2023年3月21日火曜日

飯間浩明(日本語学者・辞書編さん者)   ・"時代を映す鏡"を編む

 飯間浩明(日本語学者・辞書編さん者)   ・"時代を映す鏡"を編む

小型で手軽に引け、柔軟なスタンスで現代語にも強いと人気の辞書の編纂者飯間浩明さん(55歳)、は言葉の価値基準は正しいか間違いかではなく、その言葉が相手に届くかどうかが大切だと言います。  毎日のように新しい言葉が次々と生まれ、言葉の意味も変化する中で膨大な言葉の海から新たな言葉を見出しては記録し、厳選した新語に的確かつ端的な説明を付けて辞書の改定作業に取り組む言葉ハンターの飯間さんに辞書作りに賭ける情熱を伺いました。

丁度最新版の辞書が出来まして、ほっと一息ついた状況ですが、次の版に向かって仕事が始まっています。  現代は言葉のサイクルが早くなってきています。  版のサイクルも10年というと遅い感じです。  今回は8年かかりましたが、出来ればもっと早く次の改訂版を出したいと思っています。   最近は命を削っているのではないかというような感想を抱きます。   祖父が持っていた大きな辞書がありありました。(全20巻の国語辞典)   小学校高学年になると、ちょっと使ってみようと思って検索しました。  大学に入った時には全20巻の国語辞典を東京に持ってゆきました。  出版社によって辞書の特徴が違って、辞書を集めるようになりました。   

好きな辞書に見坊豪紀さんの小型の辞書がありました。   自分の集めた言葉を原文のまま紹介していて、70年代に「宅浪」という言葉が一般化しました。   自分のうちで浪人している。 NHKFM、1975年と記録されている。  そういった言葉を集めて一冊の本にしています。   大学時代は万葉集とか古典の勉強をしていました。     卒業論文は万葉集の言葉についてでした。   大学院では源氏物語の言葉について勉強していました。  見坊先生の本を読んで現代の言葉も面白いと思うようになりました。    先生と共に類語辞典のお手伝いをすることになり、辞書出版社とのお付き合いをするようになりました。     見坊先生の改訂版を作るので私にも手伝ってもらえないかと、出版社からの依頼がありました。   手伝いではなく、実際には編集委員でした。       

見坊先生の辞書は判りやすい事、現代的な事、引きやすい事をモットーにしていた辞書でした。     例えば「苺」、植物学的に書くと難しくなる。   でも、「赤い小型の果物、柔らかくて表面にぶつぶつがある。   すっぱくて甘くミルクの味と合う。」 となっています。   現代的な表現もあり、「来れる」は「来れるの形は明治時代から例がある。   本来俗用だが、か行変格活用の動詞に特有のかの系と見ることもできる。」

「ずるい」 これは褒め言葉になっている。   「俗語として素晴らしすぎて悔しくなることが「あざとい」という。」  例として、「歌い方が可愛くてずるい。」  あまりにもかわいらしくてほかの人に出せない魅力を出している、あれはずるいよ、という事になる。  2010年台からの用法。

「やばい」 いい意味で使われるようになってきた。  やばいをさかのぼってゆくと1070年代にミュージシャンが使っている例がありました。  あいつの音楽やばいね、というのが一般に使われるようになってきた。  わざとマイナスのイメージを使う。  「「夢中になりそうで危ない。」 ということを「やばい」という言葉に込めている」と解説しました。   政治家が「1ミリもやましいことはありません。」と言いましたが、1ミリはそういう風にも使うのか。  微塵も、ミリも否定的に使われる。  

「愛」は「男女の間で好きで大切に思う気持ち」と書いていましたが、ここ10年ぐらいでは恋愛は男女の間だけではないだろうという理解が一般に進んできた。  最新版では「恋を感じた相手を特別で大切な人だと思う気持ち」としています。   「恋」も最新版では「人を好きになって会いたい、いつまでもそばにいたいと思う満たされない気持ちを持つ事」と説明しています。

1960年に初版が出ました。  その時の「女」の説明では、「人の家で優しくて子供を産み育てる人」でしたが、最新版では「人間のうち、子を産む為の器官をもって生まれた人の性別、生まれた時の身体的特徴と関係なく自分はこの性別だと感じている人も含む。」と言う風に解説しています。   「男」は初版では「人のうちで力が強く主として外で働く人」となっていますが、「人間のうち、子種を作る為の器官をもって生まれた人の性別、生まれた時の身体的特徴と関係なく自分はこの性別だと感じている人も含む。」と書いています。   

常日頃から言葉をハンティングすることが必要です。   ストックしておくと1年間に何千語かになります。    次の改訂版を出す時には1万ぐらいの言葉が集まります。  選り分けて新しい版に載せるるかどうか決めます。    コンビニに入ろうという事を「ビニろう」と言っていました。  リスキリングというような言葉も耳にします。   次の改訂版には載せるようになるかもしれません。

小型版の辞書は6~9万語です。  私たちの辞書は8万語です。   最新版にいれた言葉が3500です。  消す方の言葉は難しくて見えにくい。  1100ぐらいを削りました。  「インフルエンサー、エコバッグ、秒で(直ぐに)、リアタイ(リアルタイム)、ソーシャルデイスタンス、黙食、密(人が混んでいる状態)、・・・」などが新たに載っています。    消えた言葉としては、「スッチー(客室乗務員 女性のみ)、テレカ (テレホンカード)、ペレストロイカ、・・・」などです。

方言、一時期絶滅な危機にあった。  「うざい」は元々は東京多摩地区の方言でした。  福岡地方では細い道をすれ違う時に「離合」と言います。  離合集散という熟語がありますが、「離合」は方言なんです。   自分が言葉のことをもっと理解したいと思っているので、書いていると思います。   辞書は自分の疑問を解消てくれる本です。  言葉の価値基準は正しいか間違いかではなく、その言葉が相手に届くかどうかが大切だと思います。