原田尚美(第66次南極観測隊隊長 東大大気海洋研究所教授) ・南極を極める
原田さんは6年前第60次観測隊で副隊長を務めるなど、南極観測隊にこれまで2回参加されています。 今回南極観測隊初の女性隊長として、南極でやり残してきたことに再挑戦する研究者として、3回目の南極に挑みます。 出発を前にした原田さんにお話を伺いました。
観測船「しらす」では11月20日一足先に南極抜向け出航。 私たちは12月5日に飛行機で成田からオーストラリアにはいります。 昔と違って今は舟が資材を、人とは別々です。 プラス面は時間を割くことが出来ます。 マイナス面は現地に着くまで船ですと3,4週間あり、イベント、打ち合わせなどを「白瀬」の人たちと一緒に過ごすことでしっかりとコミュニケーションをとることが出来て、現地に着くとすぐに仕事に入れる。 4月5日に帰国します。 越冬隊は2026年3月頃に帰国となります。 今回は隊長として行くにあたっては、責任を感じます。 決断を下すことが重要な役割になります。 諸条件によって100%計画通りには行かないので、どこを諦めるのかを判断して隊員に告げることになり、往々にしてネガティブな決断となります。
専門は生物地球化学、古海洋学。 生物地球化学は、海の中でいろいろな環境の変化がありますが、そこに生息する生物、プランクトンの有機物を作る生産、生物の応答、作り出す物質(主に炭素)が海のなかでどう循環していくか、といったようなことの過程を一つ一つ明らかにしてゆくという分野です。 炭酸ガスがどんどん増加していますが、吸収する場の一つが海ですが、生物を介して吸収するというメカニズムがあります。 植物プランクトンが吸収した炭素がどのくらいの時間をかけて、リサイクルされてゆくのか、あるいは一部はいろいろな生物に食べられて糞や死骸となって、海底に落ちてゆく部分もあるので、それが全体のどのぐらいなのか、といったことを定量的に明らかにすることによって、海が微生物を介してどのぐらい二酸化炭素を海中に蓄積しているのか、と言ったことを研究する分野です。 古海洋学は、海底堆積物を使った研究になります。 海底堆積物を採掘することによって、数万年前、数千年前の温暖寒冷の変動が自然のサイクルだけでどのぐらい起きていたのかという事を明らかにする分野です。
先輩が赤道の海域で採取してきたサンプルがあり、それを使って修士論文のスタートをしました。 フィールドワークもしたくて、赤道の航海に参加しました。 東大の海洋研究所が所有する白鳳丸という研究船でした。 いろいろなフィールドワークをしたくて、南極観測隊に欠員が出た時に手を挙げました。(修士課程を終わる直前までは就職をしようと思っていましたが、取りやめて進学することにしました。) 1991年初めて南極に行きました。 南極では音が全くしない無音の世界に驚きました。 1995年海洋科学技術センター深海研究部むつ研究所研究員となる。 北太平洋の研究の後、2010年ぐらいから北極に携わりました。 二酸化炭素が生物を介して有機物として海水中に炭素を貯め込みますが、セジメントトラップ(ある期間海水中に置いて,海水中を沈降してくる粒子を集める装置)を設置して、どの季節にどのぐらいの粒子が海水中に蓄積しているか、1年間かけて調査をしました。 プランクトンの殻もトラップされてくるので、どういった生き物が炭素を作っているのかという事も判ります。
2018年に2回目、南極観測隊副隊長として行きました。 マネージメント中心という事で行きましたが、1回目に失敗たことを思い出して、観測をしにくる場所だなと思いました。 3回目で隊長として行くことになりました。 自分ではなかなか出来ないので、観測するチームに一緒に行っていただきました。 セジメントトラップは33年前とは仕組みが変わっていません。 2週間ごとのサンプルを手に入れることが出来ます。 センサー類は大きく進歩しています。
南極は地球を冷やす寒冷圏です。 温暖化に対する応答、北極は激しい温暖化に見舞われているが、南極は温暖化に対する応答が緩くて、余り氷が減っている印象がないし、海氷も大きくは変わっていない。 しかし2014年ぐらいから急激に現象が南極でも見られるようになった。 海と氷床の関係性を明らかにする監視観測が重要だという事で、第66次もトッテン氷河沖?の氷床の観測を行います。(一番融解が進んでいると言われている場所)
生まれは北海道帯広市です。 苫小牧が一番長く暮らしました。 子供の頃は理科は好きではありませんでした。 高校2年生の時に化学を選び、理科の面白さに気が付きました。 フィールドワークのフロンティア観にワクワクしました。 弘前大学の指導教官が南極観測の経験者でした。 名古屋大学大学院に進み、南極観測に繋がっていきます。 節目節目に巡り合った方との出会いで、いろんな魅力を教えていただきました。 登山が趣味です。 40代半ばから始めました。 最初が富士山でしたが、景色が変わりませんでした。 2番目に大雪山に登て、景色のすばらしさ、登山の魅力にはまりした。 93,4の山に登りました。 山を登り終えた時の充実感、達成感があります。 今年は余りいけなかったのですが、4,5つぐらい行きました。
国連海洋科学の10年の推進役をやって来ました。 SDGsの目標の17の社会目標のなかで、進んでいないのが14の「海の豊かさを守ろう」なんです。 国連は危機感を感じて、加速してNO14を各国に薦めて行きましょうと旗を振ったのが、国連海洋科学の10年で、2020年から2030年まで加速してNO14に取り組みましょうと言う事です。 一般向けの海の辞典を作っていて、2025年秋に出版を予定しています。 海のことを知っていただきたい。