2023年3月11日土曜日

鎌田浩毅(京都大学名誉教授)      ・正しい知識が命を救う~前編・地震のメカニズム~

 鎌田浩毅(京都大学名誉教授)    ・正しい知識が命を救う~前編・地震のメカニズム

鎌田さん(67歳)の専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーションで、地球科学入門の講義は毎年数百人の学生を集め、京大で人気NO1の教授と言われました。  一昨年定年退官し、現在は京都大学名誉教授、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授として研究を続けて、著書やホームページ、講演などを通じて地震と火山の正しい知識を広く伝えています。   科学をわかりやすく伝える科学の伝道師を自認する鎌田さんに地震と火山の正しい知識を地球科学という大きな視点からわかりやすく教えていただきます。     今日は東日本大震災から12年を迎えました。

巨大な地震が起きましたが、現象としては、今まで日本列島は太平洋から押されていたが、地震によって跳ね返ったんです。  太平洋が一枚のプレートで、日本列島はまた別のプレートで、ぎゅーと押されていたのが、日本列島が跳ね返る時に、今度は引き延ばされちゃったんです。   具体的には東に5,3m引き延ばされました。  地面というのは柔らかいんです。   今度は引き延ばされたというストレスがかかってしまいました。    東北、関東、中部でも地震が多いんですが、それは何故かというと大地変動の時代が始まってしまった。   それが一番大きな現象です。  安定するには100年ぐらいかかります。  その間、ストレスを解消しながら地震が起きるんです。  2011年3月11日以降、内陸の直下型地震が増えてしまいました。(約5倍)   30年ぐらいはこのペースで進みます。  今後まだ20年ぐらいは地震に警戒してくださいと言っています。   首都圏には3500万人がいて、そこで直下型地震が起きると大きな被害になる。  

南海トラフ巨大地震は100年に1回起きるんです。   次の100年に1回目が来ているんです。   2035年±5年と言われています。  

地球の表面は11枚ぐらいのプレートで覆われています。  日本列島は4つのプレートからなります。   東日本は北米プレートと言って東日本は北米までくっついているんです。   西日本は中国大陸とくっついいているんです。  陸のプレートと海のプレートの境目に列島があります。  太平洋のプレートは右から左に(東から西へ)押し寄せてきます。   日本列島にぶつかると斜め下に沈み込みます。  時々その境目でどんと跳ねかえります。    南海トラフ大地震も全く同じメカニズムですが、東日本大震災は1000年に1回、前回が869年に巨大地震が起きて、1100年振りに起きたのが東日本大震災です。(1000年の時計)    南海トラフ大地震は100年に1回は起きています(100年の時計)    

南海トラフ大地震は太平洋プレートの子供みたいな小さなフィリピン海プレートが日本列島側にあり、それがユーライアプレートに対して沈み込みます。  巨大な海のプレートが陸のプレートに斜めに沈み込んで跳ね返る時に巨大な地震が起きる、海溝型地震と言います。

11枚のプレートは水平に動いています。  造山運動もプレートが盛り上がることで山が出来ます。   そのプレートを動かしているのがマントルと言います。  マントルが対流する。  卵に例えると、殻に当たるのがプレート(硬いのが横に動いている)、動かしているのが白身に当たるマントル、対流している。  黄味の部分は核と言って一番温度が高いんです。(約6000℃)   核の近くの熱いマントルは上がって行き、 上の冷たいマントルは下に下がってくる。(熱による循環が起きて対流が起きる)  中央海嶺と言って、太平洋、大西洋の海底には南北に縫い目みたいなところがあり、下から熱いもの(マグマ)が上がって来て、太平洋の隅っこで沈み込んで消滅するところがあります。  

陸のプレートと海のプレートとの間でへこんで、海底では大きな溝になり、地震が起きるという事は陸のプレートが跳ね返り、地面が隆起する。  その上の部分には海水があるので海水も盛り上がる。(30mぐらい)  日本海溝に沿って30mぐらいの山脈みたいなものが出来上がる。  日本の海岸に達するとそれが押し寄せてくる。(津波)  力を持った波で家,橋などを壊してゆく。   サーファーが津波が来たら乗ってみたいといった若い人が居ましたが、2004年12月にスマトラ島沖地震があり映像が流れましたが、それを観て言ったようですが、僕は愕然としました。  津波は30,50cmでも命を失うという事が伝わっていない。   地震と火山は大地変動の時代に対して我々が準備しなければいけない2つのテーマなんです。

活断層の地震というのは、日本列島の中にいっぱい傷があります。  地盤の弱いところがストレスによって動いて地震を起こす場所です。  日本列島の地盤の弱いところは岩石が割れてずれるんです。  その時に直下型地震を起こします。  阪神淡路大地震です。  地面の弱いところが数千年~1万年とかの長い期間でストレスが溜まっていてそれがずれ、大きな地震が起きる。(活断層型地震)   活断層は日本列島には2000本ぐらいあります。   日本列島の都道府県に地震が起きない所はないという事です。  東日本大震災で活断層が動きやすくなった。   活断層型地震は数千年~1万年とかの長い期間で起きるので予知が出来ない。   1万年で起きて誤差が3000年では全く予知が出来ない。   2000本のうち100本ぐらいを注意すべき活断層として挙げてあります。 京都の花折断層は京都大学のキャンパスを横切っています。   京都盆地は活断層に囲まれている。  東京,大阪の大都市の隅っこにも活断層があることは事実です。  

東京の首都直下地震は19か所設定されている。   しかし、どれが動くのか判らないし、数千年~1万年とかの長い期間では想定できない。   南海トラフは600kmの溝がありますが、いっぺんに動くというと連動型地震と言います。   東海地震、南海地震、東南海地震という言葉があります。  静岡沖で起きるのが東海地震、東南海地震は名古屋沖、南海地震は四国沖です。   1707年江戸時代の南海トラフ地震ではその3つがいっぺんに動きました。(マグニチュード9,1)    

それが起きると、ほぼ東日本大震災と同じ揺れ、津波が来ます。  3つの地震域が陸地に近いんです。   震源域が陸地迄引っかかっているぐらいなんです。   震源域が近いという事は津波がすぐにやってくるという事です。   30mぐらいの津波が減衰せずにどーっと押し寄せてきます。  最大の津波が34m、(東日本大震災では20m) で一番早いところで2,3分と言われています。 高知県、和歌山県辺りの沿岸では34mの津波が2,3分で来る、そうすると逃げられない、これが一番怖い事です。   

具体的に人をどうやって助けるかという事に至っていない。   こういったことを知ることで、どうやって自分の命を助けるかという事を考えていただきたいというのが趣旨です。  東日本大震災の10倍が想定されています。  東日本大震災の被害は20兆円の被害でしたが、南海トラフ大地震では220兆円です。  犠牲者の8割は津波と想定されていますが、南海トラフ大地震では最大で32万人で東日本大震災(約2万人)の16倍となります。  東京から鹿児島あたりまでが被害域となり、東北、沖縄あたりからの助けが必要となる。  これが今までの地震災害とは違う。  被害に遭う人の人口は6000万人と言われている。   皆さんに伝えたいのは自分の力で身を守る、自分のコミュニティーに備蓄、いろんな準備をして助け合ってまもる。  誰かが助けてくれるという事を期待できないかもしれない。  

地学で知られていることがちゃんと伝わっていない。  伝える努力をしていても伝わっていない。  一般に伝える専門家がいないという事に気付きました。  地球科学の専門家が国民に対して伝えないと大変なことになると思って、科学の伝道師を志しました。    一番有効なのは言葉で伝える事です。   「伝えるよりも、伝わるへ」という言葉があります。  伝える努力をしましたではだめで、情報を受け取る側がどういう知識があって、どういう事は慣れていて、どういう事ならば受け入れられる、という考え方をちゃんと理解したうえで、専門家とか、知識がある人が伝えないと空回りしてしまう。  情報伝達の技術を地球科学の研究と一緒に研究しないと南海トラフの地震に間に合わないと思って頑張っています。