2020年5月4日月曜日

穂村 弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】歌人 馬場あき子

穂村 弘(歌人)           ・【ほむほむのふむふむ】歌人 馬場あき子
夫は歌人の岩田正さんは1924年東京出身。
早稲田大学在学中に早稲田大学短歌会に入り、昭和21年「まひる野」の創刊に参加します。
窪田空穂、窪田章一郎に師事。
卒業後は教員となり定年まで勤めました。
馬場さんとは昭和27年に結婚、昭和53年馬場あき子さんとともに歌誌「かりん」を創刊。
短歌評論、実作に活躍を続け2011年第34回現代短歌大賞受賞、2017年93歳で亡くなる。

馬場:「岩田君」、「馬場君」とお互いに呼んでいました。
穂村 弘さんが岩田正さんの作品を選んだ句
「この曲のここ美しといひし我に目を閉ぢしまま君はうなづく」    岩田正
穂村:岩田さんは音楽が好きでした。二人で音楽を聴いていて、目に浮かびます。
馬場:飽き飽きするぐらい聞かされました。(笑い)

イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年 」      岩田正
穂村:この歌は衝撃的でした。
馬場:シャンソンも好きでした。
穂村:古典を愛する少女とモダンボーイの出会いという感じですね。
大正世代の気風ですね。

「魘されし理由はをとめ救わむとして斬られしと妻には言へず」     岩田正
穂村:岩田さんは夢を見たんですね。
時代劇風な感じで、守ろうとして悪者に逆に切られてしまって、飛び起きて、馬場さんがどうしたのと聞いてもその理由をうまく言えない、といった感じです。
馬場:追われたりするとか、年中よく夢を見る人でした。

*「枯葉」 歌:イヴ・モンタン

『水中翼船炎上中』より馬場さん選句
「天皇は死んでゆきたりさいごまで贔屓(ひいき)の力士をあかすことなく」穂村 弘
馬場:天皇の寂しさ、孤独、一人ぼっちの何かが出ていて、天皇挽歌としていい歌だと思います。
人間の心にあるものを言わないで亡くなっていったというその孤独、天皇の孤独感をとてもよく出していると思います。
穂村:戦争とかに関することなども含めて言えない孤独感の歌ですね。

「 ザリガニが一匹半になっちゃった バケツは匂う夏の陽の下」      穂村 弘
馬場:残酷なものです。
穂村:子どものころザリガニをとってバケツに入れて置いたら、共食いなんて言う概念が知らなくて、大変なショックを受けました。
馬場:小さいことは身体が弱くてしょっちゅう寝いていて、ある時に「みみずくのお医者さん」という絵本を買ってもらって、森の動物を全部なおしてあげることがいいなあと思っていました。
戦後の焼け野原に秋に虫が飛び込んできて、どうやって生きられるのだろうと思って虫が好きになりました。

「人殺しの血を吸った蚊がいずこかをただよう空の青き光よ」?     穂村 弘
馬場:これ凄いですよね。 この世の中どこにどういう怖さがあるのかわからない。
怖さを知らないから生きていられるので、いつどんなところに怖いものがあるかわからないということを感じさせる歌です。

馬場あき子さんの作品の穂村 弘さんの選句
「猫茶碗洗ひおきしが夜更けて帰りし夫が飯をたべたり」        馬場あき子
穂村:猫の茶碗だけれどまあいいかな、といったところだと思います。
馬場:猫は飼っていないけれど、私たちは戦争を知っている世代なんで器に対して鈍感なんです。
ものに対する構わなさがあります。

「夫(つま)のきみ死にてゐし風呂に今宵入る六十年を越えて 夫婦たりにし」馬場あき子
穂村:岩田さんはお風呂で亡くなったが、一緒にいるみたいな感じがこの歌から伝わってきている。
馬場:夫が入ったお風呂に入ることが鎮魂だと思ってはいるんです。
これに入ることが自分の愛だという感じがありました。

「衛星のごとく 互 ( かたみ ) にありたるをきみ流星となりて飛びゆく」  馬場あき子
穂村:互いが互いを回る衛星のように60年を越えて生きてきたが、ある夜突然君は流星になって飛び去って行ってしまった、という歌ですね。
馬場:互いに理解しあって、お互いに衛星でした。
突然流星になって行っちゃって衛星が一つ残ったが、一人で耐えられるよという気分です。

「ゆめと知れど行く先もなく帰路もなき宇宙駅 ありわれが佇む 」    馬場あき子
穂村:絶対的なさびしさの歌だと思います。
宇宙駅という発想がすごい、銀河鉄道のような駅。
馬場:実はこういう夢をしょっちゅう見ます。
常に一人なんです、行くところも帰るところもない。

「亡きひとよしんしんとろりゆつくりと眠つてください雪の夜です」  馬場あき子
馬場:夢の中でおびえている人だったので、もうゆっくり寝てほしいという気持ちが一つあったし、皆さんには強い、洒落た老人を演じていたけれど、多分おびえていたと思います。
穂村:口語体で文体の幅が広い。

リスナーからの作品
「こんなにも失望ていようとも止まることなく伸びる前髪」?
「ちょうだいのある猫九歳初めての猫の友達出来た春の日」?
「桜散り二人で歳をとってゆく今日もあそこのけんぱ(?)にしよう」 ?

*?マークのある短歌は文字の違い、誤字があるかもしれません。