2022年4月29日金曜日

角南有紀(声楽家)           ・"乳がんの経験"を絵本で伝える

 角南有紀(声楽家)           ・"乳がんの経験"を絵本で伝える

愛媛県出身の声楽家で東京芸術大学大学院を終了後に、イタリアのナポリ国立音楽院に留学し、イタリア各地のオペラやコンサートに出演しました。   ピアニストでイタリア人のアルベルト・ピッツオーさんと出会い、結婚。  3年前に完全帰国し、現在は二期会の声楽家、イタリア語の翻訳家としても活動、5歳の男の子の母でもあります。  角南さんは2年前に乳がんが見つかり、抗がん剤治療、手術、放射線治療を受けました。  角南さんは同じような経験をしている母親と家族の役に立ちたいと、イラストレーターの友人の助けを借りて、電子書籍、絵本「ママのおっぱい」を制作、さらに角南さんは多くの人の支援を受けて、この4月に紙の絵本の制作も実現しました。  角南さんにどう乳がんを乗り越えてきたのか、家族や絵本製作への思いなど伺いました。

小学校の頃に合唱をしていて、それがきっかけで歌が好きになりました。  本格的に始めたのは高校生になってからで、大学に入ってからは音楽の先生になりたいと思っていました。  周りでオペラを歌っているのを聞いて、私も歌いたいと思うようになりました。 人前で歌うようになって快感と言うか、気持ちがよくなって、聞く人も笑顔になったり泣いたり音楽には凄い力があるんだなと感じています。  恩師の林康子先生がイタリアと日本を拠点に活躍していて、イタリアで勉強したいと思う様になりました。   最初は厳しかったです。  イタリア人は声もいいし、アジアに対する偏見みたいなものもあるし、どう食い込んでいくか考えましたが、アジア人だからこそ歌える歌があると思ってからは楽しくなりました。   イタリア人の女の子と3人で一緒の部屋に住んでいて、1,2年で大分しゃべれるようになりました。   ナポリ国立音楽員で彼(アルベルト・ピッツオー)が演劇法の授業で伴奏助手をしていて、そこで出会いました。   

最初反対されて、結婚までに私の両親から3つの課題を出されました。  ①日本語が少しでも話せるようになる事。 ②日本でも二人で音楽活動をすること。 ③経済的に安定して食べてゆくこと。 クリアするまでの7年かかりました。   出産は日本で行いすぐにイタリアに戻りました。   小さいころは大きな声で歌っても関係なかったんですが、5歳になって「うるさいからやめてよ」、などと言われてしまいます。  ピアノの音は何も言いません。  怜音(れおん)という名前はアルベルトがつけました。  

日本に戻る前からしこりがあり検査では良性でしたが、或る日チクチク痛いような感じがして、日本に戻って検査をしたら悪性でした。   何よりもまず息子のことが心配で、日本に来たばかりの夫も心配でした。   夫はイタリアにいてコンサートの仕事があったので言わないつもりでしたが、何か察した様で言ってしまいました。   コロナ禍でイタリアを出る時も日本に来た時にも、待機とかいろいろあってなかなか会えませんでした。   父が医師なので判った時にすぐ連絡して、治療の環境は整えてくれました。  母は食事療法などやってくれました。   

 まず抗癌剤治療をして小さくしてから全摘の手術を受けました。  次に放射線治療を受けました。  一番つらかったのは抗癌剤治療ですね。  食欲がなくなり、味覚障害となり、髪の毛、眉毛も落ちてしまいました。   心配させるよりはキチンと判っていた方がいいと思って早い段階で子供には言いました。   4歳でしたがちゃんと理解してくれました。    乳房を取られることに対しては多少抵抗は有りましたが、治療してもらえるという事は幸せなことだと思って、不安よりは前向きな気持ちに成れました。   四国がんセンターで同じ病気の人たちなので、回りからいろいろ教えてもらえました。     両親には元気な振りを見せますが、夫には辛い時などにはつい八つ当たりをしてしまいました。   

絵本のことに関しては、辛い抗癌剤治療が終わって、これから手術をするという時に考えました。  ふと病気の親を持つこどものために何かできないだろうかと考えました。   乳癌患者の親とそのこどもたちのために活動したいと思いました。 高校の同級生の澤田乃理子さんが絵を描いてくれました。  最初は電子絵本と言う形で作られ、今年クラウドファンディングを経て、紙の絵本となりました。   子供には電子書籍は合わないので、紙の媒体で親子で読んで欲しいと思いました。   

コンサートの日程もあり、それに間に合うように治療を一生懸命行い、復帰できました。  稽古場に足を踏み入れた時には嬉しくて嬉しくて、どんなに厳しいことを言われても、なんでも嬉しかったです。   宮本亜門さんからは「楽しく歌おうね」と言われました。

「ママのおっぱい」 朗読

さいきんママがいないんだ

よくびょういんにいってるの

ようちえんには ばあばがむかえにきてくれる

おふろにはじいじとはいる たたかいごっこをするんだ

おやすみのひはいとこのしーちゃんちにあそびにいく

おとうとのゆーくんもいる

ぼくががんばってるから

ママもがんばれるんだって

だからなかない

でもねパパがきてくれるとほっとするんだ

だってないてもいいから

ぼくはながいかみのママがすきだったんだけど

ママははげちゃんになっちゃったの

それにね、ぼくのだいすきなママのおっぱい

ひとつなくなっちゃうんだって

またすぐにかってきて つけてほしいな

おっぱいだんだんはえてくるのかな

でもねママがいってた

かみのけまたのばすねって

でも おっぱいはもうもどらないんだって

どうしてなくなっちゃうの…?

ママのことがすきなのに

ママのぜんぶがだいすきなのに

 ぼく、びょういんにいって

あんまりママのこととらないでって

たのみにいこうとおもう

 そうママにいったら

ママはぼくをぎゅっとだきしめて

いったんだ

びょういんのせんせいは

せいぎのみかたなんだって

ママのびょうきをやっつけてくれるんだって

 ぼくもおおきくなったら

もっとつよくなってママをまもってみせる

おっぱいがなくなっても

ぼくはママがだいすきだから

ぼく、がんばるよママもがんばってね


クラウドファンディングを立ち上げて5日目で目標を達成して、心より感謝していて、この絵本を今後の活動に生かしていきたいと思っています。