2025年12月7日日曜日

桐野夏生(作家)              ・未来に先んじる作品を書きたい

 桐野夏生(作家)              ・未来に先んじる作品を書きたい

桐野さんは1951年石川県生まれ。 大学卒業後24歳で結婚、子育てをしながら30代で小説家デビューをしました。  1993年顔に降りかかる雨で江戸川乱歩賞、1998年OUT』で第51回日本推理作家協会賞を受賞、1999年『柔らかな頬』で第121回直木三十五賞を受賞するなど多くの文学賞を受賞しています。  ドラマ化、映画化された作品も多く、去年NHKで放送された代理母?の問題を扱った「燕は戻ってこない」は大きな反響を呼びました。 2021年からは日本ペンクラブの会長となり、現在3期目です。 今年はイギリスの推理作家協会によるダガー賞翻訳の部門で日本人女性作家の作品が受賞するなど、強さを前面にうちだした女性像と、そういう主人公を生み出す女性作家に注目が集まっています。 桐野さんも自身唯一のシリーズ作品私立探偵村野ミロの新作「ダークネス」を10年振りに出版しました。

「ダークネス」の10年前が「「ダーク」で、その前が「ローズガーデン」で、最初顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を頂いた時に、書いた作品でその時の主人公が村野ミロで30代前半の女性でした。  20年ぐらい書て来て「ダーク」で終わりにしようと思いました。 妊娠して逃避行で終わるつもりでした。 産んだ男の子はどうなるんだろうと思いました。 「ダークネス」ではミロは60歳になっていて、纏める意味で書きました。 ミロが孤独になってゆく姿を書いてみたかった。   東日本大震災があり、コロナがあり社会の形が変ったような気がして、この20年の変化は物凄い事だと思います。

自分が作り出した人物なので、責任を感じてしまって、60歳になったミロを書いている「ダークネス」で、自分の作った世界なのにそこにちゃんといきている人がいて、パラレルワールドで歳を取っているんだと思って、不思議な感じでした。

OUT』では4人の主婦が描かれている。  ひょんなことで道を踏み外す話はどうだろうかと思って、書きました。  主婦たちを労働に駆り立てている状況を知りたいと思ったのと、その人たちが壊れていきながらも自由になってゆくみたいなものが書けたら面白いと思いました。  夜中に取材もしました。   ほとんどは頭の中で作った人物です。 

グロテスク』は1997年(平成9年)に起きた東電OL殺人事件をモチーフとして、現代の階級社会を身一つで闘う女性たちの生き様をセンセーショナルに描いた作品。 実在の人物を書いていても想像で書いていますが、難しいです。

「ナニカアル」林芙美子のこと。 何を書きたかったかと言うと戦争責任を問われた事。 林芙美子は偽装病院船で南方へ向かった。陸軍の嘱託として文章で戦意高揚に努めよ、という命を受けて。 女性の苦しみもあっただろうと思って林芙美子を書きたいと思いました。

「オパールの炎」、時代に先駆けてピル解禁を訴えていた女。  中ピ連の榎美沙子さんも選挙の後に消えてしまった。 その後どうなったのかもわからない。 私も彼女に賛成していました。  この30年で女性に対することが変ってきたと思います。  直木賞の選考委員も6:3で女性の方が多くて、女性の作品も共感を持って読まれるようになったと思います。

2021年からは日本ペンクラブの会長となり、現在3期目です。 理事になりましたが,不熱心な理事でした。  その後の選挙で僅差で私でしたが、固辞しましたが、説得されてやらせてもらう事になりました。  日本ペンクラブは出来て90年になります。 PENのPがポエット(詩人、俳人、歌人、劇作家),Eがエディター(編集者)、Nがノベリスト(作家)ほか、言葉に関わる方たち(編集者、研究者、出版社など)。 表現の自由、そのためには平和が絶対に必要であろうことでそういう事も訴えてましょうという事です。  声明、談話等を発表します。  

この20年で予想していなかったような状況になり、いつ何時とんでもないことが起こるかわからないので、それに備えたものを先んじて書きたいと思っています。  来年の1月からは女性の徴兵制みたいなことを書いています。  世界的には判らないですね。  貧困対策、少子化対策でそう言う事をする政府があったり、考えたりしていることを書いたりとかしています。  作家の役割は井上ひさしさんが「炭鉱のカナリヤた。」と言うようなことをおしゃいましたが、社会の無意識みたいなものを救い上げて、言葉にしてゆく事が作家の仕事だったと思います。  そういう風に出来たらいいなあと思います。  無我夢中でここまで来たという感じです。