松原始(東京大学総合研究博物館 特任准教授)・あなたの知らないカラスの話
とかく嫌われがちなカラス。 動物行動学者の松原始さんはそんなカラスに興味を持って30年以上もカラスの研究を続けています。 驚くべき学習能力の半面、意外とお茶目で間抜けな面もあり、その興味深い習性や行動からカラス本来の姿を知れば一番身近な野生動物カラスとの共存共生を考えるヒントになると言います。 9月6日のカラスの日を前に松原さんにカラスの知られざる魅力とカラスと上手に付き合うヒントを伺いました。
9月6日はカラスの日 96で「クロウ」Crow 、黒いから「黒う」です。 カラス友の会があります。 子供の頃から動物は好きで、家の近くにカラスのねぐらがありました。 下から「カア」と言ったら返事をしたような気がしました。(小学生) 大学に入って何か研究してみようと思って、カラスを観かけ始めたのがきっかけです。 東京大学総合研究博物館では空き時間にカラスの研究をしています。
カラスは世界で45種、47種とか言われていて、日本では7種類で、そのうち2種類は迷鳥と言って迷子で来てしまったもので、定常的には5種類です。 繁殖しているのがハシブトガラスとハシボソガラスの2種類です。 (くちばしが太いか細いか) 東京都心部で見かけるカラスはほとんどホシブトガラスです。 くちばしが曲がっていて長い、「カアカア」と鳴きます。 ハシボソガラスはくちばしが細くて真っすぐ、鳴き声がひしゃがれただみ声です。 河川敷とか芝生、農地とかが好きです。 ホシブトガラスは元々が森林性の鳥なので地面があまり好きではない。 電柱、ビルとかに止まっている時間が長い。 地面にはいい餌がある時だけ降りてくる。 1970年代からハシボソガラスは東京からは消えていきました。
カラスの産卵は1年に一回です。 ハシボソガラスが3月中、ハシブトガラスは4月です。 4~5個産みます。 孵化まで20日ぐらいです。 雛から巣から出てくるまで一か月ちょっとかかります。 赤ん坊が立っち出来るぐらいで、独りでは何にも出来ないです。 巣立ってから何か月かは親元にいて餌を貰ったりしています。 独立するのが夏の終わりから秋ぐらいです。 若いカラスの集団がありそこにどんどん入って行きます。 順位付がありよくケンカしています。 順位が高いと餌を得やすいし、女性にも持てます。 メスの方にも順位付けがあり強いメスには弱いメスはプロポーズも出来ない。( 寄って行くとほかのメスに怒られる。)
ワタリガラスと言う種類は寿命が60年を越えます。 ハシブトガラス、ハシボソガラスは飼育していると40年ぐらいです。 野生ではっきりしているのが19年4か月です。 基本的には一夫一妻で仲がいいです。 死別すると再婚という事もあります。 離婚と言う例もあります。 基本的には夫婦でテリトリーを持っていて、そこにはほかのカラスを入れないというのが繁殖個体の生活です。 巣は普通は木の上です。 巣の材料は基本は木の枝です。 ハンガーを使う事が良くあります。
カラスは夜明けの1時間前ぐらいから起きています。 暗いうちにえさ場まで行きたい。 カラスは雑食性です。 果実類、昆虫、 動物の死骸、他の鳥の卵、雛などです。 渋谷、新宿は凄い餌場です。 高カロリーが好きで油類が好きです。 カラス対策でゴミ類が減って来ています。 猫缶とか、ドックフードを食べに来ています。 カラスは一日一回は行水をやっています。 餌を食べた後は必ず口を拭いていて綺麗好きです。 陽が完全に落ちる前にねぐらに帰って行きます。
学習能力は相当高いです。 記憶も相当いいです。 1年経っても覚えています。 物事を関連付けて覚えるという事もします。 好奇心も強いです。 人の顔も見分けています。 カレドニアカアスは道具を使うことで知らています。 道具を自分で作って使う。 倒木にカミキリムシの幼虫が入っているので、大きな葉っぱの真ん中の軸だけを残して噛んで先っぽを曲げるんです。 それを穴に入れて動かして幼虫が噛みついたら引き上げる。 車にくるみを轢かせるのは日本のハシボソガラスだけです。
ハシブトガラス、ワタリガラスは物まねが特にうまいです。 電線で大車輪みたいな遊びをしているのも見かけます。 滑り台で滑り落ちてきたりもしています。 みかんを咥えていてほかのカラスが「カア」と鳴いたので、「カア」と鳴いたらみかんを落としました。 線路に置き石をする行動ですが、 線路の敷石の下に餌を隠してあり、 石を咥え上げてそこにレールがあるのでレールの上に取り敢えず石を置くんです。 そこに列車が来るとカラスは逃げる。 石だけが残って置き石になっていた。 カラスが襲ってくるのはカラスが子供を守る時だけです。 声を出したり、頭をかすめるように飛んできて、気の荒いカラスでは頭を蹴ります。 後ろから襲います。
脂分が好きで、石鹸を持ってい行ったり、ロウソクをもっていったりします。 ゴルフ場でゴルフボールを咥えて行くことがありますが、卵と間違えているのかもしれません。 ビニールの袋の中にはいいいものが入ってい居るはずだという事をよく知っています。 赤、オレンジ色は果物が熟している色なので食べたくなる色です。 荒らされたくないので、 カラスの死骸みたいなもの、キラキラしたものを置いても、一時的には嫌がられるが慣れてしまいます。 物理的にゴミに触れさせない。
カラスの名前の由来は、「カラ」がおそらく鳴き声です。 「ス」は鳥を意味する言葉だと言われています。 世界中でカラスを意味する言葉は鳴き声から来ていると思われます。 カラスの羽根の中にメラニンの顆粒が大量にあって、地の色として黒に見えるが、羽根の表面にケラチンの層があって、これが光を散乱させていて、光沢がのります。 サッカーの日本代表のユニホームにカラスがシンボルマークになっているが、日本神話に出てくるヤタガラスから来ていると思います。 カラスの天敵は大型の猛禽類と大型のフクロウですね。 カラスは食べられますが、それほど美味しくはない。 カラスを飼う事は基本的には駄目です。 カラスの本来の姿をもう少し知って頂けると、そこまで怖いものではないという事が判ってもらえると思います。