中野珠実(大阪大学大学院教授) ・人はなぜ自分の顔が気になるのか ~顔の科学で分かること~
中野珠実さんはひとが顔を認識する仕組みや心の発達について研究している認知神経科学者です。 人が自分の顔を特別だと思う脳の働きを発見したと言うと、身近に感じられるのではないでしょうか。 スマホやSNSが登場し、人がより自分の顔にとらわれる様になったと中野さんは言います。 自分の顔は何故特別なのかをお聞きした。
人間がどういう仕組みでものを見たり考えたりするのかという事を、脳の活動を測ったり、行動を調べたりして研究しています。 それを認知神経科学と言ったりします。 顔は非常にたくさんの情報を含んでいます。 社会的な情報も含んでいます。 意図、感情、人間関係にも関係するところでもあります。 最初は瞬きから研究を始めました。 3秒に一回瞬きする。 起きて居る時間の約1割の時間は真っ暗な状態になっています。 それを脳の中で補填して、真っ暗になっていることを気付かないようになっている。 視覚情報を1割失っている状態になっているんです。 何かの情報の切れ目に人々の瞬きのタイミングが揃って起きているという事を発見しました。(映画を観ていて、主人公の動作が終わった瞬間とか) 瞬きは認知処理、情報処理を円滑化するためにしているのではなかという事が、研究してきた一つです。
視覚情報は常に目を通して目の中に入って来る。 私たちはそれを分割して記憶してゆくわけです。 瞬きを使って句読点をつけることによって、脳のなかで整理しているのではないかと、言う事です。 起、承、転、結が明確な映画ほど同期しやすい。 瞬きはコミュニケーションとも関係していて、話し手の瞬きに聞き手が揃ってくるんです。(興味がある時だけ) 瞬きが表しているのが「間」です。 犬や猫も飼い主の瞬きに合わせて、引き込まれてしています。(逆もあり)
SNSで加工した顔が出ていて不思議だなと思いました。 アプリを使って、それを自分でもやってみました。 若返った顔を送ったら、反応はなく喜んでいるのは自分だけだと思いました。 自己を捉えて言うというのも面白いと思って研究を始めました。 今は自分で自分の顔を見るようになってきた時に、自分の意識に自己像が入り込んできてしまっていると思います。 社会的な自己がこうあるんだという意識が高まってきてしまっているのかなと思います。 人間は目が特別に進化していると思います。 木の上で生活している猿は目が真ん丸です。 地上に降りて来た類人猿、猿は目が横長になって行きます。 人間は特に横長になっている。 地上に降りって来ると水平方向を広く見渡す必要がある。 人間は横に大きく動かせるようになってきている。 白目を持つのは人間だけで、どこを見てるのかが判りやすくなった。 意図が判ってしまうので危険な面があるが、サルなどの動物は茶色い色素がありどこを見てるのかわかりにくくなっている。 人間は他者と理解して、意図、注意を共有して一緒に共同作業をする方向に変わって行った。 他人の目を見ることによって、他人が何を考えているのかが判る様になり、コミュニケーションするように顔が変って行きました。
眉毛も変わったと言われる。 原始人は眉毛を動かせられなかったと言われている。 おでこが引っ込んで眉毛が動かせるようになった。 自分の感情状態を伝えるようになっている。 ドラマでも9割方登場人物の顔を見ていて、目を6割、口を2割観ていると言われる。 自己の顔認識は今迄とは別段階に進化してきている感じです。
卒業アルバムなどでも、自分の顔は素早く見つけることができる。 自分の顔、名前、自分に関連した情報は素早く見つけて素早く記憶すると言われている。(自己優先バイアス) 自己優先バイアスが脳の中でどういう仕組みで起きているのかという事を調べてきました。 自己優先バイアスは無意識の中でも起きている。 潜在レベルでの脳の働きを調べました。 サブリミナミル刺激といって、派手な刺激の間に自分の顔などを25m秒とかにパッと差し込む。 提示されている事には気付かない。 ただ脳の中には確実に刺激が入っていて、顔の情報として処理されている。 自分の顔に対してはドーパミン報酬系と呼ばれる、ドーパミンが関連する腹側被蓋野(ふくそくひがいや)と呼ばれる部署が活動していることが判りました。 自分の顔が提示されると、腹側被蓋野でドーパミンが生成されていて、脳のいろんな領域に分泌されます。 特に前頭葉などでは重要な情報だと思って、より注意を向けなさいとか、情報処理を促進させるような働きます。 自分の情報を積極的に集めているからだと思います。 自分の情報は多いに越したことはない。(自分の生存のため) 自分が今どういう状態だから、どういう選択、行動が必要だとか、基盤となるものです。
自分の顔に加工を加えると魅力的だと思っている。 綺麗になった他人を見ている時にはドーパミンは出ていないです。 自分の顔に強い加工を加えるたいときにはドーパミン報酬系が働いています。 ドーパミンが脳の特異な一部に働くと、もっともっと加工を加えたくなる。 MRIで脳の形を取っておいて、顔写真を見ながらfMRIで脳血流を計測する。 合わせ込むと脳のどこが活動しているのか判る。 若い人の間では、他人の加工された綺麗な顔ばっかり見ていると、自分との差を感じて、外に出たくないとか、引きこもりになるとか、そういった現象にも繋がってきているのではないかと言われている。
不気味に加工された写真を見ると不気味に思ったりするが、偏桃体に働き、偏桃体は不安、恐怖と言ったネガティブな感情と直結している場所で、やり過ぎると他者にいい印象を持たれない。 リアルと仮想空間で、私たちの顔の存在、意義が大きく変わってきてしまうと思います。 その人の素顔が見たいというのが、人間の本音の部分ではないかと思います。