2019年2月27日水曜日

土橋靖子(書家)             ・"かな"の広い広い文字の世界を目指す

土橋靖子(書家)        ・"かな"の広い広い文字の世界を目指す
昨年3月に日展に出品した「かつしかの里」という作品で平成29年度の日本芸術院賞を受賞しました。
小さい時から筆を持ち、10歳の半ばから祖父で京都のかなの名門、日比野 五鳳(ひびの ごほう)さん、日比野光鳳さんの教えを受けてこられました。
東京学芸大学の書道科を卒業して書家として活動しながら、高校大学の講師を務め、現在は大東文化大学書道科で特任教授として若者の指導をしています。

私は千葉県の市川市が郷里ですが、市川を詠った伊藤 左千夫(いとう さちお)の短歌2首を書かせていただきました。
好きな題材とか自分と縁のある題材を手がけるけるようになりたいと思って書いた矢先の「かつしかの里」という作品の受賞でした。
縦☓横が85cm☓180cmの作品です。
大きくなるほど俯瞰してみなくてはいけないので、小さな所にこだわってしまうといけないので、常に離したりしてみるようにしないといけないのが難しいです。
200枚位は書いたと思います。
夫にも最終は見てもらったりします。
夫は大学の教員をやっています。
もうちょっとこうしようああしようとやっているうちに、どん底に陥ってそこからまたはいあがっていくというのが通常のパターンです。
計算を越えた書にしたいので、やはり書き込まないといけないと思います。
最近はここだけは二度と同じようには書けないと思うような場所が出来上がった時に、全体としては気に入らないと思っても、一部でも表現できた時に良しとしています。
無心の境地を最期まで持ち続けるということはなかなかできません。

母方の祖父が日比野 五鳳(ひびの ごほう)で、それをもとに母に習っていました。
6歳ぐらいから筆を持ちました。
中学から書道部に入っておもしろくなって、春休み夏休みなどに京都に出かけて祖父から指導を受けました。
小さい頃は音楽が好きで、連綿、息使い等はリズムを取ると言う事は大事なことで、音楽をやって結果的にはよかったと思いました。
祖父から一番怒られたのは線です。
大学を卒業して日展に出品する頃に、祖父に見てもらったら「これをおかしいとおもわぬお前の頭がおかしい」と言われました。
線と用筆は厳しかったです。
或る線を見て平らな平たい板のように見えるか、丸太棒のような太い木のように見えるかこれだけでも全然違うと思います。
強い線、弱い線、弛んだ線、張り詰めた線、張り詰めて居ても絹のような線、針金のような線だったり、かなになると特に小さい文字だと繊細ですから、同じ一色の線では飽きてしまうので、情感が入っていたり、冷たく厳しかったり色んな線には味があると思います。
弱いより強い方が、濁っているより、澄んでいる方がいいと思います。

祖父は83歳で亡くなりましたが。その時私は28歳でした。
父は医師でしたが、私は高校生のころは医者になりたいと思っていました。
兄、姉も医学の道に進みました。
高校2年生の夏ごろから揺らぎ始めて、祖父の偉大さを感じるようになったのも進路を変えた一つの要因だったかもしれません。
書道は大変だから医者になれと祖父は言っていました。
両親は好きな道をというふうに言っていました。

王 羲之(おう ぎし)の書のあたりがかな文字の原点になっているようで、原点を常に勉強していくという事は常にライフワークにしています。
祖父はかな作家と言われるのを好まなかった。
両方勉強して当然だと思います。
古今和歌集、新古今和歌集を作品にすることが多いが、今の物を書いてゆくことは難しい所があります。
書の美を優先させると、かなの場合は昔の変体仮名を使わないと、今のひらがなだけでは美しさを生み出すことはできない。
全く読めないように書くようにするという事はどうなのかなと私は疑問に思っています。
漢字の部分は漢字で書きたいし、変体仮名も不要には多く使いたくないと思っています。
かなの場合の三大要素
①余白の美しさ
②墨色の美しさ
③連綿の美しさ
これを縦軸に置くとすると、横軸は線になり、余白も緩い線だったら余白は持たない。
墨の濃さも線がよどんでいたら、ただドロドロ見えるだけ。
連綿もただにゅるにゅるしていたら気持ち悪い。

「読めないわ」と心のシャッターを下ろしてしまわずに、なんとなく香りをたのしんでもらいたい。
展覧会に行った時に、香りを感じたり、空気感、綺麗、汚い、強い作品であれば力をもらったり感じるものは、必ずあると思うので気楽に見ていただいて感じていただきたい。
筆が自分の身体の一部になるように訓練する、余計な力を抜くように練習して行くことが大事だと思います。
淡々と続けていると筆とお友達になれる、そんな時が来ると思います。
かなといっても日本語は漢字とかなで出来ているので、日本の心の書を広く伝えられるようにということと、文字と書との関わり方、そういった処を私自身が精進してみなさんに
両方の意味でお伝えできるようなそういう世界を表現していきたいなあと思います。
書の美が一番大事なので色んな美の世界、空間、墨の色合いなど色んな世界を表現できるようになりたいですね。
筆、紙、墨は微妙な相性があるので、なかなか難しいと思います。
湿度が気になります。
大雨の日はどうしても駄目です。
私のライフワークは真の意味でのかなと漢字の調和した作品です。