2019年9月17日火曜日

京極夏彦(作家・日本推理作家協会代表理事)・本が売れない時代に新風を

京極夏彦(作家・日本推理作家協会代表理事)・本が売れない時代に新風を
1963年生まれ 56歳、1994年に『姑獲鳥の夏』でデビュー、2004年には『後巷説百物語』で直木賞を受賞しいます。
今年5月日本推理作家協会の新しい代表理事に就任しました。
本が売れない時代といわれる中で、現状をどのように打破しようと考えているのか伺いました。

初代理事長が江戸川乱歩、二代目が松本清張、その後のお歴々の名前を見るとちょっと大先輩ばっかりでそのあとが僕ですから、嬉しいというよりも大変だなあという重責の方が大きいかなあと思っています。
日本推理作家協会は最初江戸川乱歩らが作った探偵作家クラブという団体でした。
親睦団体なような性格でした。
江戸川乱歩賞があり、当協会がやっています。
最初は新人賞ではなくて、途中から新たな才能を見言い出すという事にシフトして行きました。
毎年厳正に審査して1,2名選んでいます。
選考委員同士が怒鳴りあうぐらいの白熱の時もあるし、一発で決まるときもありますが、たいていは難航します。
日本推理作家協会賞、1年の商業出版された作品の中から優れたものを選んで検証するという形です。

長編賞、短編賞、評論など3つの部門に分かれています。
何故大変かというと全部読まなければいけない。
SF、ファンタジーなどの領域までかなり広い領域が対象になります。
短編など、電子書籍、ウェブからなどできるだけ取りこぼしの無い様に選んでゆく事で、大変なところはあります。
親睦の面では部活動もありソフトボールは盛んにやっています。
囲碁、ゴルフ、土曜サロン(識者をまねいた勉強会)などもやっています。
協会発信の出版物もいくつか出版しています。
出版社と作家をつなぐ役割もしています。
出版契約書を取り交わさずにやっていた過去もあり、以前はトラブルがあったりしました。
今はトラブルは少なくなっています。

出版不況といわれて20年ぐらい経ちます。
日本出版文化って、ずーっとよかったというほどよかった訳ではなく、成り立たないような形まで肥大させてしまって、システム自体が古くなってきたことに気付かなかった時期もありました。
メディアの在り方も変わったし、読者のコンテンツに対する接し方も大きく変わっているので、それに合わせた仕組みを考えていくことが大事だと思っています。
読みたい人が読みたいものを読めるように、創作物を世に送り出していけるような土壌作りができればいいと思っています。
出版契約書を取り交わして部数における印税等も目視できるように明文化してよくなりました。
部数の決め方が公正なのかはわからないところはある。
地方の小さな書店が減ってきている。
地方にいきわたらない、地方が欲しいものが無いとか細やかなことができていないこともあると思う。
ネットでの販売があるが、それが小さな書店を圧迫している場合もあり、何を改善していったらいいのか考えないといけない。

電子書籍に対する売り方など、健全に読者に普及しているかどうか、それが正しい形かどうかがわからない。
模索していかなければいけないと思っています。
親本から文庫に行く時も文庫版への移行は1年とか後に売り切ってから出すという事は慣例的に行われていました。
初版はどこかにミスがあるので、版を重ねるごとに直してゆくが、文庫本(廉価版)はそれがなおっている。
作り手側が役割を忘れてしまった。
文庫本を出すときに、分冊文庫を同時に出したらどうかといったが、それは駄目でしょうといわれてしまいました。
文庫本が売れなくなるという。
試しに出してみようという事になり出したら、変わらなかった。
ほかのもやっていようという事で電子書籍、ハードカバー、文庫を同時に出したんですが、そんなに違わなかった。
むしろ相乗効果でよかった面がある。
同時発売は電子書籍の告知ができる。

私は書店さんには頑張ってほしいと思っています。
新しいメディアを黒船のように思って打ち払えというのはおかしなことだと思います。
出版という文化は当時の最先端の技術と最先端のメディアと最先端の流通を使って発信されてきた。
書籍は情報ではない、デザイナーがいたり一つの商品として成立している。
書籍、電子書籍などニーズの違いがあると思う。
本に何かをもとめている人がいて、安い本はいらないという方もいます。
ハードカバーと電子書籍の値段が違うという事はそんなにおかしなことではないと思います。
今の若者はスマホなどで文字を読むとに関しては、我々が文字に接した時代よりもはるかに有能だと思います。
そういった人たちに向けたプレゼンテーションができていない。
彼らが喜ぶような出し方を僕らがしていないと思う。
受け手の問題ではなく作り手の問題だと常にそう考えていかないと出版という仕事は成り立たないと思うし、もっと受け手のことを考えて一丸となってやっていかないといけないと思っています。
いろいろやってみて駄目ならやめればいいと思っています。