上田渉(オーディオブック事業会社 会長) ・読書のバリアフリーがもたらすもの
上田さんは1980生まれ、神奈川県出身。 教育を改革したいという志をもって、2浪して東京大学に入った在学中に、様々なNPOやIT企業を立ち上げましたが、緑内障で失明した祖父の影響で目の不自由な人のためになる仕事をやりたいと、2004年にオーディオブックの制作、配信を行う現在の会社を創業しました。 2022年に流行語大賞にノミネートされた「オーディオブック」は本や書籍の内容を音声で聞くこと事が出来るメディアのことで、目で読むのではなくナレーターが読む内容をパソコンやスマホを使って耳で聞く読書です。 現在日本国内で利用者は300万人以上、小説やビジネス書など幅広いジャンルでおよそ2万点が発行され、月に1万冊以上が購入されています。 2015年には大手出版社も参加して、本を耳で読むというライフスタイルを広げようと、日本オーディオブック協議会が設立されて、上田さんは常任理事を務めています。
祖父は60歳の時に緑内障で失明し20年間目の不自由な生活を送りました。 祖父はとても本の好きな人でしたが、読めなくなってしまいました。 大学入学1週間後に祖父は亡くなりました。 進学校に入学しましたが、先生は「勉強しないと大学に入れない、大学に入れないと就職できない、就職できないと食べていけない。」と言われました。 父はスノースポーツのカメラマンでした。 1年に一か月ぐらいしか家にいませんでした。 それでも食えて行けました。 高校では反発して勉強をしないで過ごして、中学1年の学力から一切伸びませんでした。 周りが東大に行きたいと言うので聞いてみました。(100名程度) 一番多かった回答がお小遣いが上がるからでした。 日本の教育が悪いのではないかと考えました。 教育を変えなければ日本は良くならないのではないかと思いました。 教育改革をする政治家になりたいと言う夢を持ちました。 文科省では東大卒がおおくて、東大に行かないと喧嘩にならないと思って、東大を目指すことにしました。 現役1年、2浪して東大に入りました。
政治家になるために、大学では弁論部に入りました。 教育のNPOを設立したりしました。 教育改革に政治家は合わないのではという懸念が生じました。 夢をやめて、一旦就職して社会勉強しながら何か考えるという事にしました。 祖父のことを考えて、視覚障害者の方に何かできないかなと思って、スタートしました。 視覚障害者についていろいろ調査をしました。 視覚障害者の方へのサービスが必ずしも届いていないという事が判りました。 最初は朗読のCDを通勤の方に聞いてもらえないかと言ったことを考えました。(高校3年) 回りからは絶対うまくいかないと言われて、自分でやるしかないと思いました。 1980年代にカセットブックを出版社業界が手掛けたが、文庫本1冊300円の時に3000円を超えていて、ジャンルも狭かったためうまくいかなかった。
オーディオブックを始めるにあたっては色々調査をしました。 値段が同じかそれ以下だったらいいねと言われました。 大学3年生の時に会社を作りました。 2007年にサービスを開始。 通信環境のデバイスが進化していって、スマホが進化してゆき、ワイヤレスイヤホンが普及してゆく中で、手軽に聞けるデバイスを持つ時代が登場しました。 2017年に19万人だったのが2018年に30万人になり、どんどん増えて行って今は300万人を越えています。
オーディオブック化したい作品をいろいろな方面から出て来て、出版社に相談をして決めます。 ナレーターを決めます。 1名なのか複数名なのかいろいろなパターンを検討します。 声優さんがきてひたすら読みます。 200ページぐらいのビジネスホンでも4時間ぐらい、文芸作品で300ページぐらいで6,7時間かかります。 製作期間は1,2、3か月のものがあります。 何かをしながら聞けるという事は便利です。 本を読むことが苦手な方でもそれを解消できます。 聞く速度も0.5倍から4倍まであります。 目で文章を追いながら耳で同文章を聞くことによって、複数の感覚器官が同時に情報が入った場合には記憶への定着率が高いんです。 オーディオブックはまだ始まったばかりの文化で、広げていきたいです。 ラインナップを増やすことにおいては必須だと思っています。 社員教育などに活用するサービスも始めています。