大塚智丈(精神科医・西香川病院 院長) ・人生100年時代 “ありがとう”のバトンつなげたい
大塚さんは61歳、院長を務める西香川病院は認知症医療に力を入れている病院です。 大塚さんは診察に訪れる認知症の人に、「堂々とお世話になって下さい、そうでないと将来貴方の子世代、孫世代の人たちが世話をされることが恥かしいと思わなければならなくなります。」と頭を下げてお願いします。 ケアされることを申し訳ないではなく、有難うと感謝の気持ちで次の世代に繋げたいと考えている大塚さんにお話を伺います。
日本では人類史上未曽有のスピードで高齢化が進んで居ます。 それに伴って認知症の数もかなり増えてきています。 2022年のデータで65歳以上の高齢者の認知症の人と認知症の予備軍と言われる軽度認知症の方は1000万人程度と言われている。 80代後半で4、5割、90代前半で約6割、95歳以上ですと8割という数字です。 女性の場合は87歳で認知症になって90歳まで生きるというのが、今現在でも平均的な生き方になっている。 多数派になってきているので、認知症になること自体を恥ずかしいとか、情けないとか、思う事自体おかしいのではないかと思います。 これだという予防法は無いです。 認知症のイメージを改善しながらやっていただくという事、備えが重要だと思います。
20年前から始めていますが、最初の頃は心の面までは関心が行きませんでした。 NHKのクローズアップ現代で、クリスティーン・ブライデン(オーストラリアの人)さんが若年性のアルツハイマ―型の認知症になって、こんなに考えて、感じているんだという事を講演された方です。 自分の中にあった偏見に気付かされました。 信頼関係を大事にするようにしました。 それが出来ると話がしやすくなります。
認知症になると鈍感になるようなイメージがありますが、敏感になっておられます。 些細な失敗でもその感じ方が普通の人とは違います。 自己否定感が強くなってくることがうかがえます。 認知症の人が感じている辛さは二つあります。 ①能力低下によって起こてくる生活障害です。(不便で大変) ②認められたいという心の欲求が満たされていない事。 ①への対応はするが②への対応へは目が向いていかない。
認知症になって怒りっぽくなった患者さんが、5年ほど経って、認知症になっているとは知らずにいろいろと質問をして、それに答えたりしたが、(社会の中の一員として自分をある時感じて)、その後一時期怒りっぽくなくなったという事がありました。 自分が役に立てたと感じられたんじゃないかと思います。 認知症になった人が、「今迄と同じように接してくれなくなったことが一番つらいです。」と本人の口から聞きましたが、今でもよみがえって来ます。 30年前に比べると認知症の進行のスピードが1/3になったと言われています。(東京慈恵会医科大学 精神医学講座 客員教授の繁田雅弘氏) 楽しみ、生き甲斐を持っている方はゆっくりが多い。
脳と心の関係はどうなっているのか、ずーっと興味を持っていました。 医学部に進んで精神科が一番それに近いと思って、入りました。 しかし認知症には全く興味はありませんでした。 病院に入って、或る時に精神科は認知症をやって下さいと言われました。 22年前に開設しました。 2年前から、認知症のイメージを改善する話をスタッフも陪席して話をしています。 認知症の人は不便だけれども不幸ではない。 認知症の方が相談員になって、「出来る事の中で楽しめることをやって行ったら、それで十分幸せですよ。」と、当事者の方にお話ししています。 出来ることをやってもらって、そのことに感謝の気持ちを述べると、自己肯定感を感じる。 出来ないことに注意したりするとイライラしたりして、自己否定感も強くなってくるし、家族との関係性も悪くなって来るし、意欲、活動性もなくなって来る。 ポジティブな感情は進みにくくなる。
少々お世話になったり、迷惑をかけてもいいんだと、堂々とお世話になったら、お子さん、お孫さんも同じような状況が生まれてくる事と思います。 人生100年時代を迎えると、人生の最初と最後は、人間としてお世話になることは自然な事ではないでしょうか。
若い時には認められたい自分というものがあると思いますが、認められるようになると、今度は役に立ちたい自分というものが出てきて、そうすると満足感が得られるので、人間としてもらえるものが沢山出てきて、遣り甲斐が高まって来ていると思います。