2024年7月16日火曜日

篠田謙一(国立科学博物館館長・人類学者)・“地球の宝を守り続ける” これからの挑戦とは

篠田謙一(国立科学博物館館長・人類学者)・“地球の宝を守り続ける” これからの挑戦とは 

篠田さんは1955年生まれ(68歳)。 京都大学理学部卒業後、九州の大学で教壇に立った後、2003年から人類学の研究者として国立科学博物館に勤務、2021年から20代目の館長を務めています。 国立科学博物館では去年資金難のため支援者からインターネットを通じて寄付を募るクラウドファンディングを行いました。  その結果9億円以上の寄付が集まり大木話題となりました。 今日はクラウドファンディングの舞台裏やこれからも続く国立科学博物館についてお話を伺います。

2027年に創立150周年になり、初代は明治10年の頃の人です。 矢田部良吉という植物学の先生です。 「らんまん」という連続テレビ小説がありましたが、牧野富太郎が東京大学の植物学教室に行った時に彼に世話をした人です。  最初は10年ぐらい上野にいて、その後お茶の水に行って、40年ぐらいいて、大正11年に上野に戻ってきようとしましたが、関東大震災があって、計画が全部だめになってしまいました。 災害に強い博物館にしようといことで昭和6年に上野に戻ってきています。  

クラウドファンディングを実施したのは、昨年の8月7日でした。 1億円を集めることは難しいと思っていました。 9時に記者会見をやって発表しました。 ビラ配りもしましたが、受け取ってもらえませんでした。  事務の方から凄く資金が集まっていますと言われました。 夕方には今日で1億円行きますと言われました。 スローガンが「地球の宝を守れ。」でした。 3年前にコロナが起こって来館者が居なくなり、お金が入ってこなくなりました。 来館者が徐々に戻っては着ましたが、その後ウクライナ侵攻が起こって、エネルギー価格がどんどん上がってしまいました。 茨城県のつくば市に収納庫がありほとんどのっものが入っています。 研究者もつくばにいます。 つくばの電気代が大変なんです。  

お金がなくなって来て、なんかの手段でお金を集めなければいけなくなりました。 2億円は足りませんでした。  とても2億円は集められないという事で、1億円のクラウドファンディングを立ち上げました。 1週間で4億円になりました。 他館と協力して、地球の宝を守る、という風に話しました。  11月5日にクローズして9億2000万円ぐらい集まりました。 返礼等々やって、手元に6億円ぐらい残りました。 使い方を議論して、4月から具体的に進めています。  5万6000人に方から寄付を頂きました。  メッセージを頂き、大きく分けると2つあります。  ①「地球の宝を守る。」費用に使って下さいと言う事。 ②科学博物館は子供の頃から来ているので(親子2代、3代)、博物館が困っているので支援します、という事。 国立と名前が付いていますが、多くは独立行政法人なっています。 組織は柔軟性になってきたが、大きなことが起きた時に、脆弱なところがあります。 

2021年に官庁になりましたが、丁度コロナ禍の大変な時期でした。 研究者は60人ぐらいいます。 事務方は80人ぐらいです。 博物館には私は20年務めていますので、すべての人を或る程度理解していました。 ですからクラウドファンディングを行う事にはそれほど困難ではないと思っていました。  返礼品には図鑑があるんですが、3万9000冊ぐらい出ました。  研究者全員が2ページづつ書くという事を決めて、2か月ぐらいで原稿を集めました。(普通はなかなか難しい。) 一体感が生まれました。 一般の人に支えられてるんだという事が改めて理解しました。(これが大きかった。) 

「マンスリーサポーター」というものが始まっています。 スローガンは「地球の宝を守り続ける。」 登録して頂くと月々に2000円、3000円とかを自動的に振り込んで頂くようなシステムです。 一般の人に支持してもらうようなシステムが重要であると思いました。 支援して頂いたお金がどういう風に使われているのか、情報を出して行き続けることが重要です。 

1955年生まれで、2歳まで静岡にいました。 小学校2年生まで新潟にいて、その後は東京です。(中学1年まで) 高校卒業までは北海道、大学が京都で、就職が九州で20数年間いました。 古い骨の研究をしていて、博物館にという話があって上野の博物館に来て20年ぐらいになります。  自然の中で暮らすのが好きな子供でした。 大学では化石を分析するコースを取っていました。 化石よりも人間の方が面白くなって、人類学ではまずは解剖をやれと言われました。 解剖を20年以上やって来ました。 1980年代になると古い骨からDNAが取れることになります。 PCR法で検査できる装置が友人の大学に有るという事で、そこに夜の12時(佐賀から熊本)に着いて朝の5時ごろまで二人で、こっそり実験を始めました。 弥生人の分析を始めて現在に至るわけです。 

2010年以降はやり方も変わって得られるデータも遥かに多いです。 ミトコンドリアDNAを分析して、縄文人はミトコンドリアDNAの種類があまりないとか、弥生時代になると突然いろんなタイプが出てきて、それは実は今の私たちと同じなんだという事が判るようになりました。 2010年以降はDNAの読み取る装置の能力が何万倍というような感じになります。 縄文人が一体いつ頃日本に来たのか、弥生人は大陸のどこから来たのだろうとか、ほとんど判る様になりました。  

教科書には500万年ぐらいの時代と数万年前の事は記載されているが、その間のことは書かれていない。 しかし、DNAの分析をやる事によって判って来るんです。 ネアンデルタール人と別れたのが60万年まえで、一番古いホモサピエンスの化石が30万年前に出てきて、10万年前まではアフリカにしか出てこない。  6万年前よりも新しい時代になると世界中から化石が出てくる。 実はそのころアフリカから世界に旅立ち、ネアンデルタール人と交雑する。 我々はネアンデルタール人のDNAを2%ぐらい持っている。  6万年前からどういう形でアジアに人が広がって、縄文時代、弥生時代にどんなことが起こったのか、判ってきたんです。  チンパンジーらとは700万年前に別れたと言われている。 いろんな文明が発達したが、実は一つだったんだ問う事が判ってきたんです。 

人類学の最先端で仕事が出来たので有難いと思っています。 過去の人たちが選択してやってきたことの総和が今の私たちになっていて、私たちの将来も、今の私たちの選択によって決められる。 将来を考える一つの判断材料を見つけるという事でこういった仕事をしています。「科学を文化に。」というスローガンがあります。  継続的に科学を身近に置いておけるような、そういう社会を作りたいと思います。 博物館の役割は、科学の面白さ、人間の社会を豊かにしていくものだという事を知っていただくための活動をしていこうという風に思っています。 ずーっとサッカーをやってきて、学生には「努力は報われない。」という話をまずして、どうやったら報われるかという事から考えないと、行けないと言っています。 今の学生さんとかは、正解を求めます。 実際はクエッションではなくて、プロブレムなんです。 問題があって、問題には解決法がある。 ソリュウション(回答、解決すること)を見つけなさいと言っています。 正解は世の中にないので、「最適な解」を、とずっと教えてきました。 その延長線上に「努力は報われない。」というものがるんですが。    論の立て方、ものの考え方をしていきましょうというのが私のモットーなんです。