一瀬諭(元特命研究員) ・びわ湖のプランクトンが語るもの
関西の水がめにして、日本最大の湖「琵琶湖」に生息するプランクトンの研究をほぼ半世紀にわたって続けているのが滋賀県琵琶湖環境科学研究センター元特命研究員で工学博士の一瀬諭さんです。 一瀬さんは昭和27年福井県高浜町生まれの71歳。 その研究の始まりは1977年(昭和52年)当時琵琶湖では大規模な赤潮が発生して社会問題化していました。 その年の春人事異動で当時の滋賀県立衛生環境センターの勤務となったことから、琵琶湖のプランクトンの調査をスタート、以来半世紀弱に渡ってこの道を極め、現在は工学博士としてプランクトンを研究するとともに、国内外での環境教育にも尽力しています。 普段私たちが意識する事のないプランクトンの世界、そこから一瀬さんが何を読み取り、何を伝えたいと考えているのかお話を伺いました。
プランクトンは顕微鏡でしか見えないものという印象がありますが、実はクラゲなどもプランクトンです。 水に漂って生きている浮遊生物という事で一番でかいのがクラゲです。 琵琶湖ではノロミジンコというミジンコがいます。 肉眼でも見えます。 大きいものは1cm近くになります。 透明で肉食性のミジンコです。 琵琶湖には植物プランクトンは600種ぐらい、動物プランクトンは300種類ぐらいいます。 ダム湖などは5~10種類ぐらいしかいないところが結構あります。 琵琶湖は浅いところから深いところまであり、いろんな環境があり、川からなあれてくるものもあるので、種類が多いです。
赤潮が発生したころは、高度経済成長期で川からいろんな汚れた水が流れ込んで出来ていたので、冨栄養化が急激に進んだ時期です。 赤潮が異常発生しました。(1977年ごろ)ちょどその頃に移動してきました。 赤潮の発生メカニズム、どんな生き物か、水温、水質など全くわからない時代でした。 職場に向かう時に毎日水をサンプリングして、自分の興味でノートにつけていました。 ウログレナという赤潮が出始めていつごろ一番ピークに達して、いつ頃ごろ無くなるかというのを日記的に付けて行ったのがスタートでした。 生臭い臭いを発生して、水道の水が生臭くなり、京都、大阪も困っていました。 その内容が電子データ化されるようになりました。 赤潮の研究をやっていたのでそのころは植物プランクトンだけでした。 動物プランクトンも必要ではないかという事で20年前ぐらいから動物プランクトンも入れています。 動物プランクトンでは第一優先種はワムシ類で1リットル中に120個で、第二優先種が甲殻類でノープリウス幼生(ケンミジンコの赤ちゃん)で1リットル中に100個ぐらい。 春夏秋冬でいろいろ変わって来ます。
プランクトンを数える計数板があり1000マスに区切ってあります。 マスを順番に見て行って1ccの中に何個あるか、判るわけです。 小さなものは100マス数えて10倍するとか、2マス飛ばしにするとか、マニュアルが出来ています。 判らない種類は顕微鏡で写真を撮って京都大学の有名な先生のところに行って教えてもらいました。 「継続は力なり」と言いますが、ずっとやっていると見えないところのものが見えてきるようになってきます。 辞めたいと思うような時期も最初の10年ぐらいの時にはありました。 絶滅危惧種を見つけたり、新種を見つけたり、続けていかなければいけないというようなポジションになったりして、気が付いたら50年という感じです。
絶滅危惧種にビワツボカムリというのがあります。 すでに絶滅した可能性があります。 有殻アメーバと言って殻を砂粒でセメントで固めて自分の殻を作ってしまう。 砂粒がなくなって来ると、殻が作れなくなってしまう。 琵琶湖の底の環境が変わってしまったと思われる。 プランクトンのカレンダーを作っています。 今迄と違うプランクトンの動きがあると水質の変化、プランクトン数の変化をデータベースで自動的に見出だしている。 昔に比べるとプランクトンの種類、量も減ってきています。 水が綺麗になるという事とプランクトンの量が減るという事は同じことで、長い目で見ると綺麗になってきています。 魚介類もとれなくなってきていて、プランクトンが少なくなると餌も少なくなってくる。 難しい問題をはらんでいます。
プランクトンの量で考えるのではなく、質的なことも考えないといけない。 緑藻類から藍藻類が増えています。 プランクトンは目に見えない有機物をもっているんです。 その量も昔と今とでは大きく違います。 そのことを発見しました。 昔に比べて難分解性の有機物が残ってしまう。 突き詰めてゆくと琵琶湖の中で増えているプランクトンの質の変化が大きく影響しているという仮説を立てて論文を書きました。 猛暑になったりしてくると、暑いところを好む藍藻類、シアノバクテリアなどが優先しやすくなる。 あおこの発生が有ったりして、毒性が有ったりカビ臭があったり、障害として出てくる。 あおこの発生で光が届かなくなり、表面にいるプランクトンだけが増えて下の方のプランクトンが増えられない。 藍藻類が増えるという事は良くない。
地球上では毎年4万種類が絶滅していると言われる。 多様性が失われてきている。 生物が生きてゆくための環境多様性がある。 種の遺伝子の多様性があります。 そういったもので生態系が成り立っているので、判ってもらう必要があります。 生態系の勉強について外国に行ったり、子供たちへの対応も行っています。 是非動いているプランクトンを観て欲しいと思います。