって天使は何か思いがある象徴的なものなのか、天使断頭台ってすごいなあと思いました。
天使の罪って是非お聞きしたいと思いました。
穂村:悪魔断頭台では詩にならないような気がします。
一個だけのガードレールが見かけるたびに不思議で、あまり機能しなさそうなものだと思いました。
役割の曖昧さがこの世のものではないような存在感になって、そこで天使が切られるのではないか、というふうに。
小島:短歌を始めたころに天使とか、人魚とか架空のものは短歌の中では出してはいけないよと言われたことがありまあす。
空想のものはいくらでもアレンジできてしまうから。
穂村さんはそういうものを堂々と歌われて、ほかの人にはできない凄い技だと思います。

穂村:クリスマスから逃げた思い出はあります。
小島:15年前はキリスト教系の学校へいっていた学生だったので、点灯式に参加するすることは憧れのイベントだったので、初めてお付き合いした人と参加したのが遠い思い出としてクリスマスは刻まれています。

穂村:第一歌集「乱反射」より
「噴水に乱反射する光あり性愛をまだ知らない私」      小島なお
10代の歌だと思いますが、それまでただの風景に見えていた噴水に乱反射する光ありというのが、恐れ、期待などいろんなものが乱反射ている、説明できないほど混乱した光がそこにある、未来のイメージに見えてくる。
小島:性愛のある恋と性愛のない恋がどう違うのかというものを思い始めたときに、心の中は反射ではなくて乱反射だなって思いました。
踏み込みたいようなでも怖いから乱が入った方がいいなと思いました。
穂村:この乱反射はタイトルの歌として素晴らしい作品だと思います。

小島:「何かこれ人魚臭いと渡されたエビアン水や夜の陸橋」
親しい男女の関係の人が、人魚臭いと言い放った彼女も魅力的だし、聞き逃さなかった
方もすごいし、エビアン水って、俳句の切れ字なのか詠嘆しているのか。
穂村:これは切れ字です。
僕はリアリズムではないので、頭の中でこんな事があったらいいなあという思いです。
人魚臭いは魚臭い、生臭いのバリエーションだと思います。

穂村:「十代にもどることはもうできないが戻らなくていい濃い夏の影」  小島なお
凄く力を感じる歌です。
淡い十代の時間に戻ることはできないと思っている、でも戻らなくてもいいと、足元には濃い夏の影が落ちている現在、感動します。
小島:十代が終わるという事に或る一抹の安心感、十代から解放されたという思いがありました。
20代には20代の苦しみがやってきて、今は33歳ですが、20代が終わりそうになり、30代になると大人になり自分は若さの葛藤に悩まされず、20代の自意識に悩まなくていいと思い30代になって嬉しく思いました。
30代になると30歳の苦しみがやってきて終わらないんです。
穂村:その通りだと思います。
その場に行かないと気づかない。
見えている風景が全く後半生になってゆくと、変わってくるみたいな衝撃はあります。

ほむほむ スペシャル応募の中から
「ぷちぷちでふむふむ聞いたほむほむの教えも遠くいまだに飛べず」
「あ いつも車椅子押しているあの人今日は一人でバス停にいる」
車椅子とセットで見ていた人に、一人でいるとあれっと思う。
その驚きはよくわかります。

*短歌の文字は違ってる可能性があります。