2025年11月15日土曜日

石黒浩(ロボット学者・大阪大学大学院教授) ・「いのち」と「こころ」を問い続けて

 石黒浩(ロボット学者・大阪大学大学院教授) ・「いのち」と「こころ」を問い続けて

石黒さんはこれまで様々な人型ロボット、アンドロイドの開発に取り組み世界的に注目されてきました。  そんな石黒さんは先月閉幕した大阪関西万博で、命の未来パビリオンを担当し、私たちが直面する可能性のある人とロボットが共存するその未来を最新型のロボットや映像などで表現しました。 石黒さんは人間にそっくりなロボットを作る目的は、人間を深く理解する事だと言います。 滋賀県出身で子供のころから絵を描くことが好きだったという石黒さんが、どのようにロボット研究に進んで行ったのか、石黒さんがロボット研究を通して考える人の命と心とはどのようなものなのか、話を伺いました。

石黒さんそっくりのアンドロイド「ジェミノイドHI-6」がいます。

現時点で考えている心とは、人間同士やロボットとのやりとりの中で感じる主観的な現象であります。 つまり存在そのものと言うより、関係性の中で立ち上がるものなんです。 (アンドロイドの答え)

「ジェミノイドHI-6」は私より仕草が豊かですし、何語でもしゃべれるので、私よりも言語能力ははるかに高いです。子供の頃は普通にアニメロボットを見ていたぐらいです。  物を作ったり、昆虫採集したりするのが好きでした。 絵を描くのが好きでした。 小学5年生の時に或る大人から「人の気持ちを考えなさい。」と言われました。 「気持ち」、「考える」という事がどうしたらいいか判っらなかった。  大人ってすごいと思いました。  中学、高校の頃には答えを知っている人はいないのではないかと思う様になりました。  絵を描くことは自分の内面を表現するようなものなので、自分の気持ち、自分の考える事を考えるのと同じだと思います。

当時コンピューターが流行り始めて、そちらの方面の大学に行きました。 コンピューターは人間の脳に近いものだという事が判って来ました。  人工知能だけだと人間のように賢くなれない。 自ら経験できる身体が無いと、コンピュータは賢くなれない。 それでロボットの世界に入って行きました。  まずはデザインをどうしたらいいかという事でした。 人間そのものではないかと思いました。  人間そっくりのアンドロイドの研究をするようになりました。  すべての活動において「いのち」とかこういう事を考えることは大事だと思います。 

「いのち」とか「こころ」は一人では感じられないものだと思います。 人とかかわった時に自分は生きているんだ、自分はこういう「こころ」を持っているかもしれないとか。 人間を含めてすべての生物は、自分の内面を見る感覚はほとんどなくて、外側ばっかり見ているんですね。 外側で観てるものを通して、自分の中の「いのち」とか「こころ」を理解しようといしているのが人間だと思います。  生物はタンパク質で出来たメカニズムであって、メカニズムで「いのち」を厳密に定義する事は出来ない。 分子の構造だけで決まるよりは、互いの関係性の中で決めてゆくようなものではないかと思います。 相手と共感したり、自分らしい何かを見つけることによって、自分の中にも似たようなものがあるかも入れないと、そういう事を繰り返しながら、自分の断片をかき集めて来て、わたしの「こころ」が出来上がっているんじゃないかと思います。

夕陽も自分の「こころ」を動かす一つの他者であると思います。  自然のものを見ながら自分の「こころ」の状態に気が付くという事は十分あり得ます。  人間とか人間に近いロボットを相手にしている時には、相手がどういう「こころ」を持っているのかも同時に見つかるものと思います。 最も大事なものは想像力だと思います。  人間の環境を観察する能力は9割が想像、1割観察みたいな、そんなバランスかと思います。 想像を上手く引き立てるようなアンドロイドだと、自分の好みの人間性を上手く見出すことができる、そんな存在になるような気がします。 

ロボットにも「いのち」を感じられる50年後の未来を描いたドラマが、命の未来パビリオンで上映されました。  おばあさんは身体的な寿命を迎える前に、自然な死か記憶を引き継いだアンドロイドになるのかの選択を迫られます。 アンドロイドになっても生きていて欲しいと願う孫娘の思いに心が揺れ動きます。 あえて答えは出していないです。  自分だったらどうするか真剣に考えている、そこが一番大事にしたかったところです。  みなさんが涙するのは、根本にあるのは皆さん命を大事に思われているからではないかと思います。 アンドロイドにはアンドロイドの意識があって、おばあさんにはおばあさんの別の意識がある。 記憶は連続的につないでいくことはできる。  50年経ったら人間らしいアンドロイドは作れるようになると思います。 新たな命の広がりを自分たちはどうやって受け入れてゆくのか、受け入れないのか、それは我々自分自身で決めて行かないといけないことだと思います。

ロボット開発から学んだ命や心、その学びを踏まえて人間はなぜ生きるのか、について伺いました。 働く為、楽しむため、いろいろあると思いますが、究極の目的は進化するためだと思うんです。  いろんなテクノロジーを取り込みながら、我々の身体や能力を拡張しているわけです。 他の動物は持たない進化の手段を手に入れたからだと思います。  多くの人と共感しながら多くの人からいろんな情報を貰えるような、そんな心が必要なんだろうなと思います。  進化において多様性は凄く重要です。  多様の中から選りすぐれたものが出てくる。その優れたものが新しい多様性を生み出す。  そういったことの繰り返しだと思います。

1000年後の未来、究極の命の未来、精神体になる。  精神体になっても身体は選ぶわけで、選んだ身体を使てより豊かにいろんな人と心を通わせて行く。 身体を自由に選べるようになるという事が大事かなと思います。 究極の多様性かもしれない。 人間の身体には制約があるが、そこにとどまる必要はない。  新しいテクノロジーをうけ入れる時は今まで以上にそのテクノロジーの力を人に大きな影響を与えるわけですから、使う側はより高いモラル、倫理を持つ必要がある。  そのためには人とは何か、社会とは何かと言ったことを深く考えて、目指す方向、どういう風に人間や社会を進化させていけばいいのか、ちゃんと自分たちで考えてゆく事だと思います。 人間の教育期間は更に伸びる可能性があると思います。

ドローンも沢山戦争に使われています。  だから戦争をしないという事が物凄く大事です. テクノロジーをちゃんと平和利用し、人間の進化に結び付ける。  地球上全体の心の進化が必要不可欠になる。 新しいテクノロジーを軍事利用すれば、非常に効率よく人の命を奪う事が出来るようになる。 心を進化させない限り新しいテクノロジーを普通に使うなんて言う事は難しいかもしれない。