2024年10月31日木曜日

今井むつみ(発達心理学者・慶応義塾大学教授)・赤ちゃんは、言葉を覚える天才!

今井むつみ(発達心理学者・慶応義塾大学教授)・赤ちゃんは、言葉を覚える天才! 

何故ひとは言語を持つのか、子供はどの様に言葉を覚えるのか、その謎に迫った今井むつみさんと秋田喜美さんの共著「言語の本質」言葉はどう生まれ進化したのか、大ベストセラーになり2024年の新書大賞を受賞しました。 今井さんはそのカギを握るのはオノマトペと赤ちゃんの探求心の操作だとおっしゃいます。  人はどのように言語を獲得してゆくのか、その過程でオノマトペ(擬声語)はどのような役割を果たしているのか、又人とAIの言語の学習法はどう違うのか、今井さんにお話を伺いました。

「言語の本質」はこんなに反響があるとはつゆほども思っていませんでした。 内容は心理学だったり、言語学だったりかなり広範囲に及んでいて、内容的には抽象的な話だしかなり難しいんじゃないかなと思っていました。 多くの人に読んでいただいて、全く予想もしていませんでした。 

赤ちゃんの言語学習はもうお母さんのおなかで始まっています。  音というよりはリズムのパターン、言語特有のリズムがあります。 英語のリズムと日本語のリズムは随分違います。  日本語は平坦で必ず子音、母音があります。 英語はアクセントの位置で単語が認識される。 アクセントを中心に単語が発音され、文が作られる。 お腹の中にいる時には水のなかにいるので、細かい音は聞こえない。 抑揚なパターンとリズムを学習します。 

赤ちゃんが最初にしなくてはいけないのが、単語を見つけてゆく事で、その一つの手がかりとして抑揚なパターンとリズムは重要な役割をします。  生まれてからは音の聞き分けです。  単語を見つけてゆくには、自分で手がかりを捜していかなければいけない。    ミルクとかお腹とか、大事な音の繋がりで、それが何度か現れてくると、これは一つの単位なのかというふうに気づいてゆく。  でもまだ意味は分からない。 

オノマトペ(擬声語)が何で大事かというと、この音の塊には意味があるという事をわかっていないと捜しようがない。 ヘレン・ケラーはあの有名な「ウオーター」、先生がポンプを押して掌に水がかかって、その時に先生が「ウオーター」というスペルを手にしたら、その時直感的にこれは名前なんだと、スペルと水が繋がり、彼女は全てのものに名前があるという事に気が付くわけです。 言語という抽象的な記号の集積を学習するのに、絶対に必要な気付きだと思います。 名付けの洞察と言っています。  ヘレン・ケラーは全てのものに名前があることが判って、触るものにこれは何かと先生に尋ねて、帰るまでに30ぐらいの名前を憶えてしまいました。 

普通の言葉はあまり意味と音の間に関連性が無い。 オノマトペ(擬声語)は連想がしやすい。 音と意味の対応付け、が感覚的に判って、その経験が言葉には意味があるという事の直感を得るのではないかと思います。  動詞は抽象的でイメージが湧きづらい。 保育園で「ガラガラペー」をしなさい、「ブクブクペー」じゃないと言うと判る訳です。 判りずらい動詞を何となく感覚的に意味が判る。   ものだけではなく行為にも意味があることが判って来る。 どういう言葉が判って、どういう言葉が判らないのか見極めが大事です。表情で判断して判らないと思ったら言い換えて、手掛かりを増やす。  周りの大人の役は凄く大事です。   最初はシンプルに単語だけを言う。   常に観察するという事が大事です。 

絵本の読み聞かせは凄く大切です。 子供の反応に応じて、余分に話を広げてあげたり、飛ばしたり、親が子供に合わせ子供が聞きたいことを話してあげることが大事です。 生で読み聞かせするのと、デジタルで声優さんの録音したのを比較すると、生の方が言葉をよく覚えます。(臨機応変に赤ちゃんの反応によって対応するから)  実際の感覚の経験をすることは大事です。 

AIと人との学習の違い。 AIは膨大なデータを最初からどんと与えられて、そのパタンを分析する。 赤ちゃんは限られた情報処理能力しかない。 自分がいま処理できる情報しか入れないという事をしています。 それを少しづつ広げてゆく。 AIには名付けの洞察というようなことは一切ない。  統計的なパターンの学習をしている。 視覚情報だけで、触覚、嗅覚などを繋げようとしているが、数値として学習する。 感覚のネットワークは難しいと思います。 紐つかないのは感情だと思います。 

子供が発達するうえで大事な事は、一つは自分でいろいろな仕組みを捜して、ある種の洞察を得て、発見して、自分の今ある知識の状態よりも、一段抽象化されたとか、一段上の段階に自分で自分を持ってゆく、そういう事を子供はしています。 人間はなぜを問うが、生成AIは問わない。  人間は因果を突き詰めようとする。 

「学力喪失」という本では、言葉というものは本当に抽象的な記号の集まりで、これを学習するというのは凄いことだと思います。 大人は手助けはするが教えることはできない。 赤ちゃんは自分の力で様々な仕組みを見つけて、洞察を得て自分の力でどんどん言葉の抽象度を上げて行って、概念を学習してゆく。  なのに学力不振という事を考え続けてきました。 例えば分数の意味が全然判っていない。(小学校5年生)  そもそも子供たちの問題ではなくて大人たちの方に学力というものに対して、知識というものに対して、大人の方に誤解があるのではないか、という風に考えました。  大人は一生懸命説明しようとして、説明したら判るという考えがあって、子供の観点からすると抽象的なことを言われると入ってこない。 自分で感覚的に数を操作したり、体験したりして、そこから自分で抽象化をする。 そういう経験が足りていないから、記号設置というものが数に対して出来ていない。 そういう子供が沢山いるのではないか、ということを考えて私の作った「たつじんテスト」の調査から判ったことを交えて、子供がなぜ学校で躓いてしまうのか、という事を述べたのが、「学力喪失」です。