2021年2月4日木曜日

佐藤正広(東京外国語大学大学院特任教授)・国勢調査を暮らしに生かす

佐藤正広(東京外国語大学大学院特任教授)・国勢調査を暮らしに生かす 

昨年10月に国勢調査が行われました。  今回の調査は日本で国勢調査が始まって100年目という調査でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、これまでにない低い回収率が予想されています。   国勢調査は5年ごとに行われ、日本国内の人口、世帯の実態を把握して、衆議院の選挙区を決めたり、地方交付税の配分を決める基準になり、民間では需要動向の調査、出店戦略をたてたりするときなど幅広く使われています。  いまでは時代とともに回収率が低くなるという課題を抱えています。   佐藤さんは国政調査を長年研究する数少ない学者です。    国勢調査は国民の公共財であるとお話になります。   著書「国勢調査 日本社会の百年」では国勢調査から見える日本の100年の姿を語り今後の課題も指摘しています。

明治35年に国勢調査に関する法律が制定されて、第一回目は1905年にやると言われていましたが、日露戦争が起きてしまい、無期延期になり、大正9年に第一回をやることになりました。   1920年5590万人 1970年に1億300万人、2015年では1億2700万人。   今は減少になっています。

2020年は大規模調査になっています。   電算機が無く算盤とパンチカードの時代だったので、大正9年に調査をした結果が出そろうのは昭和になってからです。  1960年代以降大型電算機が導入されてからは大幅に改善されました。

小学校、中学校とか卒業、交通手段(昼間人口、夜間人口が判るし、時刻表の作成にも役立つ)、などいろいろ調査がある。

今回の回収率は7割ぐらいだと言われている。  インターネットで回答するようにしても下がっていて、根本的な見直しが必要ではないかと言われている。  

国作りの基礎資料になる。  民間がデータを利用するという事もあります。  メッシュ統計、250mのメッシュが高齢者が何人、どういう仕事をしている人が多いとか、昼間人口と夜間人口がどう違うとか、それぞれのメッシュについて判るわけです。   事業所、企業がどのように分布しているかという事がわかります。  老人が多いのに老人福祉施設がないとか、人口比率の割にコンビニが無いとかが判るわけです。  地方交付税の選定などにも使われています。  市に昇格するための人口のチェックなども使われたりもします。   下水道のインフラ、ごみ処理能力、道路の整備などには国勢調査で実際にいる人がどうかを調べることが大事になります。

東日本大震災がありましたが、国税調査の一年後だったので、被害を受けた地域に何人住んでいたかが判るわけで、図表等で公開して、明らかにしたりして、災害への対処などにも使われます。  避難所の数の対処。

住民全てがどこにいるか把握されているので、母集団リストの中から無作為に抽出して、より複雑な調査をすることによって、標本誤差を数学的にどのぐらいに収まってるかが判るので、無抽出した調査で全世帯の動向を反映しているとみなすことが出来る。

メッシュ統計はもっと利用されていい統計だと思います。  インターネットでダウンロードできるが加工する仕方が非常に難しくてうまくいかない。  公共財だと思っているが、需要が少ないので統計局はそこにお金を掛けていないと思うんです。   

「国勢調査 日本社会の百年」 という著書があります。   国勢調査を研究し始めて30年になります。   統計に関して歴史のトレーニングを受けてきた私が何ができるか考えてきたら、統計の歴史をやればいいのではないかと思い至りました。  

現代の国勢調査と大正9年とか昭和5年とかでは全然環境が違っていました。  今は認知度も低くて、プライバシーの侵害だと嫌がられたりしますが、大正9年では国勢調査では第一次世界大戦の戦勝国で列強の一員になったという事が住民の意識にもあり、国勢調査は文明国だという事の証しだという気分が強かった。  調査員になることは大変な名誉だと考えられていました。   

「名も知らず人が言うから熊と書き」 当時は戸籍の届けられている名前がそのまま名乗っていないケースが結構あって、国勢調査は国籍と違う調査なので、周りから呼ばれている名前でも自分の名前として回答していいという事になっていたんで、そういったことになるわけです。

「じじばばは互いに歳を尋ねあい」 歳を旧暦の干支で勘定していたりして、生まれた年を聞かれてもよく判らなあったというような事がありました。

昭和15年の国勢調査は非常に特殊で、戦地にいる軍人も調べました。  通常は日本国以内にいる人すべてを調べることになってる。   日本の帝国の力の及ぶ範囲以内の人を調べることになったんだと思います。  別の年に海外からの引き上げの調査もしています。

回収率が低いと、正確な国勢の状態が判らないが、解決することは非常に難しい。  国勢調査なんて関係ないと思っている人がいっぱいいるので、全数調査をすることは非常に難しい。   オートロックマンションがあり、調査員が立ち入れないので調査の実施が難しくなった。   個人情報保護法が成立した後、拒否する人が多くなった。  個人情報は統計局に集まってくるが個人情報として発表はしていない。  必ず集計量で行い、個人情報が漏れないように加工して発表しています。

社会を対象にした統計はいろいろなところで使われ方がされているが、統計の教育がうまくなされていない。

イギリスでは250mメッシュで身体障害者がどれだけいるか、という統計をイギリスは発表しています。   誰かという事がわかってしまうが、あえて発表しているという事は、そういう統計がないとそういう福祉政策が立案、提案できないという事を認めているからで、統計がこういう風に使えるという知識は人々の中にあると思います。

ヨーロッパでは新しいやり方に替わってきている。  日本でいえばマイナンバー制度を統計に転用するというやり方です。  住民基本台帳、税務資料、福祉について使われていて、国勢調査の代わりにやれば、調査拒否もないのでうまくのではないかと言われています。   イギリス、ドイツ、オランダ、北欧3ケ国もそうなっています。

国勢調査をちゃんと取り上げた教育をして欲しいと思います。  そうしないと統計に対する人々の意識は変わらないと思います。