2020年1月28日火曜日

中村雅継(元関脇 嘉風)          ・【スポーツ明日への伝言】ありがたき、わが相撲人生!

中村雅継(元関脇 嘉風)   ・【スポーツ明日への伝言】ありがたき、わが相撲人生!
大きくはない身体にもかかわらず、真っ向勝負の正攻法、その姿は見る者の心を揺さぶり記憶に残る力士として人気を集めた大相撲尾車部屋の元関脇嘉風、右ひざの怪我からの復帰が叶わず去年の9月37歳で惜しまれながら引退しました。
今後は年寄中村として後進の指導などに当たることになっています。

自分が髷を落とすところは想像できませんでした。
親方と呼ばれてもピンときません。
2004年1月が初土俵でした。
大分県佐伯市出身、相撲巡業が来て、小学4年生の時に佐伯クラブで相撲を始めました。
貴花田関が物凄く好きでした。
母方の祖父と小学校上がるかどうかの頃、畳の上で相撲を取って好きになった覚えがあります。
クラブの指導者が大相撲の経験者で厳しさを知っているので、子どもに対しては楽しくやるような相撲クラブでした。
中学卒業したら大相撲に行きたいと思っていましたが、指導者からはそんな甘いものではないという事で反対されました。
高校の監督から誘われ勉強も相撲も厳しいと言われましたが、監督の男気に感じて大分県立中津工業高等学校に入学しました。
入ってからは本当にきつくて相撲の厳しさを初めて高校1年生の時に感じました。
自分の考えの甘さに気付いて、大相撲の世界に行くことは断念しました。

相撲部の顧問が3年間担任をしてくれて、その先生のようになりたいと思って先生が日本体育大学出身だったので、日本体育大学をめざそうとして日本体育大学に進学しました。
3年の時に全日本選手権で優勝、アマチュア横綱のタイトルを獲得しました。
自分では横綱は受けて立つようなイメージがあって、4年の時には「ハッケヨイ」の声がかかるとなぜか力が出ませんでした。
4年生の時には自分が納得する相撲が一番もありませんでした。
自分にプレッシャーをかけていたのかなあと後で感じました。
もう一回好きだった相撲を取り戻すにはステージを一つあげてやらなければいけないのではないかと思いました。
もう一回大相撲で取り戻したいと思いました。
順調に行っていたら教員になっていたかもしれません。
尾車部屋に入門し、2004年(平成16年)1月場所に初土俵でした。
順調に出世はしましたが、強い人にもまれて相撲が人生の中心になって、自分を取り戻した気がしました。

20代の後半は目標がないというか、番付の下ばかり気にして三役を目指すとか、横綱大関を倒すという様な目標が全くありませんでした。
向上心がありませんでした。
30歳になるころに尾車親方が巡業部長をやっているときに、大阪場所で自分は大敗して幕内の下位になって、尾車親方から「大負けして、落ちるのは早いぞ」と言われて、もう一回上を目指そうと思いました。
妻からも「あなたと対戦する人は三役に上がれるのに、あなたは何故三役になれないの」とかも言われました。
親方が大けがをして手術をして長いリハビリから帰ってきて、「お前らは体が自由に動くし、好きなことができるんだから一生懸命相撲を頑張れ」と言ってくれて、物凄くその言葉に力があってもう一回やってみようと自分で出来ることを探しました。
トレーニングをやろうと取り掛かりました。

手首を骨折して休場して、休場明けの九州場所に地元から応援団が来てくれて、勝つところを見せたいと思って立ち合いに安易に変化したんです。
全く通じないでいいところが無くて負けてしまいました。
勝ち負けではなく、土俵に立った姿を見てみんがが喜んで帰ってますという事を聞かされて、甘い考えで相撲を取っていたことを悔みました。
自分の出来ること、自分らしさを出そうと、そういう姿を見てもらおうという事でそれ以後立ち合いで変化したことがないです。
その場所は幕内に残留することができました。
一番印象が強く残っているのは新三役小結になった場所の9日目の稀勢の里関との一戦は120%の力を出して結局は負けましたが、達成感のある相撲でした。
負けてもすがすがしい気持ちで印象が強く残っています。

2015年(平成27年)7月 12勝3敗して、9月に西前頭筆頭で2日目に白鵬、3日目に鶴竜の両横綱を連破しました。
白鵬に勝って3日目以降はうまく言えませんが眠たいような感覚がありました。
14日目に豊ノ島との対戦で合い口が悪くて苦手な力士でしたが、眠いというか徹夜した朝の感覚のようでどうすれば勝てるか考えて纏まらないうちに制限時間が一杯になって、いつも通り手をついたらいい相撲になるだろうと思って行ったら、合い口の悪い相手に勝ってしまいました。
不思議な感覚で相撲がとれたのはあの場所だけでした。
力士であることで、いい思いをさせてもらいました。
良いことも悪いこともいい経験を相撲を通じてさせてもらって、有難い相撲人生だなと思いましたし、現役としては終わりだなあという残念な気持ちもあります。
力士になってよかったなあと心底思える相撲人生だったなと思いました。
若い力士に対してはいい相撲を取って勝つ、精一杯やったことが見ていただく人の心に響いて声援を頂く、それが自分としては心地良かったし、それを今の若い衆にも味わっていただきたい。
安易に勝ちに行くんではなくて、こいつが土俵に上がるとなんかやってくれるぞと、そういう力士になってもらいたいです。