大橋弘一(野鳥写真家) ・〔人生のみちしるべ〕 “鳥屋”として生きる
大橋さんは1954年生まれ(71歳) 北海道札幌市を拠点に野鳥写真家として活躍しています。 今年の3月まで7年間深夜便科学部鳥の雑学ノートのコーナーを担当しました。 鳥にまつわる様々な話題を楽しく伝えていました。 今年の10月に野鳥の写真の本ではなく、鳥にまつわる日本史の本を出版しました。 深夜便の鳥の雑学ノートのコーナーが大きく広がって到達した一冊とのこと。
深夜便の鳥の雑学ノートのコーナーではラジオなので、写真を見ていただけないので、言葉の力も含めてどう鳥を伝えるか、という事が凄く勉強になりました。 鳥を知らない方にも、その鳥って魅力的だなあと思ってもらえるような内容、題材、言葉の力は凄く大事だと思います。 今年は本を3冊出版しました。 最初に写真集を1999年に出しました。 平均すると1年に一冊のペースでした。 ビジュアル図鑑「北海道の鳥」870点の写真が使われています。 272種の鳥。 子供のころから図鑑が好きで、特に鳥の図鑑が好きでした。 日本鳥類目録が2024年に新しくなりました。(明治時代から作られている日本の鳥の全部の鳥のリスト) 分類が違ってくるといろいろなものが変って来る。 それで新しい図鑑としてビジュアル図鑑「北海道の鳥」を出しました。
10月には「鳥たちが彩る日本史」武将・文人と交わる8種類の鳥 この本は読み物で鳥の写真は10数点小さく載せましたが、読み物として作った本です。 鳥の語源について考えました。 「すずめ」 鳴き声が「ちゅんちゅん」ですが、昔の人は「しゅんしゅん」と聞いていたようです。 「しゅんしゅんめ」とめを付けていた。 「め」は鳥を意味する古い接尾語。 「しゅんしゅんめ」が段々変わって来て「すずめ」になったと言われる。
「うぐいす」は鳴き声を表している。 「ホーホケキョ」だと思いますが、昔の人は「うーぐいす」と聞いていたらしいという事が調べると判るわけです。 「いかなれば春きたろごとうぐいすの己の名をばひとにつぐらん」と言う和歌があります。(大江 匡房 平安時代後期) どうしてうぐいすは春になるたびに自分の名前をひとに告げているんだろう、と言う歌です。 うぐいすの鳴き声が「うーぐいす」だったという事になる。
調べてゆくと清少納言は「ほととぎす」が大好きだったことがわかり、鳥の語源だけではなく、人と鳥とのかかわりが判って来る。 深夜便の鳥の雑学ノートではそういったことをお話ししたつもりです。 その雑学の一つの到達点が「鳥たちが彩る日本史」と思って頂ければと思います。 鳥を説明するのに科学的な視点だけではなく、文系からも鳥を説明するということをずーっとやり続けてきています。 そうなると写真だけではなく、言葉も必ず必要になって来る。
東京に住んでいましたが、昭和30年代は鳥が少なかった時代です。 高度成長期で自然環境があまり顧みられない時代でした。 水が汚れ、空気が汚れ公害の問題が発生しました。 子供心に野鳥なんかいないと決めつけていました。 でもスズメ、ヒヨドリ、オナガなどがいました。 オナガは関東の特産種であることを図鑑から判り衝撃を受けました。 早稲田大学法学部に進みましたが、鳥のことは全くやっていませんでした。(スキーに熱中) ヤマハに就職しました。(スキーの板なども製作) しかし楽器がメインであることにがっかりしました。 札幌への転勤になり、音楽教室の業務を行っていました。
スキーは続けていましたが、30歳ぐらいでスキーでトップになろうという思いは駄目だと悟りました。 網走に仕事で行っていた時に、「ノビタキ」と言う鳥を見つけて、写真を撮ってみました。 子供の時に鳥が好きだったことを思い出しました。 鳥を仕事にやろうと思いました。 超望遠レンズも買って写真を始めました。 38歳の時に溜め込んだ写真をもって出版社へ行きました。 シジュウカラの特集をするという事で雑誌に写真を提供しました。 アマチュアから集めた写真を一冊の写真集をつくっていて、 2点採用されました。 「チゴハヤブサ」の鳥の写真を、銀行の広告にその写真を使わせてほしいという連絡がありました。 3か月間毎週のように週刊誌の裏側にでかでかと写真が載りました。 他の写真も新聞にも頻繁に載るようになりました。 写真一枚で100万円もらえるので食っていけるかもしれないと思いました。 45歳で会社を退職しました。
写真一枚で100万円の仕事は一回きりで、それ以来一つもありません。 食って行けるかどうかの辛い思いは何度もしてきました。 頂点を極めたいとの思いでやって来ました。 極めようという頂き、到達点が高ければ高いほど悩み苦しみもついて来るものなのではないかと思います。 プレッシャーみたいなものを常に感じます。 それを一つ一つ乗り越えるように励ましながらやっていこうと思います。 雑学を極めたい。
3冊目は「鳥たちの素敵な名前の物語」 です。 5年間連載をしていたものを一冊にまとめた本です。 新しい要素も入れて、古典文献の解説も中に入れています。 いろんな切り口で鳥を知ってゆくと鳥の見方も変わってくると思います。 深く鳥のことを知ることができる。 鳥を通して古い文化、歴史、価値観と言ったもの知ると、我々の祖先が歩んできた道が見えてくるように思います。