岡村勲（（新あすの会）代表幹事） ・〔人権インタビューシリーズ〕 犯罪被害者とは、かくも絶望的な存在なのか

 岡村勲（新全国犯罪被害者の会（新あすの会）代表幹事）　　　　・〔人権インタビューシリーズ〕  犯罪被害者とは、かくも絶望的な存在なのか

岡村さん高知県出身94歳。　岡村さんは犯罪被害者の会、通称「あすの会」を立ち上げ、犯罪被害者を取り巻く環境の改善を国に訴えてきました。　　その結果日本で初めて犯罪被害者の権利が明記された法律の制定につなげるなど、９４歳の現在まで先頭に立って戦っています。　岡村さんの活動の原点には自身の悲惨な体験がありました。　　１９９７年東京で代理人弁護士をしていた６８歳の或る日、株取引に失敗した客に恨まれ、自分の代わりに妻のまなえさんが殺害されたのです。　しかし当時犯罪被害者には裁判で傍聴席に遺影を持ち込む事すら許されず、弁護士としておよそ４０年裁判に携わってきた岡村さんですら、声ひとつあげられませんでした。　その体験から４半世紀、犯罪被害者の為司法の壁に立ち向かって来た岡村勲さんの思いを伺いました。

１９９７年１０月１０日事件が発生しました。　あの当時山一証券の不祥事があって、その弁護を一生懸命やっていました。　　妻に宝石をかってやろうしたが家に電話をしても出ない。　不審に思って帰ったが、まさか殺害されたとは思わなかった。　玄関を入って塀のうらがわで倒れていました。　１１０番したが、のんびりと詳細を聞こうとしたので「早く現場に来てください。」と言いました。　娘、息子とか親戚に電話をしました。　２時ごろ遺体とついて行って、明け方に「これからご遺体と御面会されますか。　死亡解剖に回すので。」と言われました。　　穏やかな顔をしていました。　家に戻っても家には入れません。　まず第一発見者が疑われる。　家には入れないので道路で葬式の話などをしました。　

犯人は私を刺しに来たんです。　いろんな証券会社をゆすっていたが、山一證券はゆすりに応じなかった。　私が応じないようにさせました。　それで私を狙いました。　　私が居なかったので妻を刺し殺しました。　　結婚したのは３１歳の時でした。　妻は労働省に務めていました。　そのまま務めたかったが辞めて、私の両親も大事にしてくれました。　　　翌年の５月まで遺骨を家において置きました。　　遺骨と共に妻の思い出の東京見物を全部タクシーで回りました。　　

事件から７日後、男は逮捕され、４か月後にこの事件に初公判が開かれました。　犯罪被害者の不当な扱いを初めて知る事になりました。　　当時は被害者の権利は全くなかった。　　遺影の持ち込みを頼んだが断られました。　　被告人に威圧感を与えるという事でした。　　被害者が生きていれば、顔中包帯だらけでも傍聴は出来る。　段々被害者の権利がない事の怒りが起こって来ました。　妻は証拠品扱いです。　　権利もなく段々こんな制度では駄目だと気持ちが膨らんでいきました。　　傍聴席から見ていて、裁判には参加できなかった。　加害者の意見が一方的に話されていた。　　助かりたいから、加害者が自分のことを正当化する事は当たり前だと思います。　　自分を倒そうとしたから刺したというんです。　　　反論したいが出来ずに、ずーっと後ろで聞いているだけです。　嘘ばっかり言うわけです。

検察の死刑に対して無期懲役という判決でした。　　最初は彼は死刑の求刑が出ないと思って舐め切っていたんではないでしょうか、でも一審で死刑の求刑があり、二審になって態度が随分変わりました。　　「遺影にお詫びしたい。」と言うようなことを言いだしました。　死刑にしてほしいという思いはありました。　妻が苦しんで死んだのかどうかは知りたいです。　当時は被害者の方が何かあったのではないかとバッシングを受けた。　　　　　　　事件から３年後に立ち上がりました。　犯罪被害者の会「あすの会」を立ち上げる。　　　　被害者の権利がないことを身をもって知りましたから。　　明日はよくしたいという思いで「あすの会」と言う名前にしました。　　ドイツ、フランスなどの実態調査とか、北海道から九州まで署名活動をしました。　集まった署名が５７万でした。　

娘さんが殺された被害者が傍聴していたら、よく聞こえないので裁判所にもっと大きくしてほしいと言ったら、「被害者に聞かせるための裁判をやっているのではない。」と断られたそうです。　被害者があっての法廷だと思うが。　　被害者はどんな制度を作っても救われるという事はないんです。　2004年被害者の権利を明記したに犯罪被害者等基本法が成立する。　　犯罪被害者の誕生日だと言っています。　　2008年には被害者が直接法廷に立って意見が言える、被害者参加制度が成立する。　やっと中に入れるようになる。　2010年には殺人など凶悪事件の控訴時効の撤廃もありました。　　殺人犯は１５年経ったら大手を振って歩けるが、１５年経っても被害者は泣いているんです。　　こんな馬鹿なことがあるのかと思っていました。　

2018年「あすの会」に一度終止符を打ちました。　私が疲れ果てました、倒れる寸前でした。　　４年後に９２歳で又犯罪被害者のために立ち上がりました。　　２０２２年「新あすの会」を結成する。　我々を頼っている被害者が一杯いるんです。　　取り組んでいるのが経済保証です。　親が殺されて学校へ行く金がない、成人式に着てゆく着物もない、私は金を出して買ってやったりしました。　義務教育はいいが専門学校に行くと生活保護が打ち切られる。　個人ではなかなかやりきれない。　加害者は刑務所に入って居て取れない、加害者がなくなってしまっていることもある。　　国が替わって、加害者から取り立てるように主張しているわけです。　　加害者が支払ったデータとしては殺人で１３，３％、強盗殺人で１，２％、傷害致死で１６％にとどまっている。　

本当に被害者が困らないような制度を作って欲しい。　被害者にならなかった人と同じスタートラインにしてもらいたい。　　2023年６月犯罪被害者への給付金の大幅引き上げを発表。　　でもまだ足りない。　今は１０億円ぐらいしか出してはいない、１００億円出してと言っていますが。　昨年の被害者への給付金は約１５億円、犯罪加害者の収容、更生にかかる予算の合計は２０００億円以上。　　犯罪が無くなる社会は来ないでしょう。　少なくする努力はしなければいけない。　　起きた時に社会がどういうサポートシステムを作るのかという事ですね。　　妻が私の身代わりをしたので、これしか妻にお詫びする方法がないという気がしたので、やってきました。