2023年3月17日金曜日

伊藤清子(看護師・認定NPO法人理事)  ・生きる力を支えることができれば

 伊藤清子(看護師・認定NPO法人理事)  ・生きる力を支えることができれば

こどもホスピスはイギリス発祥の文化で、病院ではなく重い病気と共にある子供や家族がゆったりと過ごせるお家です。 横浜こどもホスピスは一昨年2021年11月日本で2か所目のコミュニティー型こどもホスピスとして誕生し、昨年の7月からは宿泊もできるようになりました。   伊藤さんは4年前に神奈川県立がんセンターの副院長を退き、こどもホスピスで本来の看護の意味や、医療の在り方を問い直しています。 

神奈川県立がんセンターを定年退職をしまして、このホスピスに勤務しました。  その前は子供専門病院に勤めたり、循環器専門病院に勤めたり、41年間の看護師生活をしてきました。   最初に勤めたこども医療センターでは、子供が好きで看護師になったので、選んだのがこども医療センターでした。   最初手術室に配置されてその後、乳児の外科病棟、幼児内科病棟で25年ほど勤めました。   その中の10年ぐらいは小児がんや難病と闘う幼児内科病棟で看護師をしていました。   生まれたばかりのこどもが大きな病気を持っていて、直ぐ手術をしなければいけない沢山の子供達がいました。  手術前、手術後のことも経験しました。  医師は医学の知識を持って薬を出したり、治療の方法を考えます。    看護師はそのお子さんに合った方法で薬を飲ませたりという事で、そのお子さんのことが判らなければ実は看護できないんです。   看護師の立場も大きいものだと思っています。  体調などによって薬が上手く飲めないような時に、どうやったらうまく飲むことができるか、そのお子さんにとってうまく飲める方法を探すことが大切かなあと思っています。  

子供達とは本当によく話していました。   30年前の幼児内科病棟ではお休みの時に、絵本を館内放送で読んで、一人一人お休みなさいと言って照明スイッチを切るという事もしていました。   「死ぬってどんなこと」と聞かれることもありました。  或る重い病気の女の子が「闘病記」の亡くなる場面を繰り返し読んで欲しいと言ってきて、読んであげている時に声が震えたり泣きそうになった時に「死ぬってどんなこと」と聞いてきました。  「亡くなることは悲しいね」と話して、その子が言ったことが「私もわからない」という風に言いました。   大人が考える死と子供が考える死は違っていたんだと思います。   その子は死に関することをいつも考えていたと思います。 

治療法のないお子さんが生まれてきて、そばで見ているしかないという経験もしました。  治療が出来ない病気がこんなにあるんだなという事を新生児乳児病棟で感じました。    重い病気の子たちはみんな明るくて笑顔が疲れを忘れさせてくれるんです。   ティッシュでケーキを作るとか、今あるもので楽しいことを見つけながら、そこで笑顔になったり、いたずらしたりする子供の姿は凄いなあと思います。   大人はそれまでの経験から絶望してしまう事があるが、子供たちはそれがなかったり少なかったりで、生きる力が溢れている子供たちを閉ざしたくないという部分は凄く思っていました。

定年退職をした時には仕事はもうやめようと思っていました。  先のことを考えるなかで、41年間看護師を務められたのは、子供たちと出会ったことが原点だと思いました。 唯一やりたかったのは子供たちに恩返しをしたかったんです。   横浜こどもホスピスに力を貸してほしいと言われた時に、渡された本があってその本を読んで、もし私がなにかできるんだったら という事で受けました。   治療法がなくなった時に医療は無力、でも看護は何かできるはずだと思いました。   病院は治療が優先で、楽しく遊ぶという事にはなかなかいかない。   子供達と一緒に遊べる、自分も楽しめる看護師でありたいと思っていました。   

横浜こどもホスピス「うみとそらのおうち」は子供が病気をしても遊べる場所、家族もゆったりできる場所にしたいと思っています。   重い病気を対象にしているので、担当の医師の意見も必要になります。  入ってくると走り回ったり、目がキラキラしています。 両親もホッとするような感じです。   医療施設でも福祉施設でもありません。  医師はいなくて保育士と看護師です。   このような施設は日本では大阪と横浜が2軒目です。   小児の緩和ケアはまだまだ進んでいません。  これからは増えてゆくと思っています。   

看護の仕事は診療の補助と療養上の世話が法律で定められている仕事です。  医療が進んでも最終的には人間の生きる力が強くならなければ、病気が治ることは難しいなあと思います。   生命力を削らないような、高めるようなケアが大事だと思います。  スタートして1年ちょっとで、手探りの中、利用するお子さん、家族の方から教えてもらう事が最初の目標でした。  当たり前にやること、日常の生活が凄く大切だと教えられたような気がします。   一人一人、家族ごとに違うので、どれくらい近づけられるか、一緒にいさせてもらえるかが、一番大事な課題になると思います。  スタッフの価値観も違うので、ご家族も一緒に入りながらディスカッションして考えるホスピスだったらいいなあと思います。  オンラインですが、小児緩和ケアのネットワークカンファレンスというのをこどもホスピスでは開いていて、参加者はナース、医師などがどんな小児緩和ケアが出来るのか、話しあっています。  いろんな人とつながることが凄く大切かなあと思います。