2015年5月1日金曜日

伊藤 真(弁護士)        ・憲法を胸に生きる

伊藤 真(弁護士)           ・憲法を胸に生きる
昭和33年 東京生まれの56歳  大学生の時に、一人一人を大切にするという憲法の理念に感銘を受けて、司法試験を目指し東京大学在学中に司法試験に合格しました。
伊藤さんは弁護士として活躍する一方で、憲法の理念を実現できる法律家を育てたいと司法試験の予備校で教鞭を取ります。
20年前 36歳の時に、司法試験などの受験指導を行う塾を設立し、独自の勉強法を提唱してカリスマ塾長と呼ばれるようにもなりました。
市民や学生向けに憲法を解説する講演を年間150回以上行っています。 
一人ひとりが憲法の理念を胸に刻むことで、自分らしく生きること、そしてより暮らしやすい社会を作る事ができいると呼び掛けています。

子供の頃は技術者になりたいと思っていた。
外交官になりたいと思う様になり、法学部に入って法律に触れた。
先輩の現役の方に伺って見たら、自分のイメージとは違った外交官のイメージだった。
陸奥宗光幣原喜重郎吉田茂というようなイメージをしていたが違う様な感覚を受けて一気に冷めてしまった。
外国に出て何かしたいとの思いがあり、人脈を作ろうと思った。(遊び友達を増やす)
大学2年の時に憲法との出会いが有ったが、その後アメリカの友人(ジャーナリスト)から、アメリカに帰って弁護士になりたいと言う事だった。
日本の法律で一番大切なのは、憲法で、憲法の中で一番大切なのは何かと問われて
①基本的人権の尊重
②国民主権
③平和主義
と答えたが、一つだけと言われて答えられなかった。
よく日本人をやっているなと言われてしまって、くやしくて調べた。

3つの根底には、「個人の尊重」という考え方が有る。(憲法13条) 初めて知って衝撃を受ける。
個人は誰も皆違うので、それでいいんだ、人と違う事は素晴らしいことだと感じとれた。
父の関係で中学の時にドイツに2年暮らしていた。
ドイツに行くときに飛行機で出掛けたが、国境線が見えない、国境、国って何だと不思議に思った。
ドイツで生活する中で、いろんな国籍、いろんな民族、いろんな人に出会って、良い人もいればとんでもない人に出会ったりもする。
人種も国籍も関係ないな、人それぞれで、それぞれの人生が有る、ということをおぼろげに感じながら帰ってきた。
「個人の尊重」という言葉を知り、人はみな同じ、人はみな違うという感覚を持てた。

ドイツから帰って中学の学校に初めて登校するときに、自分だけ鞄の肩への掛け方が違っていて先生から注意を受ける。
ルール、規則が大嫌いだった。
人と違う事は素晴らしいと憲法で言っている、このままでいいんじゃない、それに気付いた。
憲法を学んでみたら、法ではあるが法律ではない事に気付いた。
憲法は国を縛るための法で「誰に守れ」かというと、政治家、官僚、裁判官、公務員に対して憲法を守れと言っている。(国民は守らせる側。)
通常の法律は国民に守りなさいという法律。
人権  長い歴史の中で人類が苦難を乗り越えてきて戦い取ってきたもの。

日本に戻って来てから、日本の歴史、文化に関する本を読む。
高校では弓道をやり、武士道に対して思い入れをもった。
日本は軍隊をもっていなくて、アメリカに守られている、自分の国を外国に守られるというのはおかしいと思っていた。
戦争で罪もない人たちを殺す事は出来るかと、自分に問いかけた時にそれは恐ろしさできないと、
プロの軍人に頼もうと思った。
自分がやりたくない恐ろしいことを人に押し付けることになり、それはもっと卑怯なことだと思って、にっちもさっちもいかなくなってしまった。
外交官になって何とかしようと思って、その後憲法に出会って、憲法9条の意味を初めて理解した。
「戦わない」 この選択肢があるのではないかと思った。
刀を抜かない、相手が来た時に、その人の人格、人間的魅力、その人のたたずまい、に恐れをなして相手が攻撃して来ない、それほどの人物になれば襲いかかってこない、武士道の究極の姿だった。
なんだ日本の憲法はそれをいっているよと。

自分たちは崇高な理想と理念を高める事に依って、外交力、政治力、経済力、文化の力など軍事力以外の力を高める事に依って、誰も手が出せない様な国を作り上げてゆく、そのことがこの国にとっての一番現実的な安全保障につながる事を、何十年も前に憲法を築いたんだと吃驚した。
憲法を仕事にしたいと思った。
人身の自由 逮捕された時の刑事手続きに関する条文が多いが、戦前の治安維持法などで人々の自由が、大変な圧政のもとで人権侵害が有って、にがい経験の中ででき上ってきた。
日常的な刑事、民事の事件の依頼を受けたりしているが、必ず憲法の話をしている。
貴方らしい生き方をこれからして行けばいいので、過去のことをとやかく言う人はいないので、自信をもってやり直していけばいい、其れを憲法は後押しをしていると言ってあげる。

憲法の事を一人で1000人(20年間で)に伝えるよりも、1000人に伝えられるような法律家を1000人送り出した方がいいのではと思う様になり、教える方に軸足が移ってきた。
法律は道具なので、その先が重要なこと。
塾を立ち上げた当初からやっている事が二つある。
①法律家の先輩等に来ていただいて講演をしてもらう。
 第1回 1996年に薬害エイズ訴訟 その後ほか原発とか こういう使い方ができるという事を知ってもらう。
②マスタリーツアー 外国に行って、人権裁判所、慰安婦、戦争責任の爪痕など、事実を聞いてみたり自分で見る、そして自分で考えてもらう。(経験的知性が大切)
当事者の話をしっかり聞くという事は全ての基本だと思います。

憲法を学んだことによって、自分の生き方の指針、価値基準の様なものになった。
多くの人に知っていただきたい、伝えたいと思いが強くある。
人間は進化するものだとは確信している。
憲法は人類最大の発明だと思っている。 
憲法で強い力をもった人たちをコントロールする事によって、間違いを最小限にしてゆき、理想を掲げてそれに向かって現実を少しでも前に勧めてゆく事を人類は繰り返してきたと思う。
非常識と言われた事柄が、人類が進歩する事によって常識になってゆく。
昨日より、今日もうちょっとより良い生き方をしたい、明日は今日よりもうちょっと良い生き方ができたらいいな、と人は生きていったらいいと思う。
憲法を伝えることによって、理想、志に向かって少しでも前に進めてゆくという生き方に意味があるのではないかと思う。