2017年12月2日土曜日

米川明彦(梅花女子大学教授)       ・時代を映す若者ことば

米川明彦(梅花女子大学教授)       ・時代を映す若者ことば
最近の若者たちの言葉がわからない、と言うことはないでしょうか。
「とりま」は「とりあえず、まあ」のことです。
「ふろりだ」はアメリカの「フロリダ」州のことではありません。
「まんじ」(今流行っている)は何のことかわかりますか?
若者言葉、業界用語、隠語、流行語など俗語を40年前から研究しているのが、梅花女子大学教授の米川さん、62歳です。
若者言葉の変遷をたどりながら、時代と若者気質の変化を、米川さんに読み取ってもらいます。

女性ばかりの学校です、若い女性は会話を楽しんでいる、笑いを取ろうとしているので、研究の環境としてはいいです。
「まんじ」(今流行っている)は何だろうと聞いたら、学生は色々言うんです。
面白いことはなんでも「まんじ」と言いますとか、仲間の絆を強める時に「まんじ」と言いますとか、調子に乗っている時には、「あんたまんじだね」とか、まったくわかりません。
「やば」とおんなじようなことかもしれません。
「草生える」は笑いを取るとか、笑えるとかという意味です。
Wで笑う、わ(wa)Wを重ねると wwwwとなり草が生えているように見える。
「それな」関西の共感する時に使う言葉ですが、関東でも使うそうです。
「ふろりだ」ラインを使ってグループで参加するが、風呂に行ってくることを「風呂りだ」と言うんです。
風呂の為に離脱しますと言う意味です。
「ほかる」(ホカホカしてくる)ともいいます。
省略する言葉を使います、「おか」=お帰り、「おけ」=OK、「おこ」=怒っている。
省略形を打ってしまう。

若者言葉は寿命が3年ですが、中に残る言葉もある。
「て、よ、だ、わ言葉」女性が使っていた文末に使う言葉、(綺麗だわ、よくってよとか)明治の初めにこの言葉が出どころが悪いと言って非難されたが、女学校の生徒が使って、卒業した生徒が当時の一流の人たちと結婚して、高級な家庭にも広がって、「て、よ、だ、わ言葉」は一般的な丁寧な言葉になって行く。
大正時代にラジオ放送が始まるが、アナウンサーが新しい言葉としてできる。
告知者と云うような言い回しもしたが、告げ口をする言葉と言うことで、消えていった。
戦後「エッチ」と言う言葉がはやったが、元々は変態=HENTAI(ローマ字)、の「H」でしたが、余り使われなくなりました。
80,90年代は「超」と云う言葉がよく使っていましたが、関西ではあまり使われなかった。

「なうい」、「ちょべりば」=超ベリーバッド、などと言う人は40代ですね。
スマートフォン、インターネット等通信機器を使った言葉、SNSなどで広く使われる言葉、手間を省こうとして省略語として使われる。
「了解」→「り」とか一音節で済ませる。
「お疲れ」→「おつ」 変換ミスで「乙」を使う。それで使って行くと言うこともある。
「KY」アルファベットの頭文字を使う言葉、「空気読めない」、「恋の予感」
「る」で済ませようとする。  「誤字になってしまった」→「誤字る」
口頭でも喋る様にもなってきた、新しい傾向です。
「挙動不審な行動をとる」→「挙どる」
「こん」=「こんばんわ」、「こんにちわ」
「あり」=「有難う」
「いみふ」=「意味不明」
こういった言葉が口頭で話す様になった。

父親が言葉にうるさい人だったが、子供の頃色んな言葉を教えてくれた。
「坐るとばーとる」と言う言葉を教えてくれた、坐ったら場を取るものだ、とか「おすとあんでる」、押したらあんがででくるもの(饅頭)、ひねるとジャー=水道 などなど。
その影響を受けて言葉の研究者になろうと思いました。(国語学)
大学生の時に日本で一番大きな国語辞典「日本国語大辞典」20巻が出て欲しくてしょうがなかった、10万円以上した(40年前)。
自分では買えなくて付き合っている彼女に買ってもらった。
きっちり読まないといけないと思って、本当に隅から隅まで読みました。
或ることに気づきました、こんな大きな辞典なのに載っていない言葉がいっぱいあると思いました。
新語辞典(大正、昭和)、流行語辞典で買い集めていたが、そこの言葉が載っているのか、調べたら載っていないのが色々あった。(用例も書いてなかった)

新語辞典、大正初期に出たもので、面白い言葉がたくさんあります。
「ハイカラ」(大流行語)→動詞になる 「ハイカる」等
「脱線する」は電車が走り始めてから出来た言葉だがそれが転じて、正しい道正しい順序を離れて、全ての行動を脱線する、当時の新語だった。
今は一般語になっている。
俗語には若者言葉、業界用語、隠語、卑語(卑猥な言葉)、流行語、砕けた口頭語など。
「ランナー」→遅れて飛行機に走って行って乗る人。(業界用語)
大学のスクールバスは全部女性で、聞こえる言葉が判らなくて、メモを取って聞いたり、色んな方法を使って言葉を集めました。
「若者ことば辞典」1993年に出版。
新聞に載り3か月間取材にあいました。
昔新しい言葉を集めていた頃に教授から何の役に立つのだと言われてしまいました。

明治時代の新語、セブン→質屋、キャット→芸者(猫をつかって三味線を作るがそれを弾く人) エム→マネー(頭文字を使う、当時から流行っていた)
旧制高等学校の言葉(ドイツ語由来の言葉が出てくる)、落第する→どっぺる(ドッペルン 落第)、女の子→メッチェン 恋人→リーベ、飲みに行く→ドリンケン。
現代になると大学生はどこにもいて、エリートの言葉ではなくなる。
男女共学になり「性」に関する言葉が出てくる。
Aライン(元々はファッション用語)→キスが出来る仲、とか言うようになって来る。
ルート8→ニヤニヤ
学生運動が激しい時代、ゲバ棒を担いだ学生の「げばる」(ゲバルト=暴力)
高度成長期、言葉が遊ばれるようになる、「マジ」 真面目から出ているが。
野菜語、「ピーマン」(話の中身がない)、「トマト」(話がぐちゃぐちゃ)とか。
80年代、豊かになりバブルと重なり遊びが言葉にも及び、ちょべりば(「超ベリー・バッド(very bad)」の略)、ちょべりぐ(「超ベリー・グッド(very good)」の略)、みつぐ君、アッシー、とか消費を謳歌している。

メディアが流して若者言葉は表に出てくる。
真面目から遊びにシフトしてくる。
楽社会が生まれたと思う。(楽と楽しいを価値基準にしている)
そこから現代の若者言葉が出てきてると思う。
TV見ない、新聞見ない、インターネットを見る。
見る社会が狭くなってきて、関心事も狭くなり、言葉も狭くなる。
ラインのグループ自身は無数にあるが、しかし人数は小さい、グループごとに新しい言葉が生まれる。

昔は同じ様な価値観だったが、共有できなくなり、価値観が多様化して、自分さえよければいいと言うような、それぞれが別の方向を向いている。
ネット社会が若者に大きく影響している。
時代がどんな時代かによって、若者言葉の質が全く違う。
今の社会は、お笑い、楽しい、楽、そこから出てくる。
俗語を広く考えて、大人の世代の言葉も俗語があり、間違った言葉も平気で使ったりして、一般化して辞書にも載って行くと正しい日本語では無くなる。
「大丈夫」(箸は大丈夫ですか?)、「むかつく」(胃がむかつくが従来使われていた)と言う言葉の使い方も変わってきている。
厭な感情をどう発散するか、親しみのある言葉、俗語だと上手く表現できたり感じることが出来る。
一緒に楽しめる、作りだす楽しみが俗語にはある。
息苦しい世の中の息抜き、ほっとできる、楽しくできるなどいい意見があると思っています。
若者も仲間内の言葉と、そうでない言葉をわきまえていると思う。