2024年7月20日土曜日

藪邦彦(高野山金剛峯寺 高野山執務公室長) ・世界遺産20年 今改めて感じたい空海の教え

藪邦彦(高野山金剛峯寺 高野山執務公室長) ・世界遺産20年 今改めて感じたい空海の教え 

高野山を含む紀伊山地の霊場と参詣道が世界遺産に登録されたのが2004年7月7日(20年前)のことでした。 弘法大師空海が開いた高野山には今国内だけでなく、世界各国から観光客が集まって来ます。 世界遺産登録20年、高野山を訪れる人達に何を感じてもらいたいか、そしていま改めて感じたい空海の考えはなんなのか、藪さんに伺いました。

高野山執務公室長の役割は、高野山金剛峯寺には役員がいて、その秘書的な部分、行政など対外的なところとの調整、広報などを含めてやっています。 僧侶でもあります。 世界遺産に登録されてから急激に海外の方への発信力も強くなり、多くの方が来るようになりました。  20年前は海外に発信する手段も知りませんでしたし、アピールの仕方も知りませんでした。  宿坊、お土産屋さんも英語を喋れない人がほとんどでしたが、今では片言の英語を伝えながら、対応しています。  世界遺産に登録されたのは、熊野、吉野、高野(高野山)三つの聖地とそれぞれを結びつける道を併せて登録されました。  この三つは日本の信仰の歴史の中核になると思っています。  熊野は大自然をそのまま御神体としてあがめた。(土着の神道の教え)  仏教が入ってきて、そこから修験道という信仰体系が生まれてくる。 修験道の中心の聖地が吉野というところになります。 1200年前に弘法大師が中国から持ち帰った密教の聖地としてあえて、高野という場所に選びました。 

この場所を選んだ理由としては、①様々な信仰の体系がこの紀伊半島に集約していた。  ②京都にほど近い。 ③空海が修行をしていた吉野から歩いて2日間で高野にたどり着くことができる。 ④盆地になっていて、多くの人が修行するためには水が必要になるが、豊富にある。  ⑤都から離れることによって仏さまと自分自身だけを見つめるためには最適な場所であると感じられた,と思います。  

宇宙科学を専門に学んでいる方々、数学者、医療関係の方々と様々な議論をさせて貰っています。  例えば数学で様々なものを紐解いてゆくその話の中で出てくる内容というものが、真言密教の経典にすでに書いたあるもの、今あえてそれが証明されつつあるんじゃないかなと思う事が良くあります。 大宇宙が出来上がっているのはビックバンという爆発によって無数の物質が放出され、今の大宇宙が広がりつつあるが、真言密教の経典の中には、何から生まれたものではない唯一無二の波動が存在するんだと書いてあります。 それを今の科学で応用してゆくとビックバンが生まれ、ビックバンから様々な物質が流出され、星が生まれ、地球という星の中に新たな生命体が生まれて今に至っている。 

ビジネス、農業の方たちとの交流もあります。 土には何億という生き物が存在している。 彼らの活動の賜物によって、養分となってゆく。 何一つとしてこの世の中に不必要な存在はない。  土自身も命としてとらえる。  そういった一つ一つが関わることによって新しい力を見出す事にもつながってゆく。 すべてのものを命として尊びながら見てゆく。

曼荼羅という教えを持ち帰りました。  それぞれに役目を持ち合わせた仏さまたち、沢山の仏様たちが関わり合って、今の命と言うものを生かしている存在なんだということを説かれている。  生まれも育ちも全て違う、だからこそそれぞれが尊い一つの命で、それぞれが関わり合って生きてゆくことの大切さを知ることに繋がれば、多くの方々が救われてゆく道というものがおのずと見えてくるのではないかと思います。

若い人々は大自然に対する感謝の気持ちが少し薄れてきていると思います。  大自然に対する感謝する心、様々な人々に感謝する心、そういったものに対してベースとなる教え、機会を少しでも発信することが出来れば、と思って発信しています。 仏教も進化してゆきますが、すべての命を尊び、自分自身の命を尊び、その命を活用して多くの人々の喜びとしなさい、という教えは様々な宗教、宗派等を包括する教えだろうと思います。 

視野を広げてゆくことができにくくなってきているように思います。 特化して狭い領域を深く深く掘り下げてゆくというところは、今の方は得意なのかもしれない。 視野を拡げ経験を積極的にやっていただくと、様々な知識、知恵を得るきっかけになるのではないかと思います。  

昭和44年福岡県でお寺の子供として生まれました。  中学、高校になるとお寺に拘束されるのが嫌でした。 段々受け入れながら今に至っています。 大学は高野山大学に進みました。 当たり前として見よう見まねで受け入れていたものを、掘り下げていくという思いでした。  理由と意味を知る事によって、心が付いてゆく。 月~金までが高野山、週末は福岡のお寺です。 

最近の観光客は、宗教儀礼に参加することなくお帰りになる方が多いです。 外国の観光客の方からはもうすこし宗教儀礼に参加したかったという言葉が非常に多いです。 令和5年の観光客は140万人来ています。 人口2600人の小さな街ですが、140万人の人々が不便な思いをすることは本意ではないし、住民の方にインフラ整備を任せるというのも本意ではありません。  ふさわしい対応を検討しています。  奥の院には今も御大師様が祈り続けていらっしゃる場所がここに存在しているんだ、という信仰に裏打ちされた場所が高野山です。 

戦国武将がお互いに近くで供養されている。 何故かというと御大師様が受け入れてくださっている。 その空間に触れていただくことこそが、大切な体験になるのではないかと思います。  体験していただくことによって、決して自分自身は一人では生きているのではなく、多くの人々、自然界のなかの多くの命によって、私という一人の命が存在しうるし、生かされているという事を、大自然を通して感じていただきたい。 他の人の命を大切にして頂くと同時に、自分自身の命を大切にして頂く、それが最も大切であると思います。 多くの人々を正しく幸せに豊かに導いてゆくか可能性がある、とてもとても大切な命なんだという事を自分自身で企画して、それを実行に移していただく、それこそが御大師様の教えです。