2025年12月18日木曜日

中林美恵子(早稲田大学教授)        ・トランプ2.0の衝撃

中林美恵子(早稲田大学教授)        ・トランプ2.0の衝撃

今年世界から大きな注目を集めているアメリカのトランプ大統領、アメリカ第一主義を掲げ各国に厳しい関税措置を打ち出すなど、国内外に多きな影響を与えている二期目のトランプ政権は、これから何を目指そうとしているのか、そしてアメリカ国民がトランプ大統領を支持する背景には何があるのか、中林美恵子さんに伺います。 中林さんはアメリカの大学院で学び、アメリカ合衆国連邦議会上院予算委員会で10年に渡り国家予算編成の実務を担うなど、政治の中枢で働いた経験がある、アメリカ政治の専門家です。 

二期目のトランプ政権は一期目と大分違う政権になっていると思います。 一期目は政治には素人であり、政治経験も軍隊の経験もないという事で、周りの意見を聞いた閣僚の選択などをしていました。 本人がちょっと変わったことをやろうと思っても、閣内に止める人が複数いた。  本人がやりたいことをやるために、反対する人を入れないために、本人の直接知っている人を選んだという事が特徴です。 一期目よりもトランプカラーが相当出る政権になっている。  移民に対するアメリカ人の脅威感というものを、二期目もしっかりと強硬な形で受け継いで実行している。  移民を強制送還するために、外から来た人を探し出し捕まえてゆくというようなことを強硬に行うようになりました。 そこに予算もたっぷり付けるというようなこともしています。  

関税については最初は中国にかなり関税をかけましたが、バイデン政権になっても取り外されませんでした。  日本も鉄鋼、アルミなどに関税をかけられて、バイデン政権になってから例外をたくさん作って、重い部分を回避してきたところがあります。 二期目になると思い切った関税をかけてきています。  物作りがアメリカになくなってしまったという事で、アメリカの一つの敗因として見ているわけです。  製造業をアメリカに取り戻したいという事です。  バラバラになった家族を作り、コミュニティーを作り、伝統的な価値感を継承してゆく大事な人間の営みだという考え方に基づいているんだと思います。

今はマネーゲーム、AI、デジタルとか,そういったものに移ってしまったことにより、昔ながらのスキルを活かすことが出来ない、取り残された人が出て来てしまった。  こういう人たちが麻薬性のある、とても安く手に入る薬に頼って、そこから抜け出せなくなって地域が荒廃し、自殺者も増え、アメリカの社会が荒んでゆく、これを直したいと言うのが製造業だという事が根底にある。 トランプ大統領を支持する人たちの中に、そういったアメリカ社会に対する危機と言うものが可成り積もり積もって、今迄の伝統的な主流派の、政治家、官僚に任せておいても今後も全然変わらないのではないかと言う気持ちが積もっていた。  そこに出てきたのがトランプ氏だった。  このぐらい変った人でないとアメリカの積もり積もったアメリカのエリート政治は直せないのではないかとおもって、かけてみた人が二期目にも出て来た。  それを生んでいるアメリカ社会を私たちが見て行かないと、このトランプ現象は、トランプ氏が退任してからも続く可能性はある。  彼は退任した後も発信するかもしれない。 

自分たちが追い詰められたという感覚持った人たちは、伝統的な主流派の政治を見えてこなかった人たちなんです。 そこに光を当てたというのがトランプさんの天才的なところで、ワシントンにいた人たちにはこれが目に入っていなかったんでしょうね。  現在のトランプさんのことを見ると、本当に極端なことを言うし、昨日言っている事と今日言っている事とひっくり返るし、いったいどんな人なんだろうと、私たちはかく乱されてしまうというところがあり、トランプ研究に走ってしまう。  トランプさんは今自分が何を考えているのか、次にどんな手を打つか、知られたくない人なんだそうです。  アメリカの或る方からやっていることをしっかり見ないと間違えますよと言われました。  長期的に見ると、何故トランプさんを選んだのか、有権者の方を見る必要があります。 

11月4日に行われた地方選挙、ニューヨークの市長選挙がありました。 バージニア州、ニュージャージー州で知事さんが選ばれました。  どの選挙区でも民主党が勝ちました。  反トランプ政権の芽がふきだしたかのように見えますが、よく見るとちょっと違いが見えます。  ニューヨークの市長選挙で当選したマムダニ氏は34歳で、イスラム教徒、インド系の方ですが、ウガンダで生まれて幼い頃アメリカに来て、国籍を取った移民中の移民です。  ニューヨーク州や市などで、今迄光を当てられてこなかった問題がどんどん膨らんだという事に気が付かされるんです。  民主党の強いところですが、民主党の予備選挙で前のニューヨーク州の知事をしていたアンドリュー・クオモが戦ったが、予備選挙で負けました。   本選挙では民主党ではなく無所属として立候補しました。 でもマムダニ氏が勝ちました。 民主党の中にも反エリートの感覚が出て来てるのではないかと思います。 今迄の政治に怒る根拠を持っていた。 過去5年間の家賃の上がり具合を見ると、25%ぐらいあがっているが、給料は1%ぐらいしか上がっていない。  自分の家賃の半分ぐらいを家賃に費やさなけrばならない人たちも出て来ている。  24%ぐらいは貧困層だと言われる。

民主党の中で起こったニューヨークの市長選挙の構図と、トランプさんが共和党の中から芽が出て来た構図は、実は同じではないかという風に言われる。  マムダニ氏が言っていることは出来るかどうか、本当にわからない、(おそらくできることは相当多いと思うが)それでも投票してみようというのはよっぽど限界に来てるのかなと言うところはあります。 アメリカの政治風土のなかにぼちぼちトランプさんが唱えたような、反エリートの意識が出て来ていて、(エリートに対する失望)ニューヨークの市長選から左側からも見えて来た。

年収でもトップの0.01%ぐらいの人は、1979年をベースにゼロと考えれば今は800%ぐらいアップしています。  トップ1%だと600%アップ、下の20%はほとんど伸びていない。     格差がどんどん広がっているという事も、アメリカ社会の暗い部分、不満が大きくなる部分だと思います。  トランプ政権が起爆剤になった要因だと思いますが、これが混乱や分断の象徴と言われていますが、ヨーロッパには来ていますが、日本も来る可能性があります。 極右派の票がどんどん伸ばしています。  トランプさんの真似をする政治家が各地に出て来ているものと思います。 それが分断に繋がっていくという事があると思います。

保守とリベラルが分断と言う風に見がちでしたが、エリート支配と生活者主義、生活者が主導すべきだという考え方というものと、グローバリズム対地域主義というものが台頭してきているので、いまはその変遷期であるが故の混乱ではないかと私は考えています。  アメリカは変革を目指す事のできる、社会実験を出来る国なんです。 アメリカが第二次世界大戦後、グローバル社会のリーダーとして、民主主義のお手本としてかなりリーダーシップを発揮してきた。  アメリカに負担や責任が押し付けられているではないかと、同盟国として責任を果たしていないのではないかと、今迄のエリート政治家だと今までのまんまのことをするに決まっているので、落ちこぼれた人に変えてもらうしかないという気持ちになるまで、相当引きずりました。 オバマ大統領は世界の警察官ではないと言った。  バイデン大統領は同盟国と一緒になって、格子状の安全保障の体制を作ってみんなで抑止力を発揮すればいいのでないかと言う言い方に変って行った。  トランプさんになったらアメリカ第一主義となった。    他の国もそうしろと、9月の国連の演説で堂々と述べている。  世界秩序が変ってしまうかもしれないという時代に入ってきています。

アメリカは日本にとっても世界にとっても重要な国です。  トランプさんの言動だけにとらわれることなく、振り回されていたら、トランプさんさえいなくなれば、アメリカは元通りに戻るという間違った期待が出てくる可能性がある。  アメリア国民は大きな壁を感じてしまっているので、トランプさんが選らばれたと認識すれば、私たちの見方も変わらなければならない。  ヨーロッパも混乱しています。  今の日本は世界がうらやましがる状況にあると思います。  日本の社会の安全さ、人間同士のコミュニケーションのいいところが残っている。バランスを取りながら日本の良さを残したら、世界中の人がうらやましがる気がしました。  

私が生まれた家は渋沢栄一の産まれた家のすぐ近くなんです。  農家で泥まみれになって遊んでしました。  知らないことに対する興味は大きかったのかもしれません。  政治は混乱していますが、アメリカには素晴らしい個人個人がいっぱいいると思います。 横並びと言う意識はなく、頑張った人にはそれなりの報酬と光の当たるものが与えられて当たり前という事で、自分は自分と言う自由があります。 日本にいる時には周りを気にしていましたが、こんなに自由なんだ、何をやってもいいんだと感じました。 お互いに認め合うという事もありました。  

来年は1月に中間選挙があります。 もし下院だけでも民主党が取ってしまったら、おそらく弾劾裁判にかけられると思います。  上院は100人のうち1/3づつ2年毎の改選なので、政党がひっくり返るという事は厳しいが、下院は435人全員が改選になるので、民主党にもチャンスが回ってくるという事で重要な分岐点になると思います。  

若い人は自分の好きなことを捜してゆくという事はとっても大事だと思います。 好きなことは深く集中してできるので、好きなことを捜して思い切りやって欲しいと思います。