2022年6月6日月曜日

穂村弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】平岡直子

 穂村弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】平岡直子

還暦を迎えました。(穂村)

先日、現代歌人協会賞を受賞した歌人の平岡直子さん、1984年生まれ、長野県出身。  早稲田短歌会に参加、同人誌を中心に活動してきました。   2012年「光と、ひかりの届く先」で第23回花壇賞を受賞して注目を集めます。   去年は花壇賞受賞作を含む第一歌集「みじかい髪も長い髪も炎」を刊行、今年の現代歌人協会賞を受賞しました。  短歌だけではなく川柳も作っていて、先月末川柳歌集「Ladies and」が刊行されました。  現在はNHK文化センターなどでも講話を務めています。  

 穂村:若手でいま最も存在感のある方だと思います。 

平岡:短歌に一番最初に出会ったのは、子供の絵カードのような教材で凄いなと思ったのがきっかけで、小学校に上がるか上がらないかの頃でした。  小さいころから一人でコツコツ作っていました。   正式に短歌を始めたのは、早稲田短歌会に入った時からです。 大学に短歌サークルがあると思っていましたが、大学にはサークルは有りませんでした。  合宿があって2泊3日で寝ないで歌会をするような状況です。   

第一歌集「みじかい髪も長い髪も炎」から

「手をつなげば一羽の鳥になることも知らずに冬の散歩だなんて」

 穂村:二人で散歩をしていてそれを俯瞰しているような感じで、どちらかが手を伸ばして手を繋いで一緒に歩けば、二人で一羽の鳥になるんだという、この発想が凄く素敵だなと思います。  

「海沿いできみと花火を待ちながら生き延び方について話した」 

穂村:非常に情景の浮かぶ歌です。  「生き方」ではなく「生き延び方」と言うのがこの歌の印象的なところかと思います。

平岡:東日本大震災の翌年に作った歌で、海沿いで開催される花火大会に行ったんです。 地震の記憶が新しいから、今ここに津波が来たらどうやって生き延びればいいんだろう、と結構ダイレクトに考えて、身近な危機を覚えました。    

「三越のライオン見つけられなくて悲しいだった悲しいだった」

穂村:「悲しいだった悲しいだった」と言うのは変則的な表現だと思いますが、この歌の中ではそこが凄く魅力になっているなあと思います。   

平岡:この歌はどうやって作ったのか思い出せなくて。

「スペインでおとうと死にき私には居らねど誰かのおとうと死にき」  立花開

平岡:私より9歳下で、私と同じ年度に新人賞を受賞して、私と同じ年に第一歌集を出して同級生みたいな意識があります。 叙述トリックみたいな歌で、作者の弟が死んで大変だったような感じですが、下まで読むと意表を突かれる展開になっていて、自分とは全く関係のない弟が死んだという表現があり、距離が近いものを感じさせる。  コロナ禍の後で作られたのでスペイン風邪と関係があるのかなと思い、与謝野晶子がちらちらします。(・・・ 君死に給うことなかれ)  

*「増えながらいなくなる鳩このところ指ではしない約束ばかり」   小島直

平岡:「増えながらいなくなる鳩」は鳩の本質をとらえているような気がして。  指ではしない約束というのはコロナ禍の情勢が写っているような感じがします。  ざわっとした不安を感じました。  

*「もしかしたら眩しいだけの水かもと思いつつまだ旧姓で呼ぶ」  北山あさひ

平岡:歌集が出されていて、社会のことが多く出されていることが特徴で、反結婚がテーマになっている歌集です。  旧姓で呼ぶというのは小さなレジスタンスだと思います。  眩しいだけの水と言うのは「逃げ水」かなと思って。

*「死亡者数一と次の日になるとゼロになるけど一でよくない」  佐藤ひとし?   

平岡:交番に交通事故の死亡者数が毎日更新されるが、この歌は命を軽視するな見たいな、そういう抵抗だと思います。 人の命を数字で数えてリセットするなんて、反射的に反応してしまう危険思想だと思います。

*「東京の頬に小さくしゃがみ込むただ一滴の目薬になる」    平岡直子

穂村:印象鮮烈な歌です。

*「凄い雨と凄い風だよ魂は口にくわえて君に追いつく」     平岡直子

穂村:「口にくわえて」という、通常は胸の中にあるような気がするが、面白い。

平岡:動物になったような時がよくあるので。

*「あまりにも夏とても夜一匹のコガネムシが洗濯を見ていた」  平岡直子

穂村:「あまりにも夏とても夜」と言うところが、いいですね。  夏の夜の臨場感が立ち上がって来る。  「コガネムシが洗濯を見ていた」という事もコガネムシは洗濯を理解しているわけではなく、人間も夕焼け、星空に惹かれるのは結局理解できないから惹かれるのではないかという感じがして、無理なりに理解できないなりに駄目なりに頑張る感じが平岡さんの世界には通底しているかなと思います。

平岡:この歌は雪舟えまさんのとても私きましたここへ。とてもここへ。白い帽子を胸にふせ立つ」という上句がとても好きで、真似したいと思って作ったんですが、あまりうまくいかなかったかと思うんですが、下の句について穂村さんがいってくださったのは面白くてそういった感覚は生きていてあるかもしれない。  虫の感情にも親近感を抱くことがおおいです。  

リスナーの作品

*「わたしからわたくしになり生きてゆく床に座って履歴書を書く」   高橋唯?

*「日没の空の色がきれいだなとみれば網戸にカメムシのたまご」    うみ?

*印は言葉、漢字、かな等間違っている可能性があります。  名前も同様です。