2023年7月31日月曜日

西加奈子(作家)            ・がんになって見えた風景

 西加奈子(作家)            ・がんになって見えた風景

西さんは1977年生まれ46歳。 父の海外赴任地イランテヘランに生まれ、幼少期をエジプトのカイロで過ごし、その後大阪府和泉市で育ちました。  大学卒業後情報誌のライターのアルバイトで書くことの喜びを感じ、2004年に小説「あおい」で文壇デビュー、2015年には小説「さらば」で直木賞を受賞しました。  2019年12月から語学留学のため家族と転居したカナダのバンクーバーで2年前に乳がんが見つかります。  コロナ禍でもありカナダでの乳がんの治療を強いられた西さんは、その自身の体験を「蜘蛛を捜す」というノンフィクション作品として発表し大きな反響を呼んでいます。  西さんに日本とカナダの医療システムの違いに戸惑いながらも、カナダの医療機関で闘病を行い克服し、がんになって初めて見えたというその風景など、がんとの向き合い方日いて伺いました。

がんと宣告されたのが2021年の8月です。  しこりはその年の2月ごろに見つけていました。  5月に病院に行っていろいろな検査をし8月に宣告されました。  南京虫に食われたらしくて、仕方なく5月に病院に行きました。   蜘蛛に食われたようで、他に何か気になることはないかと言われてしこりがあることを伝えました。   それから検査が行われました。  電話で結果を聞いた時にはあまり実感はありませんでしたが、専門医からステージ2bと詳細に聞いた時は凄くショックでした。  進行も早いという事でこちらで治療する覚悟を決めました。  当時子供は4歳で、夫に話をしても直すしかないという事で変らずに過ごしてくれました。   友人たちにも子供の面倒を見てもらったりしまた。  

闘病記に記そうとは思っていませんでした。  宣告された日に日記をつけ始めました。  その後客観視した文章を綴ることを始めました。   大分溜まって来て誰かに呼んでほしいと思うようになりました。  私の担当編集者の方に読んで欲しいと思いました。    タイトルのくもをさがす」というのは、虫に沢山食われましたが、祖母が弘法大師の大ファンで「蜘蛛は殺してはあかんで。」とよく言っていました。  これって祖母が私に教えてくれているのではないかと思いました。  あの蜘蛛は祖母だと思っているんです。   何かに耳を澄ます、目を凝らすという事をこれからもしたいと思いを込めて「くもをさがす」としました。 

25万部売れているところです。  乳がん以外のこともいろいろ書いたので、そこに共鳴してくれたのかもしれません。  小説は出した瞬間に読者のものだと思っています。   

男性の英語は標準語に聞こえて、女性の英語は関西弁に聞こえました。(関西のおばちゃん風)   可哀そうな患者としては一度も扱われませんでした。  抗がん剤の影響で髪の毛が抜けることはつらくはなかったですが、数か月間で絶好調という日はなかったです。 その前までは人生で一番トレーニング、エクササイズなど異常にやっていました。     時間は戻らないし、自分が悪かったというう事は絶対思わないようにしました。     看護師から「喜びは奪われるべきではない。」と言われハッとしました。   免疫力が衰えている中で、コロナ禍でそこら中に消毒液があるし、マスクをしてくれているのでかえって良かったと思いました。      

全摘手術が終わって自分の身体を見て、かっこいいと思いました。  予防的にもう一方も摘出しました。  変異遺伝子があったので、右にあったけど左に転移する確率は80%以上あり、取った方がいいと言われ迷わなかったです。   何歳になっても素敵な人に出会えて、その人が一生の友人になるという事を知ったので、それだけでも言ってよかったと思います。  「ミールトレイン」(ールトレインというのはカレンダーに友人たちがメニューを書き込んでくれ、毎日順番にご飯を届けてもらえるシステム)は本当にありがたかったです。 愛としか言えないようなものでした。

手術後に「人生で一番自分の身体を好きになった瞬間かもしれなかった。」と本に書いてありますが、  本当にかっこいいと思いました。    40何年間生きてきて、身体はずーっと休まず動いてくれて来ていて、もっと褒めるべきと思って、自分の身体をいつくしんだ、愛した瞬間でした。  一番やりたかったのは日本の家族(両親とか)と友人たちと会う事でしたがすぐできなかったので、思い切り泳ぐことでした。   キックボクシングは再開していませんが、柔術は再開しました。  

どう感じるかは読み手の方が決めることを大前提として、伝えたいのは、私の身体は世界でたった一つ、人生、命はたった一つであるように、読んでいる方も身体は世界でたった一つ、人生、命はたった一つだという事です。  或る程度死の淵を見たという点では、凄く大きな出来事ですけど、私の人生の瞬間に過ぎなかったと思うんです。   作家になって15年ほどになりますが、作家というよりは読者であることの喜びは全く減じないです。 今後どんな本に出合えるのか楽しみで仕方ないです。 

貴方の身体はたった一つだし、命もたった一つ、貴方の生を、身体を、生き方を愛するのは世界で貴方のはずです。  ご自身の命と身体を兎に角兎に角愛しんであげて欲しいです。