2023年11月2日木曜日

高野秀行(ノンフィクション作家)     ・誰も行けない国へ

高野秀行(ノンフィクション作家)     ・誰も行けない国へ 

1966年東京都生まれ、早稲田大学探検部に在学中に『幻獣ムベンベを追え』で文筆業を開始します。 アジア、アフリカなどの辺境地をテーマにしたノンフィクションや旅行記を手掛けています。  タイ国立チェンマイ大学や上智大学で講師を務めました。 2013年、『謎の独立国家ソマリランド』で第35回講談社ノンフィクション賞を受賞し、2014年この作品で第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞しました。 今年7月にイラク大湿地帯を題材にして『イラク水滸伝』を出版しました。

「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」という事をポリシーし、世界中の辺境地を訪ねてそれを題材に執筆しています。 『イラク水滸伝』を出版しました。  ぼくは人が行かないような未知の場所とか、国とかに凄く興味があります。  イラクはニュースとしてはよく出ますが、軍事、政治問題ばかりで普通の人はどういう風に暮らしているのか、どんな感じで社会が動いているのか全くわからない。 1990年代から北朝鮮と並んで行きたい国でした。 イラクの中に巨大な湿地帯があったそこに水の神が住んでいるというのを新聞で読みました。 チグリス、ユーフラテス川の周辺です。  かつては四国と同じぐらいの大きさになったこともあります。 今でも東京都をしのぐぐらいの大きさです。  そこで古代文明がスタートしたとされている。 葦で浮かして島を作ってその上に葦の家を建てて、ボートで移動する生活をしています。

昔から戦争に負けた人たち、迫害されているマイノリティーの民族や宗教の人たち、アウトローの人たちが逃げ込む場所でもあった。 ほとんどはイスラム教です。 マンダ教という古い宗教の人たちも一部います。 イスラム教にはシーア派スンニ派の二つがあり、スンニ派の人が9割程度とほとんどです。  湿地帯にはシーア派の人たちが多く住んでいます。 湿地帯なので多くの軍隊が攻め込むことが難しい。  ときには政府や国家と戦う、これは水滸伝そっくりではないかと思いました。  

小さいころから謎とか、未知が凄く好きでした。 八王子なので周りには林、山、川が沢山あり冒険探検ごっこをしていました。 中学、高校ではごく普通でした。 早稲田大学高等学院に進み、大学もそのまま、企業にもそこそこいけるので、先が見えてしまって、こんなのは絶対嫌だと思いました。  秘境に行って謎や未知を捜したいと思う気持ちがありました。 インディージョーンズが凄く好きで、テレビの探検隊の番組も良く観ていました。  大学に入った時には探検部に入りました。  主な大学には探検部はあります。 30~40人の部員がいましたが、数人単位でいろいろ活動をしていました。  国内は、山とか、激流下りとか洞窟などを主にやっていました。  海外ではサハラ砂漠をバイクで縦断、アマゾン川を下るとか、山岳部に入って行って一緒に生活するとかやっていました。  

在学中に『幻獣ムベンベを追え』で文筆業を開始します。 10人ぐらいでコンゴに行って,コンゴ政府と合同調査隊を組んで捜しに行きました。 出版社から体験記を書いて欲しいと言われました。  評判が良くてこれで食って行けるのではないかと思いました。   僕が伝えたいのはテーマとか論理とかイデオロギーとかではなくて、世界観、そこの雰囲気、人の暮らしとか、丸ごと読者に伝えたい。  感じた事、体験を中心に書きたいと思っています。 一つずつ障害をクリアーして進んでゆくと、行けるわけです。 その過程が結構面白い。 ミャンマーのワ州(黄金の三角地帯」の中核)、かつてはアヘン製造を主要産業としていた。  そこに行った時は特に面白かったですね。 

僕が一番大事だと思う事は面白い本を書くという事です。 それに繋がるように生きてきています。  警戒心を解くコツというのは、まず目的をはっきりさせる、現地の人にリスペクト(尊重する、大切に思う)の気持ちを持つ事、感謝の気持ちを持つ事、好奇心を持つ事、現地の言葉を覚えるというのも、いい方向に作用しているのかなあと思います。 現地に行くと、こういう事だったのかと毎回思います。(ネットでさんざん情報が出ていても、ごく一部のことでしかない。)