2024年5月2日木曜日

浦田理恵(ゴールボール元日本代表)    ・一歩踏み出す勇気をもって 前編

浦田理恵(ゴールボール元日本代表)    ・一歩踏み出す勇気をもって 前編 

今年8月にはフランスパリで障害者のスポーツの祭典パラリンピックが始まります。 その競技の一つゴールボールの話題です。 2012年のロンドンパラリンピックでゴールボールの日本女子の代表はパラリンピックの団体競技では初めて金メダルを獲得しました。 その中心メンバーの一人が福岡市に住む浦田理恵さん(現在46歳)です。 小学校の教諭になるために勉強を続けていた20歳のころから網膜色素変性症を患い、徐々に視力を失っていきほぼ全盲の状態になって行きました。 一時は絶望で家に1年半引きこもった時期もありましたが、家族の支えを頼りにゴールボールと出会い、学生時代までは運動音痴だったはずが、めきめきと頭角を現し日本代表迄上り詰めました。 東京パラリンピックを最後に代表を引退するまでに、北京、ロンドン、リオデジャネイロ、東京と4大会に出場し、ロンドンの金、東京の胴と二つのメダル獲得に貢献しました。 ゴールボールを通じて人として成長することを学んだという浦田さんに「一歩踏み出す勇気をもって」と題してお話を伺います。

シニア―アドバイザーとしてパラリンピックの日本代表の選手にアドバイスをしています。  技術の指導はあんまり向いていないと思っています。  チームの士気を上げたり、選手に寄り添ってメンタルのケアをするとかでは、私自身チームの役に立てるという事合宿にもスポットで参加して、言葉を通じてチームが勝ために雰囲気つくりと言ったところを、主な役割としてやらせてもらっています。 勝つためには心技体の中で8割が心で後の技が1,体が1と言う思いで選手時代も過ごしていました。 マインドセットは大事だと思っています。 

東京で辞めると言う事で目指していたわけではなくて、銅メダルを取った時に、私はやり切ったな、もう次にバトンを渡す時だなと決心しました。(44歳)  年齢ではなくてやり切ったという気持ちの部分です。  今世界ランキングは2位になっていますが、1位はトルコで頭一つ抜けているところもあるかもしれませんが、私は日本が決勝で戦っているイメージしかありません。 所属先、家族、友人などの応援があって、今の自分たちがあって、悔いのない準備が出来て、大会で自分たちの最大のパフォーマンスを発揮するのには、大会のこの場に立てたのは幸せだなあと思う事で、きっと自分たちの力は発揮できると信じ得います。 

2012年の時には左目は全く見えずに、右目は少しだけ光を感じる状態でした。 現在がほぼ全盲です。  目で見るだけが「見る」ではないと思っていて、ゴールボールをするときには音で「見る」、と言う感覚になっています。 人間の83%は視覚から得ていると言われています。 17%を最大限に生かしながら、工夫、努力して回りからのサポートがあれば、100%に近づいて行けるなと思えた時に、大したことはないかなと近づいてているんだと思います。 

20歳のころに小学校の先生を目指していました。 網膜色素変性症が発症して左目が3か月で一気に見えなくなりました。 右目が徐々に周りから視野が消えてゆく状況でした。  見えなくなってゆく自分自身が受け入れられなくて、他人に言えない時期がありました。  怖くて眼科になかなか行けませんでした。 1年半引きこもりました。  福岡で独り暮らしをしていました。 熊本の母から電話が良くかかって来ましたが、中々言えませんでした。  22歳のお正月に実家に帰って、目のことを伝える決心をしました。 駅を降りた時に母の声が聞こえてきましたが、そりらを向いても母の姿は全く見えませんでした。  見えないことを言ったら、最初は信じてくれませんでしたが、所作でようやく判ってくれました。(母は泣き崩れていました。) やっと言えたなと思いました。

母から「大丈夫よ。 目が見えなくなっても出来ることを一緒に探してゆこう。 一人やないけん。」と言ってくれて、自分の居場所はちゃんとここにあるんだなと思いました。  私ってなんでもかんで当たり前になっていたなと思いました。 家族のことを身にしみて感じました。 目に見えていたころとは違って、生活は激変しました。 工夫をしながら、基本的には音、形を使って段々生活に慣れていきました。  今でもそうですが化粧、特に眉毛を書くのは難しいです。 

「見えないので完璧は目指さない。」 見えなくなって、完璧な人はいないという風に気付きました。 自分の生き方が楽になりました。 2004年アテネで日本の女子が胴メダルを獲得したニュースの声が聞こえてきました。 ゴールボールを初めて知りました。 運動は苦手でスポーツには全く興味がありませんでした。 見えなくてもスポーツが出来るんだという事を知りました。 もしかして私にも出来るのではないかと言う、可能性を感じました。 

ゴールボールは3対3で行うチームプレイです。 アイシェードというものを付けます。(視覚障害の程度の差があるので平等にする。)  バスケットボールぐらいの大きさで中に鈴が入っています。(重さ1,25kg)  鈴の音を聞きながらそれぞれのゴールに向かってボールを転がしたりバウンドさせたりしながら相手のゴールを狙うチーム競技です。  私はディフェンスが得意なので、センターポジションにいます。 どこからボールが来るのか、出所を捜して、どの位置からどの高さで投げられてくるのか、予測しながらディフェンスをする、それが凄く難しいです。 音を聞いていろいろと予想をして、実際と合致した時にはすごい喜びを感じます。 床を転がす時の最高速度は50km/hぐらいになります。 顔に当たったりするときもありますが、恐怖はないです。  出来ないことを出来るようにするにはどうしたらいいか、探求することが楽しいです。 

初めてコートに立ってボールがゴールに入ったのに対して、全然反応が無かったです。  時間がかかりましたけど強くなりました。  音で見る力、足音、呼吸、などを耳で聞き、床の振動などを感じながらとか、18m先の鈴の音はこんなふうに聞こえるのかとか、迫ってくる距離感などを想像します。 あざの分だけ強くなります。 辞めたいと思ったことは1回もないです。 挑戦する楽しさを知ってしまったので、どうやったら出来るんだろうという、そっちの方が強かったです。