2022年5月28日土曜日

役所広司(俳優)            ・【私の人生手帖(てちょう)】

 役所広司(俳優)            ・【私の人生手帖(てちょう)】

1956年長崎県諫早市出身、東京の千代田区役所に就職の後、仲代達矢さんの無名塾に入塾しました。   NHKの大河ドラマ「徳川家康」の信長役を演じて人気を集めたほか、「Shall we ダンス?」や「うなぎ」などの映画で国際的にも高く評価されるなど、日本を代表する役者の一人です。  あまり語られてこなかった新人時代のエピソードや、役者人生について伺いました。

夜は次の作品に対する資料を読んだり、セリフが方言であるとそれを聞いたりするので寝るのは遅くなります。   子供のころはまだテレビがなくていつもラジオを聞いていました。  テレビは最初隣に見に行っていました。  小学校高学年になるとよく映画(洋画)を見に行っていました。   家が飲料水を瓶詰して店とか映画館に配達していたので、配達に行った時など見ていたりもしました。    東京に憧れて高校を卒業したら行ってみたいと思いました。  千代田区区役所に就職し4年務めました。  土木工事課に配属されて道路工事の図面を書いたり、現場監督をやったりしていました。   友人に連れられて観劇した仲代達矢主演の舞台公演『どん底』に感銘を受けました。    田舎に帰ろうと思っていたが、その前に一寸演劇でもやろうかなと思っていたころに、新聞を見たら無名塾で募集をしている記事を見て受けました。   朗読もパントマイムも何もできなかったが一次試験に受かってしまいました。   二次試験は自分の似合う服装で来てほしいと言われたが、聞き逃して居ました。   えっと思ったが、受かってしまいました。  最終的には4人が合格しましたが、200倍でした。   

無名塾では厳しかったです。  最初の入塾式に遅刻してしまいました。  仲代さんから時間にルーズだからみんなより1,2時間前には来るように言われて、早くいかないと落ち着かない体質になってしまいました。   時間と、ちゃんと挨拶が出来る事、先輩を立てる事、それは耳にタコができる程言われました。  やる気の感じ、うまくなりたいかどうか、と言う気持ちは観ていて判るんでしょうね。    後輩に益岡 徹さんがいて、彼とは一緒に帰りに駅のホームでパントマイムをやったり、いろいろ演技のまねごとをやっていました。

1980年NHK連続テレビ小説なっちゃんの写真館』でテレビデビューしました。  22歳でした。  1983年のNHK大河ドラマ徳川家康』では織田信長役でした。  緊張してセリフが出なかったこともありました。   複数台のカメラで撮られていると、段々気持ちが自由になってきて、自由に出来るといい瞬間があるかなあと思いながらやっていると、カメラの前で自由になった気がしました。   矢張り自由さは大事だと思います。   演技も垢が溜まって来るので、俳優は長く続けていくと不利になって行きますね。    何が力になるかと言うと生まれていろいろ経験してきたことが、芝居に役に立つというか、本とか、見た映画から引っ張り出してくるとか、いろいろかき集めてゆく作業ですよね。   歴史上の人物をやる時にはスタッフが資料を用意してくれるし、それを読むわけですが、本当に存在したその男はどんな人だろうという時に、自分の中で感じたことのあるものを捜してゆく、それに頼るしかないですね。  創造力だけではなかなか上手くいかない。  

しっくりしない時など、こんなシーンを演じるに値する場所、セット、小道具、その日の時間、天候とか、そういうのが助けてくれたりするんだと思います。   不自由な中で自由を見つけるのが俳優の仕事ではないかと思います。  

出会った人が自分を育ててくれたと思っていて、自分は幸運な人だと思います。   役者としては自分は苦労知らずなところがあって、ラッキーなところでスタートしていますが、でも毎回毎回うまくいかなかったなあとか、うまく進むにはどうしたらいいかなという事は、それは毎回です。Shall we ダンス?」では長いセリフがありますが、待たされた時があり、芝居になってとても感情的になって、監督からもっと感情を押さえていきましょう、と言われた時もあります。  

最新作は司馬遼太郎さんの「峠」という原作を元にした「峠最後の侍」というタイトルです。 監督は小泉 堯史さん(長い間黒沢監督の下で助監督をしていた)で美しい映画を撮りたいと、そうしないと黒沢明さんに顔向けできないという監督です。  「峠」は司馬さんが侍とは、武士とは武士道とは何だろうと思って、それを知りたくて書き始めた作品で、主人公は長岡藩家老の河井継之助です。  新政府軍と長岡藩との戦いで約5万人に対した360人ぐらいで戦うが、無条件降伏と言う選択肢はあるが、侍としての生き方を選ぶか、長岡藩の庶民の無事を選ぶか迷うが、美しい人間として汚名を残してはいけないんじゃないかと言う思いがあって、戦争に突き進むわけです。  毅然としてプライドを持って戦った侍は今の日本人にとって勇気を与えてくれるのではないかと思います。