桂文枝(落語家 六代) ・落語家60年目にみる景色(前編) ~創作落語300本超え~
桂文枝さんは今年落語生活60年目を迎えました。 若手のころからテレビ、ラジオで超売れっ子となり多くのレギュラー番組を持つ一方、落語家としては300を越える創作落語を手掛けてきました。 60歳からは上方落語協会の会長として活躍、上方では60年振りとなる定席「天満天神繁昌亭」を開場するなど尽力し、文枝さんが入門した当時は数十人だった上方の落語も、今では250人を越えました。 長年上方落語を牽引してきた文枝さんの思い、今の落語界をどう見ているのかなどお話しいただきました。
先代の文枝さんに入門したのが1966年、今年で入門60年目となります。 人数は少なかったけれどそうそうたるメンバーに出会えたことは良かったです。 先輩師匠方とお別れすることになって、先輩方から引き受けたものをこれからどうするのか、今考えています。 黒柳さんが現在91歳で100歳を目指していて、私は90歳を目指して元気に落語がやれるようにしたい。 私は歩いて舞台に行く、そして降りてゆく事が出来なくなったら最後だなあと思っています。 足腰を鍛えていつまでも高座に出られるようにしたいと思っています。
落語の中だけにいたら井の中の蛙になってしまうので、いろいろと勉強して、それを又落語に持ち帰って行くという事で、いろんなことにチャレンジしたいと思ってきました。 創作落語は350近いと思います。 創作落語は同じ名前は使わない。 昔やった創作落語をもう一度覚えるという事になると物凄くエネルギーが要るんです。 名前が全部違うし、80歳を過ぎると物忘れもするようになりました。 時代と共に昔のものができにくくなる。 昔は待ち合わせで行き違いがあってそれをネタにするようなものもありますが、今は携帯があるので行き違いはない。 次の時代に合う落語を作って、それをいろいろな方に覚えていただく。 古いものほど古くならないという感じはしますね。
1982年作、坂本龍馬が近藤勇にゴルフの勝負を持ちかける、近藤勇がゴルフに夢中になって行くという展開。 これは作るのに凄く時間が掛かりました。 テーマ、時代背景も様々で、家族愛を描いたもの、日常のふっとした出来事、時代の世相、とか多種多彩です。 2003年作「妻の旅行」、 定年退職した夫の妻へのぼやきを息子とする。 「宿題」、では兄弟愛が必要なのではないかと問う様なものでした。 塾などに行って取材をしています。 事実があってそれが誇張されて、飛躍して又事実に戻るという、そういうのが無いと、やはり落語は市井の生活のなかから起こる笑いでないと同調できないところがある。 第一作は1964年「アイスクリーム屋」 「アルバイト幽霊」 学生時代いろいろなアルバイトをしたので役に立ちました。
作風は最初のころとかなり変わってきたと思います。 笑いで客が中心でしたが、落語はもっと人間の深さ、想いを描かないと(親子愛、夫婦愛、兄弟愛、友情など)、そこに根底がないと面白いものは作れないというのが段々わかってきて、そこには笑いが無くても深さが大事だなあと思います。 深さがあるから又笑いが大きくなる。 現代の古典を作るというのはぴったりするような気がします。 「温故知新」古いものを温め直す、皆に伝わるように温め直す。
目標を500作と大きなことを言ったものですから、それをやるのにはどうしても時間が掛かります。 90歳まで頑張らないと絶対作れない。 作った後に練り直して練り直して覚える作業が大変です。 若い弟子(30人ぐらい)に勉強して貰おうと思って、グループラインを使って毎日問題を出しています。 答えを観て順位をつけて、又問題を出します。 弟子にはきっちり教えていかないといけないと思っています。
今年82歳なので、中継風景で「屋島の合戦」を伝える落語を、30~40年ぐらいやっていないのですが、チャレンジしようと思っています。