2023年11月17日金曜日

高泉淳子(俳優・劇作家)        ・今という瞬間を重ねて

高泉淳子(俳優・劇作家)        ・今という瞬間を重ねて

高泉さんは1958年宮城県生まれ。 早稲田大学社会科学部卒業後の1983年遊◎機械/全自動シアターを結成します。 この劇団の看板女優兼劇作家、演出家として活躍します。 子供から老人まで様々な役柄を演じ分け、劇団の人気演目から生まれたちりじり頭に黒メガネの少年「山田のぼる」で人気となり子供番組のMCとしても演出していました。 NHKでは週間子供ニュースのおかあさんとして司会を担当、このほか週間ブックレビュー、昭和演劇大全集の司会を担当しました。  今年は1989年より上演されている、高泉さんが構成、台本、主演を務めるア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン』が35年目を迎えます。

1989年12月(ベルリンの壁が崩壊した年)ア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン』と言う芝居を始めました。 早稲田の演劇研究会で演劇を始めて、映画のような、音楽でそのシーンがよみがえってくるというか、そういう事が演劇でもできないかと言う事がずーっと夢でした。 それがア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン』と言うものでした。  今年35年目を迎えました。  映画の中の食べるシーンが好きでした。レストランで行って、手ごたえがあったので3年やらせてほしいと言いました。 バイオリニスト中西俊博さんに弾いてもらって、自分の中で物凄く広がって行きました。 音楽があったらそこにいろんな時間が流れてゆく、と言う事を感じてこれだなと思いました。 これをライフワークとしてやっていきたいと本当に思いました。 

うちは兄が二人いて従兄弟もほとんど男の子でした。 父が音楽と映画が大好きで、私はテレビが大好きで洋画などが一杯あり、父親と一緒に観て良く解説をしてくれました。  小学校5年の時の1月に父が脳溢血で亡くなってしまいました。  月曜ロードショーを父と一緒に観た翌日でした。  父からは「君が好きなものが、みんな好きだというものではないんだよ。」と言う事は注意されました。 「君が笑っている時に泣いている人もいる、君は見えないから注意しなければだめだ。」と言われたのが、最後の父の言葉でした。 それが役者だけでなく本も書くようになったのかもしれません。 或る時人は突然消えて居なくなるんだなと思いました。(父の後に祖父も亡くなる。) 老いるという事が怖かった。 30歳の時に老婆役をやって、自分の先がここなんだという事がふっと見えてきて、それから役者として変りました。   

図書館の帰りに、仙台の西公園にテントがあり、黒テントの方から観て行かないと言われました。 佐藤信さんの役者も素晴らしいし、次の日も見にいってそれからとりこになりました。  演劇部に行ってみようと思いました。 役者って、いくつになっても見えないんですね。 絵とか、楽器をやっていたりすると客観的に見える。 役者って、自分ではいいと思ってもなんかよく判らない。  いまだにそうですね。  主人公って、どこか欠落している、そこが切なかったり、愛すべきところだったり、まず人物を探るところから始まります。 本を書く時に、どういう人物が以下と言う時に出て来たのが、変な少年でした。  それが「山田のぼる」でした。  生きることに敏感な人物、それは生まれて間もない少年少女たち、それからこれから消えるかもしれないおじいちゃんおばあちゃんたち、どっちかでした。  時代を語らせるのに一番ビビッド(描写・記憶などが生き生きとした)なのは少年か少女だと思いました。 愛されるときどっちかなと思た時に少年だと思いました。 わざと年老いたセリフを言わせました。  「山田のぼる」は幼児からおじいさん伯母さん迄とりこになったところはありました。  本を書いてしまったので、やるのは私しかいないと思いました。 

青山円形劇場が閉鎖されてまいました。(2015年) ア・ラ・カルト』は今迄にないお芝居と思います。 短いお話があり、その間に音楽があり、人生模様の短編みたいなもので、余り他にはないように思います。  こういう芝居が消えては惜しいなあと思い、やり続けたいと思いました。  もう一つは私には辞める理由がない。 この二つがあり続けてきました。  身体が動けなくなるとか、声が出なくなるとか、どうしても出来ない頃が来ると思うので、その時に辞めればいいと思っています。  役者、映画にも出てみたいという気持ちが、今凄くあります。  

父は早く亡くなっていろんなことを教えてくれた、母は99歳になりますが、頑張って私に生きるという事を教えてくれています。  お芝居は上手い下手ではなくて、如何に相手を思う丁寧さがあるかどうか、それだけだと思います。 悪役であろうがどんな役であろうが、その役を丁寧にやるという事、だと思います。  丁寧にと言う事は、今持っている自分を全てだす、誠心誠意。  日常でも、こんな感じでいいかなと思って話した時は、絶対相手に通じないと思う。  言葉が少なくても、相手にこれだけは伝えたいと思って、丁寧に伝えたら、絶対伝わると思います。