2018年11月1日木曜日

辻 哲夫(東京大学特任教授)       ・高齢者に安心な団地を目指して

辻 哲夫(東京大学特任教授)       ・高齢者に安心な団地を目指して
高齢化する千葉県柏市の豊四季台団地を安心して住みやすくする取り組みの話です。
昭和39年に誕生した豊四季台団地には首都圏で働くサラリーマンが暮らし、高度経済成長を支えました。
半世紀過ぎた今、高齢化率が40%となって次第に活力が失われてきました。
東京大学と柏市などでは医師会と協力して在宅医療を取り入れ高齢者が安心して生活できるようにし、更に高齢化が進む市町村の医療と介護ケアシステムのモデルにしようと、柏プロジェクトを展開しています。
辻さんはそのリーダーです。
これまで厚生労働省で社会保証制度作りに携わり、事務次官を退任してからは東京大学高齢者社会総合研究機構の特任教授して柏プロジェクトに取り組んでいます。

70歳ですが、ずーっといままで人生現役です。
日本は世界第一の高齢国で、65歳以上の人口が総人口に占める割合が世界で一番で、ダントツでトップで、今後も世界のトップを走って行くわけですが、これからどのようなことが課題かというと、75歳以上の人口が物凄く増えて行きます。
75歳ぐらいから身体が弱り始めます。
世界で経験したことのないことで、最終的には75歳以上の人口が総人口の1/4位になる時代が来ます。
団塊の世代は日本の経済発展の過程で都市部に移動し団地などで暮らしました。
団地の未来をどう考えるかが、一つの象徴です。
典型モデルが豊四季台団地という昭和39年に出来た大きな団地です。
そこがどのような町になっていったらいいのか、ということに取り組んでいます。
今後の日本のあり方を探っているのが柏プロジェクトです。

当時団地はサラリーマンの夢の住み家でした。
安心で活力があって良い街にしようという試みをしています。
東京大学の柏キャンパスがあり、緊密な関係になっていますので、柏で取り組み始めました。
柏市の元保健福祉部長の木村誠一さんとは、現職の時に一定の提案をしました。
モデル図を柏市に提案したが、私もいいと思ってURにも提案したが、まだ停滞していると言うことでした。
やっと私が目指した事に全国でただ一人やりたいと思っている部長に会い、感激でした。
木村さんとの出会いがプロジェクトの入り口になった訳です。
「エイジング・イン・プレイス」、自分が住み慣れたところで最後まで住み切ると言う概念。
世界の共通目標になっている。
弱ってくると病院に行って、日本では約8割の人が病院で亡くなっています。
理由は
①家族に迷惑をかけるから。
②医療上の不安がある。
医療は救急車で病院に行くしかないので、そこで寝たきりになり、施設とかでは多くて困ってる。
家に医師が来てくれれば、在宅介護ができる。
訪問診療の医療が及んでいないと言うことが非常に問題になっています。
在宅医療はどうしても必要で、どうするかが問題となる。
医療、介護もしっかりしたものを地域に埋め込んでゆくこと、このモデルを作ろうとしました。
5年計画でやりまして、現在動いています。
75歳以上の人が一杯いる社会では、一番大事なのは歳をとっても出来るだけ元気でいることだと思う。
東大で飯島先生の研究でフレイル(虚弱)をやっている。
歳をとって弱るのはなぜか、しっかり食べることが大事です。
タンパク質と野菜をしっかり食べる、そのためには口の機能(歯、飲みもく力等)を大事にする。
運動、社会参加、社会とかかわる接点を持つ。
最初に弱る兆候が見えるのは、社会とのかかわりが減り始める時なんです。
出かける回数が減る、友達が減るとか。
いかに社会とかかわるかという事を如何に長く持って行くようにするかということが、みんなが元気でいられると言うことがはっきりわかってきました。
一日一回以上でかける人は、1週間に一回出かける人に比べ、足が弱る危険度は1/4になると言う事。
認知症になる危険度は1/3.5と言う事が判ってきました。
閉じこもらない最たるものは、地域で働くこと。
秋山弘子先生は生涯現役を強く唱えています。
3人で一人分とか、6人で一人分とかで組んで、お互いに相談して、分担して働く。
農業、子育て支援(保育所、幼稚園のお手伝い)、施設での家事のお手伝いなど友達関係を持ちながら手伝う。
その普及に柏では取り組んでいます。
柏では地域で生きがいを持って働ける場所を作りだしている。
柏からいかに全国に広げていくか、厚労省が取り上げて動き始めています。

弱っても、安心、在宅医療が絶対の要件になります。
医師個人の力量に頼るのではなく、システムとして成り立たせる、そうなると地域の医師会が在宅医療を取り組む医師を、増やしてゆく方針を取っていかないといけない。
フォローする為には医師をグループ化してゆく必要がある。
医師の研修プログラムを開発して柏では普及していて、研修プログラムを全国にも紹介されています。
医師としては判断することが重要で、医師と他職種(看護師、ケア関係とか)が連携することが重要です。
連携システムは市役所がやる必要がある。
医師会と市役所が組んで初めて在宅医療が実現するんです。
モデルが柏プロジェクトで全国に知られるようになりました。
市町村と医師会が組む、これがこれからの医療のあり方です。
木村さんとは考え方がなにもかも一致しました、これも非常に幸運でした。
地元の医師会も理解があり、すんなり進みました。
システムなので何処でもやれるはずだと思います。

地域医療連携センターという建物があり、医師会、市役所の保健福祉部、他職種も入っています。
医師会館の移転の話があり、医師会と市役所が同じ場所を作ったら判りやすいと思って出来ました。
地域包括ケアそのものでした。
介護予防政策支援、要介護にならないようにする予防が大事。
これからは一人暮らしが多くなるので、段々買い物が出来なくなって、食べるものがおろそかになったり、ゴミ捨てが大変になったりするが、見守り、相談、困りごとの対応とか、こういうことに地域がきちっと対応出来るようにしていかなくてはいけない。
柏プロジェクトパート2、介護予防と、生活支援システムの整備のモデル化に取り組んでいます。
介護予防は閉じこもらない、コミュニティーで色んな役割を持って閉じこもらない生き方をする。
住民が主体になってコミュニティーを作っていくことが重要で、ようやく着手しました。
出会い、ふれ合い、支え合い、「あい」が最後にみんな付くので「3あい祭り」と言っています。
住み心地のいい、みんなが主役になれるような街作りをしようという方向にむかっていてそれがこれからです。

柏でも40万人の大都市なのでこういう仕組みがあることを知らない人達がいます。
「我が家」という在宅医療の一枚の新聞ですが、柏で全国配付していますが、読んでいる人はそう多くはないと思います。
市民に情報が到達すると言うことは、本当に大変なことですが、一番大切なことだと思います。
日常生活圏(30分で歩いて動けるようなコミュニティー 中学校区単位)の地域ごとに色んな事が整っていないと、安心して過ごしていけないので、日常生活圏単位にそういうものがちゃんとできると言う方向に向かわなくてはいけない。
厚労省では生活支援体制整備事業、見守り、相談、困りごとの対応が出来るような圏域ごとにたすけあいの体制を作りましょうと言う事業がある。
2025年に向けて体制を作って行こうと言うことがどういうふうにできて行くのか、今後の大きな課題です。
「老いては子に従え」という言葉があるが、それはこれからは間違いで「老いてもまず自らが自らのことを考える」そういう時代が来たんです。
先ずは自分が弱らないような努力をする、それと合わせて自分の行動範囲が狭くなるので、地域で自分が何ができるかという事を考える。
地域で仲間ができる。
人生は職場の肩書だけで過ごすには長すぎる。
仕上げは地域に戻って、自分が自分として地域の中で生きる、これからはそう言う社会ではないかと思う。

柏プロジェクトで得たことを論理化する、最初の5年に関しては本を出しました。
次の5年のものも書籍に出したいと思っています。
モデル化して転用できる、それを参考にして自分たちがもっと良い物をつくろう、というような中身の仕事をちゃんとやって行くことが大事だと思っています。
未知の超高齢者社会に対して、新しい方向を出してトライしないといけないと思います。